第80話 魔物の島のダンジョンに挑戦
「そろそろ、ダンジョンが開くころだな」
俺はそう呟く。
俺たちは今、魔物が犇めく島、南の魔物の島にあるダンジョンを攻略しようと6時の開門を待っているところだ。
「まだ入れそうにないな」
一角がそう言って、ふにふに、と入り口に張られているバリアーのような魔法障壁を触る。
見かけは光でできたカーテンのようなのだが、感触はゴムっぽくて破壊も突破も不能な何かという不思議な魔法障壁だ。
しかも、日が変わって6時になると、このゴムみたいな障壁が最初に触れた人間とその仲間には通れるようになってしまう、ただの光のカーテンのようになってしまう不思議な魔法の障壁なのだ。
「でも、よかったよ。これでワーフロッグとも戦うことになっていたらお祈りポイントがさらに減ってダンジョン攻略も厳しくなったかもしれないね」
明日乃がほっとした顔でそう言う。
「そんなにお祈りポイント減ったのか?」
俺は今まであまり気にしていなかったお祈りポイントが気になり、ポイントを確認するステータスウインドウを開く。
表示は『29500』と表示されている。
「29500ポイントかあ、結構減ったな。 今朝は40000ポイント弱くらいあったよな? 10000ポイント近くどこへ行った?」
俺は慌ててみんなに聞く。
「うーん、補助魔法のかけ直しかな? 1回1000ポイントだし。あとは真望ちゃんの『炎の壁』? あれも1回1000ポイントだからね」
明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
「そうなのか。地味に蓄積していくんだなお祈りポイントの消耗は」
俺はがっかりする。
1日のお祈りポイントの回復量である6000ポイントくらいに抑えたかったんだが全く収まっていなかった。
「まあ、麗美さんの機転で、だいぶ結界へのダメージが減らせたのはよかったな。あれで、結界に籠って守り続けていたら結界の張り直しにかかるお祈りポイントで凄い事になっていたかもしれない」
俺はさっきの戦いを思い出しながらそう言う。
いかにマナを使ったスキルや魔法を使ってお祈りポイントの減りを抑えるかが俺達の今の課題だ。
「本当にワーフロッグまで相手にしていたら大変なことになっていたかもな」
俺はこの世界のMP代わりであるお祈りポイントの消耗の激しさと残りの少なさに呆然とする。
「おい、ダンジョン、入れるようになったぞ。みんなとりあえず中に入ろう」
一角がそう言って、ダンジョンの魔法障壁からひょこっと顔を出す。
とりあえず、ダンジョンに入れば外の魔物からは襲われなくなるので、飛び込むように入る。
「構造は、私たちの住んでいる島のダンジョンと一緒だね」
明日乃がそう言う。
黒い岩でできたブロックを積み重ねてできた壁と所々光る謎の照明。1つ目のダンジョンと全く同じだ。
「ああ。ただ、南のエントランスと北のエントランスの関係は逆みたいだな。俺達の島のダンジョンは北に向かって廊下が伸びていたけど、この島のダンジョンは南に向かって廊下が伸びている。南北逆の構造だな」
俺はそう言ってマップについている方位を示す矢印を確認する。
「とりあえず、みんなで今日の分のお祈りしておかない? お祈りポイント足りなくてダンジョン攻略失敗とか悲しいし」
真望がそう言い、みんな頷く。
とりあえず、ここにいるみんなでお祈りをして4500ポイントのお祈りポイントが加算される。合計34000ポイントになった。
「できれば帰りまで30000ポイントくらいはお祈りポイントの残りをキープしておきたかったけど、ギリギリって感じだな。まあ仕方ない。帰りにも魔物に囲まれる危険性はあるからなるべく温存で行くよ」
俺はみんなにそう言う。
「結構厳しい戦いになりそうね」
麗美さんがそう言う。
確かにお祈りポイントが少ないという事は補助魔法が思う存分使えないということ。格上の敵が出た場合退却を余儀なくされる。
「敵の強さが強すぎないことを祈るしかないな」
俺はそう言い、一応安全エリアであるエントランスと廊下、そして南側にあるエントランスも確認して、俺達の島のダンジョンと構造がだいたい一緒であることを確認してから、ダンジョンの攻略を開始する。
まずは第一階層。北のエントランスにある階段を降り、地下1階に。そしてウッドゴーレムが1体ずつ出るエリアから慎重に進む。
いつもの右手で壁を触って進む方式で少し余計にダンジョンを歩くが迷わない方法だ。
「いたぞ、敵だ」
一角がそう言い、目の前には巨大な芋虫の形をしたウッドゴーレムがいる。ボクシングのサンドバッグくらいの大きさのある芋虫を模したウッドゴーレムだ。
「キャー、何あれ? 気持ち悪すぎる」
真望が悲鳴を上げる。
木製だから、本物の芋虫ほどは気持ち悪くないけどな。
「またウッドゴーレムか。今度はウサギじゃなくて芋虫か」
俺はウッドゴーレムを見てそう言い、一応『鑑定』スキルでステータスを見る。
ビックワーム
レベル 10
巨大な芋虫。飛び掛かってきたり、糸を吐く。
平均的なステータスだが跳躍には注意。
たまに噛みつく。
それを模して神が作ったウッドゴーレム
額にある赤い核を壊すと停止する。
「うーん、1個目のダンジョンとほとんど一緒だな」
俺はそう言って少ししらける。
「そうだな。もう少し強い敵を想像していたんだが」
一角もがっかりする。
「そうは言っても5階のボスがレベル31とかになったら攻略厳しすぎるわよ」
麗美さんがそう言い、確かにそれはキツすぎるなと反省する。
「とりあえず、俺と麗美さんで動きを止めて、明日乃にとどめを刺させる感じかな?」
俺はそう麗美さんに相談する。
「そうね。最初は流司クンにお願いしていいかな? 盾も調子よさそうだし」
麗美さんがそう言い、1匹ずつ出るエリアでは俺が敵を止める役になることになった。
目の前にいる芋虫型のウッドゴーレムに近づき、敵のいる部屋に入ると、ウッドゴーレムが動き出す。うん、芋虫の動きをよく表現していて微妙に気持ち悪い。
大きさはまさにボクシングのサンドバッグが転がっている感じ。飛び掛かられたら痛そうだ。
そう思っているそばから芋虫型のウッドゴーレムが跳躍し、俺に飛び掛かる。
俺は冷静に左手で持った盾で受けるが、それだけの大きさの木の塊だ。重量があり、盾で受けるのが精いっぱいという感じだ。俺は重さで少し押し返される。
ただの体当たりなのでダメージはない。
「速度はそれほどないし、ウサギ型のゴーレムよりはやりやすそうだな」
俺はそう言いながら、芋虫型ウッドゴーレムの首に一撃を食らわせる。
「ダメか、首を落とせると思ったんだけど、意外と硬くて太い首だな」
俺はそう言い盾を構え直す。
ウッドゴーレムは首にダメージを受けて少しの間動きが止まる。
「明日乃ちゃんがすぐ横にいて攻撃した方がよさそうね。コアを貫くだけなら槍の方がいいかも?」
麗美さんがそう言い、明日乃が慌てて、俺のそばに駆け寄ると、木の槍を構える。
「あ~、そういえば、一昨日のレベル31のリザードマンが持っていた青銅製の両刃の斧? あれ持ってくればよかったな。あれならこの芋虫の首落とせるかもしれない」
俺はそう言って後悔する。
青銅の斧は全部青銅製で見かけも格好良かったが、汎用性に欠けそうだったので拠点に置いてきてしまったのだ。
「ああ、言われてみるとそうね。あれはよさそうね」
そう言って、麗美さんは変幻自在の武器を斧に変化させる。
斧というより長柄斧槍?
そのまま麗美さんが動かなくなった芋虫型ウッドゴーレムの首に長柄斧槍を振り下ろし、首を刎ねる。
そして転がった首の核に明日乃がとどめを刺す。
「今の流れ、よかったな」
俺はそう言う。
「じゃあ、流司クンが盾で受け止めて、着地したところを私がウッドゴーレムの首を刎ねて、明日乃ちゃんが額の核を壊してとどめを刺す。2体出るようになったら、同じく盾を持っている真望ちゃんも参加して盾で芋虫を防ぐ感じでいいかな?」
麗美さんがそう言う。
「えっ? 私?」
真望が突然役割を振られて驚く。
「そうだな。2体になったら真望の方から優先して首を落としてくれよ」
俺は麗美さんの作戦に同意し、首を落とす順番も指示する。
「了解」
麗美さんがそう答え、ドロップ品を確認する。
「芋虫の肉、これは要らないわね」
麗美さんの目の前にはリアルな芋虫の死骸が転がっている。かなりグロテスクだな。
真望が悲鳴を上げる。明日乃もちょっと顔が青い。
「ち、ちょっとこの敵は嫌だなぁ」
明日乃がドン引きする。
「これは、多分、ワーフロッグやマーマンあたりの食料として設定されているんじゃないかな? 一つ目のダンジョンのウサギの肉みたいな感じで」
麗美さんが冷静にそう推測する。
「魔物達は食糧難みたいだからうれしいかもしれないけど、俺達の中で喜んで食べる奴は一角ぐらいだしな」
俺はそう言ってがっかりした気分になる。
まだ1個目のダンジョンのウサギ型のウッドゴーレムが落としたウサギの毛皮の方が利用価値あるな。
「失礼だな。私だって芋虫は食べないぞ。まあ、他に食べるものがなくて餓死しそうだったら考えるが」
一角はそう言う。
やっぱり食べるのか。
「うーん、食糧難の為に持ち帰るものじゃないよね?」
明日乃も反応に困る。
ぶっちゃけ、食糧難になったとしたら、1個目のダンジョンでウサギの肉を集める方が正解だ。
「放置かな? 明日の朝になればダンジョンを管理する精霊がドロップアイテムも処理してくれるらしいし」
俺はそう言い、みんなも賛同、芋虫の肉は放置することにした。さすがに誰も食べないし。
そんな感じで、芋虫のウッドゴーレムは、俺が盾で受け、麗美さんがハルバードで首を落とし、明日乃が核にとどめを刺す。これの繰り返し。
たまに糸を吐くが盾で防げるし、剣で斬れる程度の強度だ。
ただし、1回、明日乃が食らって簀巻きにされたが。
剣で斬れるし、秘書子さんの話では火であぶると溶けるそうだ。
「お、これはいいんじゃないか? 真望もうれしいんじゃないか?」
俺は新しいドロップアイテムを拾って真望にそう声をかける。
「なによ? 芋虫の肉なんていらないわよ?」
真望が胡散臭そうな声で俺に答える。
「絹糸だってさ。こいつがカイコなのかは怪しいけどな」
俺はそう言って真望に真っ白い糸の束を見せる。
ご丁寧に紡績、糸にちゃんと紡いである。
「絹糸!? 見せて見せて」
真望が糸に飛びつく。
「こ、これはいい糸ね。たくさん採れればシルクの布ができるかもしれないわ」
真望が糸に夢中になる。
「シルクの布でウェディングドレスとか作ったら素敵よね」
麗美さんが乙女の様なしぐさでそう言う。
そして明日乃と真望の目が光る。
「集めましょ!」
「うん、集めるわよ!」
明日乃と真望がそう言ってやる気になる。
2人がやる気になったところで、ウッドゴーレムが2体になり、真望も前衛に加わり、3体になったら一角も加わる。そして横から麗美さんが長柄斧槍で芋虫の首を刎ねていく。
そんな感じで無難に1階を進んでいき、4体出るエリアに突入。
4体出ても流れは同じ、最初に麗美さんが芋虫を叩き落し、首を刎ねとどめを明日乃が刺し、そこからは3体出た時の対処と同じ。問題なく進むことができる。
とりあえず、ドロップアイテムは芋虫の肉だけではなく、稀に絹糸を落とすようだ。このあたり、最初のダンジョンのウサギ型ウッドゴーレムと一緒だな。毛皮の代わりに絹糸ってところか。
そして途中で現れた、宝箱代わりの木箱も中身は一緒。粗悪な青銅製の斧という木の棒に槍の穂先みたいなものが着いた安っぽい武器だった。
「うーん、なんだか、最初のダンジョンと似すぎていてがっかりだな」
一角がそう言う。俺もちょっとがっかりだ。
「たぶん、このあたりは初心者向けのサービスフロアなんじゃないかな?」
明日乃が一角に答える。
低レベルな魔物もレベル上げをしやすいように設定されたダンジョンってことか。
そして、ボス部屋に到着。
ボス部屋はレベル10の芋虫型ウッドゴーレム4体に、レベル10のカエル型ウッドゴーレムがボスとして登場。このレベルだと雑魚扱いだな。
そして芋虫とカエルが並ぶと違和感しかない。
結局5体出ても流れは一緒、明日乃が戦闘に加わり、普通に芋虫を避けて、明日乃一人でも芋虫の核にとどめを刺す。そして、順番に麗美さんが首を落とし、明日乃がとどめを刺す。
ぶっちゃけ、首を落とす作業、要らなかったかもしれない。
それだけ明日乃も成長しているってことだ。
最後のボスは一応『鑑定』スキルで解説を見てから倒す。
オオツメガエル(ひっかき)
レベル 10
凶暴なカエル。飛び掛かって爪でひっかく。
平均的なステータスだが跳躍には注意。
それを模して神が作ったウッドゴーレム
額にある赤い核を壊すと停止する。
外にいるオオガエルと大して変わらないな。大型犬かイノシシくらいの大きさのカエル。見た目も似た感じだ。爪がちょっと危なそうだけどな。
俺はカエルの首を青銅の剣で攻撃するが太すぎて切断はできず、ただ、傷が増えると動きも遅くなるようで動きが悪くなったところを細い足、前後左右の足を切り落とし、明日乃を待つ。
「りゅう君、ちょっと可哀想だよ、それ」
明日乃が手足をもがれ地面で陸に打ち上げられた魚のように暴れているカエル型ウッドゴーレムを見てそう言う。
「いや、手足が細かったから結構剣でも斬れるなって試したらこうなった」
俺は申し訳なくなって謝るようにそう言う。
本物のカエルでやったら、確かに動物虐待かもしれないな。
明日乃が申し訳なさそうに、動けなくなったカエル型ゴーレムにとどめを刺し、1階をクリアする。ドロップアイテムは青銅のツメ。木箱には粗悪な青銅の斧。俺達のレベルからしたらショボすぎる。
「どんどんいこう」
俺はそう言って、2階も攻略をめざす。2階も一人だけレベル21な明日乃を育成する感じだ。
2階も結局、レベル10の芋虫型ウッドゴーレムがレベル10のカエル型ウッドゴーレムになっただけ。首を落とすのが面倒になったが、麗美さんのハルバードの前には芋虫もカエルも一緒だった。
「一角、カエルの肉は拾うか?」
俺は一角にカエルの肉を食うか聞いてみる。
オオツメガエルのウッドゴーレムを倒すと、カエルの後ろ足の皮を剥いた状態、クリスマスで食べるような鳥のモモ肉に似たカエルの肉が落ちる。しかも生だ。
そしてたまに青銅の爪も落ちる。これは1個目のダンジョンの爪ウサギと同じだな。
「さすがに邪魔だろ? これから青銅の防具とかも手に入るかもしれないしな」
一角がそう言う。
荷物に余裕があれば持ち帰るのか?
1階と同じように進んでいき、明日乃を育成、難なくボス部屋に到達する。
2階のボスはワーフロッグを模したウッドゴーレムだ。レベルは20で、実際戦ったワーフロッグよりスペックは上だ。というより、いきなり強くなりやがった。
武器は粗悪な青銅の槍だが、俺達のレベルも21~24と近接している。そして、防具は全身皮防具を装備している。残り4体はツメガエル型ゴーレムとカエルの親子が同居している感じで1階のボス部屋ほどの違和感はなかった。
そして、木製のウッドゴーレムが皮鎧着ても意味ないんじゃないかという毎回の違和感はある。
2階のボスは俺が抑えつつ、周りのとりまきをみんなで押さえ、1体ずつ麗美さんが首を刎ねていく。明日乃一人でもツメカエルゴーレムはとどめを刺せたので、順番にツメガエル型ゴーレムを倒していって、最後にワーフロッグ型のウッドゴーレム。
しかもウッドゴーレムの方が本物のワーフロッグより強いかもしれないな。首が太い上に木製で硬い。しかも頸動脈がないので首を切ったくらいじゃ倒れない。
まあ、額の核を破壊すれば倒せるので最初から核を狙えば弱いのだが。
とりあえず、俺が抑えて、麗美さんに長柄斧槍で首を刎ねてもらう。1回では落とし切らず、2回、3回と首に斧を当てて首を刎ねた。
うーん、明日乃の育成には向かないな。ワーフロッグ型のウッドゴーレム。
ドロップアイテムは皮の靴。新品がドロップするので明日乃が今履いている靴と履き替える。
まあ、拠点に皮の防具シリーズは在庫沢山あるので持ち帰るほどでもないな。傷んでいたら交換くらいか。
「急に強くなったわね」
ボス部屋を進み、エントランスに出て麗美さんがそう言う。
「そうだね。いきなりレベル20だよ。一つ目のダンジョンのボスがレベル18だったから順当と言えば順当なんだろうけど」
俺はそう答え悩む。ワーフロッグの数が増えたら結構ギリギリな戦闘になりそうだ。
「とりあえず、3階のいけるところまで行ってみよう。きつくなったら、獣化スキルの補助魔法とか獣化義装もあるし、多少無理はできるだろうから」
俺はそう言うとみんなも頷く。
「レベル21じゃないのが微妙に腹立つな」
一角がそう言ってイライラする。
確かにレベル21になると経験値が5倍以上に跳ね上がるからな。
「それは4階のおたのしみってところかな?」
俺は一角にそう答え笑う。
まあ、レベル20でもレベル10の敵に比べたらランク2の敵扱いで20倍の経験値になる。
とりあえず、3階の入り口に入ってみると、いつも通り、2階のボスが3階の雑魚として出てくる。
俺が盾で抑え、麗美さんが長柄斧槍で首を刎ねる。そして、落ちた首にある核を明日乃がとどめを刺す。
ワーフロッグを5体、2体同時に出始めるところまで狩ったところで明日乃のレベルがレベル22になる。
そして、少し戻って休憩する。
「次はどうしようか? 一角の戦闘が結構ギリギリだよな?」
俺は一角に聞いてみる。
剣術で何とか放っているがワーフロッグの力押しで少し押されている気もする。
「ワーラビットみたいにAGI特化じゃないからそこまで苦戦はしないが、レベルが近いだけあってギリギリって感じだな」
一角が素直にそう答える。
戦闘にシビアな一角らしい。こういうところでは嘘や虚勢を張るような態度を取らないのは好感が持てる。
ボス部屋での安定性を考えて明日乃のレベルを上げるか、雑魚を安定して狩れるように一角のレベルを上げるか、3体出てくるエリアになった時の為に真望のレベルを上げるという選択肢もある。真望は剣術がまだ苦手だしな。
「とりあえず、一角ちゃんのレベルをあげちゃいましょ? 明日乃ちゃんのレベルを上げても焼け石に水な気もするし、明日乃ちゃんも逃げるだけなら獣化スキルの補助魔法でなんとかなるし」
麗美さんがそう言う。
まあ、それが無難だな。
そんな感じで元の場所に戻り、敵が2体出るエリアで一角のレベルを上げる。
一角のレベルは2体を3組、6体倒しただけでは上がらず、3体出るエリアで1組倒したところでレベルが上がる。
「今度は私が結構ギリギリよ」
真望がそう言って悲鳴を上げる。
レベル23で剣技が未熟。無傷で戦うのはギリギリって感じらしい。
「じゃあ、次は真望のレベルを上げるか」
俺はそう言い、みんなも承諾する。
そして、そのまま、真望がとどめを刺す役に代わり、4体出るエリアの手前で真望のレベルは上がらなかった。
「うーん、補助魔法無しだと詰んだ感じかしらね」
麗美さんが困った顔で言う。
「3階から急に強くなったからね。明日乃が前衛に立って1体抑えるのは厳しいよな」
俺もそう言って困る。
明日乃はINT特化で戦闘力が著しく低い。同じレベルの敵でも苦戦するし、かなりレベルに差をつけないと無傷で戦うのも難しいのだ。
「麗美姉が獣化の補助魔法使って1体抑えつつ先に1体首を刎ねる。その後は今までと同じ感じでって感じでどう?」
一角がそう提案する。
「私が無理。麗美さんが1体倒すまでに私がボコボコにされるかも」
真望がそう言って慌てる。
「それじゃあ、麗美さんと真望が獣化スキルの補助魔法使う感じだな」
俺はそう答える。
「りゅう君、私の補助魔法はいいの?」
それを聞いて明日乃がそう聞いてくる。
「お祈りポイント節約だ。手詰まりになるまで獣化スキルで何とかする感じだな」
俺は明日乃にそう答える。
明日乃が頷く。
「真望ちゃんのレベルが上がったら明日乃ちゃんのレベル上げに変更だからね」
麗美さんが明日乃にそう言う。
「じゃあ、戦闘再開するか」
俺がそう言うと麗美さんと真望が補助魔法を使いステータスを上げる。
俺はそれを確認して、通路の先に見えるワーフロッグ型の4体のウッドゴーレムの集団に向かって走り出し、飛び掛かる。他のメンバーも俺を追いかけるように走り出し、それぞれの対峙する敵に飛び掛かる。
真望も補助魔法でかなり強化されているから余裕そうだな。
俺は真望の状況を確認し、自分の対峙する敵に専念する。
さすがに青銅の剣でウッドゴーレムの太い首は落とせないが、冷静に青銅製の粗悪な槍の柄を剣で叩き切る。これだけでかなり戦闘力が落ちる。
一角や真望にはここまで余裕はないようだ。何とか武器をはじいて、隙を見てウッドゴーレムにダメージを与えている。
そうしている間に、麗美さんが自分の対峙するワーフロッグ型のウッドゴーレムの首を落とし、真望の対峙しているワーフロッグに斬りかかる。
「真望ちゃん、首落とすの面倒だから、核をつぶしちゃって」
麗美さんがそう言い、ウッドゴーレムにもう一度攻撃を仕掛け、ウッドゴーレムの動きがダメージで一時的に止まる。
「その方が早そうよね」
真望がそう言い、手に持った青銅の剣で動きの止まったウッドゴーレムの額にある核を突き、破壊する。
そして光りになって消えるウッドゴーレム。
同じように一角の対峙するウッドゴーレムに麗美さんが斬りかかり、止まったところで真望がとどめを刺す。
そして最後は俺の対峙するウッドゴーレムも同じようにして倒す。
そして最後に麗美さんが最初に首を落としたウッドゴーレムにとどめを刺して戦闘終了。
「真望ちゃん、次行くわよ。補助魔法が勿体ないから」
麗美さんはそう言って次のウッドゴーレム4体に向かって走り出す。
俺達も慌ててそれを追いかける。
そんな感じで4体2組を倒したところで真望のレベルが24になり、そこから明日乃がとどめを刺す役をする。
ボス部屋前まで行った所で、明日乃のレベルは上がらず。経験値6000くらい必要だ。
俺達はボス部屋前で全ての敵を倒し、一度休憩する。
「結構厳しいな」
俺はそう言う。
「次の階の敵の強さ次第では撤退かな? 今でも結構ギリギリだもんね」
麗美さんが俺にそう答える。
「まあ、全員補助魔法掛けで次の階のボス部屋前までは行けるんじゃないか?」
一角はそう言ってやる気を出す。
実際のところ、明日乃の補助魔法はステータス全般を上げ、レベル1上がるくらいのステータスをあげられる。
そして、各自の獣化スキルの補助魔法はAGIを特化してあげるので、回避率や攻撃速度を集中してあげられるためレベル2ぐらいの敵の差を誤魔化せる。実質、補助魔法の二重掛けでレベル3の差を埋められる感じだ。
ただし、一角の獣化スキルの補助魔法は癖があってダンジョンでは使い物にならないのだ。
「一角はダンジョンでは補助魔法使えないから苦戦するだろ?」
俺は少し冷やかすようにそう言う。
「最悪、獣化義装でダメージ受けてでも進むって手がある」
一角は自慢げにそう言うが、危険すぎるだろ、その考え。
「明日乃ちゃんのレベルが上がったら、一角ちゃんのレベルを上げないとダメそうね」
麗美さんが呆れ顔でそう言う。
「そうだな」
俺も同意する。
「とりあえず、ボス部屋覗いてみない?」
真望がそう言うので、ボス部屋の扉を少し開けて、いつもののぞき見をする。
そして鑑定スキル。
マーマン
レベル 23
2足歩行の魚。そこそこ知能がある。
全身に鱗が生えていて防御力はそこそこ。
平均的なステータス。
水属性で水属性の魔法を使う事もある。
中級魔法まで使える
それを模して神が作ったウッドゴーレム。
額にある赤い核を壊すと停止する。
「魔法使うってさ」
「魔法使うのね」
俺と麗美さんが声を合わせて言う。
「ウッドゴーレムってたぶん経験値とか気にしなそうよね」
明日乃が不安そうに言う。
確かにそうだな。外の魔物達はマナを使う魔法は経験値が損するから魔法を出し惜しむ傾向があったが、ウッドゴーレムにその感覚があるとは思えないな。
「ヤバいわね。しかもボスのレベル23よ」
真望がそう言う。
俺がギリギリ相手できるレベルってところだろうな。
「鑑定結果を見ると、私達と同じ魔法を、中級魔法を使ってくる可能性があるって事か」
一角がそう言う。
「水属性だから、多分私と同じ、氷の矢の5連発とか使うわよ。きっと」
麗美さんがそう言って嫌な顔をする。
「一人1発ずつならまだ耐えられるからいいけど、1人に集中して5発とか撃たれたら死人が出るぞ。まあ、演習ダンジョンだからHP1になったらダンジョンから追い出されるだけだろうけど」
俺はそう言う。
「さすが5連発を1体の敵に集中して当ててとどめを刺すという汚い手を思いついた流司の意見だ。逆に敵にやられたらいやな技だな」
一角が冷やかすように言う。
俺ができることなんだから敵もやる可能性があると考えるのが普通だしな。
「どうするの? りゅう君?」
明日乃が俺に聞く。
「とりあえず、俺が先行して入って魔法を撃ってきたら金剛義装だっけ? すべての攻撃を無効にする獣化スキルを使って魔法を引き受けるから、俺が魔法を受けきって、ボスが俺に攻撃を続けているようだったら取り巻きの4体を倒してくれ。5体全てが反撃に回るようなら俺が金剛義装を解いてボスの相手をする。そんな感じででどうだ?」
俺はそう提案する。
「危なくない?」
明日乃が心配そうにそう言う。
「ぶっつけ本番でやるなんて勇気があるな」
一角が俺を冷やかすように言うが、こいつなりに心配しているのだろう。
「まあ、獣化義装を着て飛び込むから金剛義装が不発でも獣化義装の方がダメージを吸収してくれるはず。マナが勿体ないし、痛いけど。その方がみんなも安心だろうし」
俺は一角の突っ込みにそう答える。
「それなら、まあ、命の危険性はないかな?」
麗美さんが少し心配そうにそう言う。
「明日乃も獣化義装しとけよ。取り巻きとはいえ、このレベル差だと不安だしな。もちろん補助魔法二重掛けもだ」
俺は明日乃にそうアドバイスする。
もちろん俺も補助魔法二重掛けだ。
「一応、全員補助魔法二重掛けしておきましょ? あと、いつでも獣化義装は使えるようにね。何が起きるか分からないし」
麗美さんがそう言い、みんなも頷く。
「上手くいったらそのまま、4階に行って行けるところまで行くよ。作戦はボス部屋と同じ感じに金剛義装で俺が魔法を受けて、受けきったら麗美さんと一角でウッドゴーレムを倒す感じで」
俺はそう言ってみんなの承諾を確認するとボス部屋に向けて武器を構える。
そして、ごくん、とツバを飲む。
この扉の先に待っているのはレベル21越えの敵。
魔法を使ってくる敵との2度目の闘いが始まる。
次話に続く。
【改訂部分】かなり変わりました。ほぼ書き直しです。
2階まではサービスフロアなのは変わりません。カエルの代わりに芋虫が敵になりました。魔物目線で餌となるものと考えた時にワーフロッグやマーマンのエサになるものということで芋虫になりました。ドロップアイテムの絹糸に真望と明日乃が夢中になりました。
3階の敵を強くしました。改訂前は敵の強さはレベル15でしたがレベル21、魔法も使えるようになっています。改訂前はヌルゲーだったのでかなり敵を強くしました。




