第78話 拠点への帰還とひと時の休憩
【異世界生活 52日 14:00】
「ここまでくれば安全だろう」
俺達は、白い橋を戻り、魔物の島を脱出、いつもの島にたどり着く。
見晴らしのいい草原にある木の日陰で休憩し遅い昼食を食べ始める俺達。
「荷物の重量オーバーで、退却なんて、リアルゲーム過ぎるだろ?」
一角が不満を言う。
「アイテムボックスとかあればいいんだけどね」
明日乃が笑ってそう言う。
「なんだそれ? アイテムボックスって」
俺は聞きなれない言葉、いや、一度聞いたことあったかもしれないな。それについて聞いてみる。
「ああ、異世界転生ものの小説のお約束だよ。チート能力とアイテムボックス、あと、転移魔法とかかな? アイテムボックスっていうのは持ち物をいくらでも詰め込める、『〇らえもん』のポケットみたいな感じ? 重さも感じないし、いくらでも詰め込めるから、小説的にも色々無茶できるんだよ。今回みたいに荷物がいっぱいになったから撤退みたいなこともしなくてもいいし、岩とか丸太とか、下手したら家とかもしまえちゃう、チートスキルだね」
明日乃がそう説明してくれる。
「ぶっちゃけ、竹とかけい石運びだって、1人で一瞬のうちにできてしまう。仲間もいらない、1人で何でもできる。生魚入れても時間が止まって腐らない、氷も溶けない、そんなスキルだな」
一角がそう言う。
「そりゃ、あったら便利だな」
俺はそう答える。
「残念ながら、この世界にはアイテムボックスというスキルは存在しません、また、転移魔法など含め、時間や空間、次元などを操る魔法は神の力を越えかねない魔法の為、禁止されています。使い方を誤れば世界を壊すレベルの危険なスキルです」
秘書子さんがそう言う。
「そんな危険なスキルとは思えないけどな」
俺は秘書子さんにそう答える。
「まあ、危険なスキルな気はするね。アイテムボックスの中と外では時間の流れは違うし、次元の境みたいなものもあるだろうし。変な話、魔王とかラスボスがいるゲームとかだったら、アイテムボックスに入れちゃえばいいし、アイテムボックスに魔王の首だけ入れて、閉めたら最強の武器、ギロチン武器だもんね。というか、自分が入ったら不老不死で時間も超越しちゃうみたいな?」
明日乃がそう言う。
「明日乃もいろいろ思いつくな。結構、異世界物っていう小説好きなのか?」
俺は明日乃の発想に舌を巻く。
「あ、あくまでも、そういうのが好きな友達が文芸部にいただけだからね」
明日乃が焦った顔でそういう。
別に明日乃がそういう小説好きでも問題ないと思うんだが。
「まあ、アイテムボックスに大岩いっぱい詰め込んで、ラスボスの頭の上で開けるだけでも凄い武器になるし、水を大量に入れてダンジョンに流し込んで浸水させるなんてこともできるしな。まあ、色々ゲームバランス崩す使い方は思いつくな」
一角がそう付け足す。
「ある意味ブラックホールだよね。空気とか全部入れたら世界が終わるし、世界や惑星丸ごと入っちゃうかも?」
明日乃が一角の言葉に付け足す。
「まあ、さすがに神様が制限かけるだろ。で、この世界は時間を操る、空間を操るみたいなスキルは使用禁止の制限がかかっていると。まあ、神様が一人の人間にやりたい放題、世界を壊せるような能力を与えるなんて、アホ過ぎるしな」
俺はそう言って笑う。
「それをやっちゃうのが異世界物の小説なんだよ。流司は分かってないな」
一角がそう言う。
なんか一角も異世界小説とかRPGとか結構好きっぽいな。
まあ、〇らえもんも、使う人間が使えば世界征服とかもできそうだしな。そう言うのは考えちゃダメって事だろう。
「せめて、荷物を運ぶスキルとかあればいいんだけどな」
一角がぼそっとそう言う。
「ありますよ」
秘書子さんがしれっと言う。
「あるんかい」
俺は一応、関西人っぽく突っ込んでおく。
「獣化スキルの生活魔法に『霊獣召喚』を追加します。マナを10消費することで、それぞれの精霊やけもみみに対応した霊獣を召喚できます。動物の形をした精霊に近い存在で、10分すぎると消滅しますので、使う時間をあらかじめ決めてマナをつぎ込んでください」
秘書子さんが新しいスキルを紹介してくれる。
「マナ10消費なら試しに使ってみるか。『霊獣召喚』!」
一角が無計画で何も考えずにスキルを使う。
一角の目の前に風の渦ができ、それが形を作り、大きな鳥になる。
緑色のガラス細工の様な光でできたような良く分からない物質の大きな鳥だ。ワシっぽい?
「イズミ様の霊獣はワシで、あまり重くない荷物ならば、指示した場所に運ぶことができます。その際は、目的地までに霊獣が消えないようにマナを十分につぎ込んでください。マナ10で10分飛行できます」
秘書子さんがそう説明する。
「それは面白いな。とりあえず、60分もつくらいマナをつぎ込んで荷物を運ばせてみよう」
一角はそう言って、霊獣に手をかざすと手からマナが送られていく。
一角の順応性の高さはすごいな。雰囲気で霊獣にマナを補充したよ。
そして、ワシの形をした霊獣に一角のリュックサックを持たせたが飛べない。
バナナの葉っぱでできたリュックサックにはドロップアイテムが入っているし、青銅製の防具が結び付けられていて10キロ以上ありそうだし、さすがにワシの大きさからして持ち上げられなそうだ。
「一角ちゃん、元の世界のワシが物を持って飛べる重さって7キロが最大らしいから、それより軽いものを持たせてあげればいいんじゃない?」
明日乃が豆知識でそうアドバイスする。
「それじゃあ、青銅の胸当てくらいなら持てるか?」
一角はそう言ってリュックサックから青銅製の胸当てを外すとワシに渡す。
少し重そうだが、少しふらつきながら拠点に向かって飛んでいく。
「そこそこ便利そうだな。10匹くらい召喚すればみんなの荷物運べるんじゃないか?」
俺は冷やかすようにそう言う。
「10匹も召喚したらマナが無くなる」
一角が少し怒った声でそう言う。
マナを1200ポイント消費して2時間ワシの霊獣を召喚して70キロの荷物を運搬する。まあ、悪い選択ではない気もするが。
「それと、魔物に攻撃されたり、魔法で撃ち落とされることもあるので周りに敵がいるようなところで使うのはお勧めできません。防御力はかなり低いです」
秘書子さんがそう説明する。
「微妙に使えないな」
一角がそう言ってがっかりする。
「俺なんかカラスだぞ。荷物を運ぶ能力はゼロ。ん? でも、闇の力で隠ぺい能力があるうえに索敵能力がある、視界を共有できる。ん? これ、一角のワシより使えるんじゃないか?」
俺は自分の霊獣召喚の説明を読んでみる。
とりあえず、他のメンバーも自分の霊獣を調べてみる。
明日乃は兎。光るウサギらしい。自分の前を先行させて明かり代わりになるそうだ。
麗美さんは亀。川を渡ったり船代わりになるそうだ。一人乗りなのが残念だが。
真望は狐。火でできた狐で物に火をつけたり、弱い火を飛ばすことができるらしい。森に火を放つとか物騒な作戦には使えそうだ。
「うーん、それぞれ微妙だな。困ったときには役に立ちそうだが、常時使える便利スキルって感じではないな」
俺はそう言ってがっかりする。所詮、生活魔法レベルってことか。
そんな感じで雑談しながら、お弁当を食べ、落ち着いたところで、拠点に帰る。
【異世界生活 52日 16:00】
「お帰り、流司お兄ちゃん。今日は早かったね」
琉生がそう言って迎えてくれる。
「ああ、ドロップアイテムが結構重くてな。途中で帰ってきた」
そう言って、みんなも青銅の防具や青銅の槍の穂先の入った鞄を下ろして、一休みする。
「そういえば、さっき変な鳥が青銅の鎧を置いていったわよ」
鈴さんがそう言って一角が霊獣に託した鎧を見せる。
「ああ、あれは私の霊獣だ。物を運んでくれるらしい。鈴さんや琉生にも新しい獣化スキル追加されてないか? マナを込めることで色々できる動物みたいなのが召喚できるらしい」
一角がそう言って霊獣の事を説明する。
「あー、あるね。私は土の属性の虎が召喚できるんだって。荷物を運べるし、乗り物としても乗れるらしいよ」
琉生がそう言う。
「琉生は結構当たりだな、それ。色々使えそうだ」
俺は少しうらやましくなった。
「私は牛だってさ。金の属性の牛。荷物を運べるし、乗ることもできるらしいけど、足は遅いんだって」
鈴さんは少し残念そうにそう言う。
「鈴さん、牛は100キロ近い荷物を運べるらしいから、きっと便利だよ」
明日乃がうらやましそうにそう言う。
ドロップアイテムの運搬に使えそうだな。ただし護衛は必要だが。
「え、ちょっと、流司、なにそれ? 私が作っている青銅の盾より質が良くない?」
鈴さんが俺の背負っていた青銅の盾に気づき声を上げる。
しまったな。ドロップアイテム見せる前に説明しておくんだった。
「いや、敵の親玉が着ていた防具なんだけど、数は多くないみたいだし、青銅の盾を作ってくれると嬉しいよ。防具なんかはサイズも合わないから誰も着られないし、鈴さんの鍛冶の技術があればサイズとか調整して着られるようになるかもしれないし、鈴さんの鍛冶技術は必要だよ」
俺は慌てて鈴さんのフォローをする。
「ちなみに、防具は1割のお祈りポイントを使う事でサイズ変更も可能です。青銅の防具を魔法の箱で交換する場合は1個20000ポイントなので、その10分の1、2000ポイントでサイズ調整が可能です」
秘書子さんが余計な事を教えてくれる。
「2000ポイント、全身サイズ調整しても8000ポイントか。それはお得だな。早速サイズ調整しよう」
一角がそう言う。
「おまえ、お祈りポイントの無駄使いが癖になっているんじゃないか?」
俺はそう言って一角を冷やかす。
「ほ、ほんとだ。お祈りポイントが凄く減っている」
鈴さんがさらにショックを受ける。
「ご、ごめん、鈴さん、今日は凄く強い魔物が出るし、魔法は使われるし、たくさんの魔物に囲まれるしで、魔法を使いまくるしかなかったんだよ。ちょっと、一角は調子にのって、魔法使いすぎた感はあったけど」
俺はさらに慌てて鈴さんをフォローする。
「流司だって魔法使ったじゃないか」
一角がさっき繰り返したような会話を始める。
とりあえず、色々説明して、お祈りポイントの件は謝り、鍛冶道具の交換が遅れることも謝る。あと、青銅の防具は、全員分揃えるのはまだ先になりそうなので、青銅の盾だけでも引き続き作ってもらえるようお願いする。
「とりあえず、青銅の盾は作るけど、次は、もう鋼の武器や防具ね。先回りして作らないと私が無能扱いされそうじゃない」
鈴さんがそう言ってやる気になる。
「そのためにも鍛冶道具、早めにお願いね。金槌と火鉢はもらえたけど、金床がないと何もできないし、変幻自在の武器で代用するのは嫌でしょ?」
鈴さんが追加でそう言う。
確かに変幻自在の武器をあまり乱暴に使うのは嫌だな。
お祈りポイントは現在40000ポイント。80000ポイントまで貯まらないと鍛冶道具は交換禁止って言ってあるから8日以上必要だな。
そして、魔物狩りでこれからも魔法を使いそうだし。
「それにしても、中途半端に時間余ったな」
一角がそう言う。
陽が落ちるには2時間弱時間もあるしな。
「一角、今日の反省会するぞ。一角も真望も今日は魔法、というか、お祈りポイント使いすぎだ。あんな戦い方していたら1年でダンジョン攻略は無理だろ?」
俺は叱るようにそう言う。
「お祈りポイントはなるべくこの世界で手に入らないものを入手するために使いたいしね」
明日乃がそう言う。
「とりあえず、さっきの場面は真望ちゃんと一角ちゃんが攻撃魔法を打ちまくる必要はなかったわよね? 結界で待ち構えて、落ち着いて武器で攻撃すればよかったし、敵が距離を置くようだったら獣化義装で防御を固めて攻撃を仕掛けても良かったし」
麗美さんがそう言う。
「そんなこと言ったら、麗美さんだって、魔法を食らう直前に獣化義装でも金剛義装でもいいから着ぐるみ装備して防御すれば、真望が火の魔法連発する必要もなかっただろ?」
一角がそう言い返す。
「そうね、それは言えるわね。あの時は走って逃げるんじゃなくて獣化義装で受けるのが正解だったわ」
麗美さんは真摯に反省する。
「まあ、お祈りポイントは回復するのに時間がかかるけど、マナは敵を倒せば回復するんだし、レベル15以上の敵を倒せば300ポイントくらい回復する。お祈りポイントで攻撃魔法を多用するくらいなら、マナを使って獣化義装をもっと使った方がいいな」
俺はみんなにそう提案してみんなも頷く。
「最悪、マナが足りなくなったら、この島のダンジョンで貯めるっていう作戦もできるし、お祈りポイントを貯めるよりは健全かな?」
明日乃はそう付け足す。
「攻撃魔法はよっぽどピンチの時とか殲滅力が足りない時に使う感じでなるべく武器で敵を倒すことを考えて戦わなくちゃダメね。お祈りポイントがいくらあっても足りないし、回復させるのに時間がいくらあっても足りないわ」
麗美さんがそう言ってお祈りポイントの節約を徹底させる。
「ただ、明日乃の結界魔法と補助魔法は別だ。ランニングコストはいいし、緊急の時に出し惜しみすると仲間に死亡者がでるかもしれない。明日乃の魔法だけはあまり出し惜しみして使いどころを見失うのは避けて欲しいな」
俺はそう言い、麗美さんも頷く。
「わかったよ。りゅう君。でも結界張ると動けなくなるから使う場面は選びそうだけどね」
そう言って頷く明日乃。
「とにかく、お祈りポイントを節約してくれないと、私が金床を手に入れるのがさらに遅くなるわ。金床さえあれば鍛冶のできることがかなり増えそうだし」
鈴さんが一角と真望にお願いするように言う。
鈴さんはいつものペースだった。
「明日乃ちゃんは麻布作り手伝って。今日は魔物狩りでできなかったし、麻布の服も欲しいでしょ?」
真望はそう言って明日乃と麻布作りを始めるようだ。
「流司クンはグラインダーお願いね。もう少しで青銅の盾もできそうだし」
鈴さんにそう言われて俺は鍛冶を手伝うことにする。
【異世界生活 52日 18:00】
「はい、これ。試作の青銅の盾だよ。ドロップ品よりシンプルだけど、使い勝手は悪くないはずだよ」
そう言って、鈴さんが丸い青銅の盾を渡してくれる。
ドロップ品の青銅の盾より一回り小さくて使い回しはよさそうだ。
「そういえば、変幻自在の武器なしで、よく盾つくれたな。型にする丸盾なかったろ?」
俺は思い出したように鈴さんに聞く。
「ああ、それは一昨日のうちに粘土で盾の型を作って麗美さんに乾燥しておいてもらったからそれを鋳型にしたんだよ。麗美さんが、魔物狩りには変幻自在の武器をどうしても持っていきたいからって、逆に相談された感じだけど」
鈴さんがそう答える。
「なんか気が利かなくてごめんね、鈴さん」
俺はそう謝る。本来なら気づいて変幻自在の武器を置いていくのが筋だったが、最近、麗美さんが変幻自在の武器を使うことが多かったので気が回らなかったのだ。
「まあ、麗美さんが気付いてくれていたからよかったよ。手間はかかったけどね」
鈴さんがそう言って笑う。
とりあえず、6人で魔物退治を想定することを考えて、今日拾った盾と出来上がった盾の分引いてあと4つ青銅の盾を作ってもらうことになった。
そのまま、みんな集まったので夕食をとり、日課のお祈りをして、就寝する。
【異世界生活 53日 4:00】
今日は午前中ゆっくりして、午後に作業を少しして終わる半休の日にした。
休みなのだが、毎晩早く寝るので早く起きてしまうのが悲しい。
「おはよう、りゅう君。やっぱり起きちゃうよね。なんだかんだ言って毎日8時間近く寝られているし」
明日乃も起きてしまったようだ。
「おはよう、みんな」
俺と明日乃は結局そのまま、起きてツリーハウスから出て、たき火のまわりに行く。
他のメンバーも結局起きてしまったようだ。一角と麗美さん以外は起きていた。
「お休みと言われてもやることないし、寝ようと思っても寝られなかったよ」
琉生が残念そうに言う。
「琉生は今日の予定はどうするんだ?」
俺は気になって聞いてみる。
「自由時間があるのなら、今日は畑の作業かな? 少しずつ畑も広げたいしね」
琉生がそう答える。
「それじゃあ、いつもの作業と変わらないじゃないか」
俺はそう言って笑う。
「真望はどうするんだ?」
次に俺は真望にも聞いてみる。
「結局、私も同じね。やることないなら麻布作りかな? 裁縫自体趣味みたいなものだし」
真望がそう答える。
「じゃあ、私も真望ちゃんの手伝いしようかな?」
明日乃が真望の話を聞きそれに乗る。
「これじゃあ、休みの意味ないな」
俺はあきれ顔でそう言い笑うしかなかった。
「ちなみに私も青銅の盾をつくるよ。ぶっちゃけると、私は魔物狩りに参加していないし、休む理由がない」
鈴さんも予想通りの答えを言う。
「というか、折角だから、明日乃とデートでもしてきたらどうだ? 二人っきりで」
鈴さんが冷やかし気味にそう言う。
「二人でか。どこか安全で楽しい娯楽がある場所があればいいんだけど、この島も危険と言えば危険だし、結局デートと言うより危険な探索になっちゃうんだよな」
俺は少し考えてそう答える。
「そう言われるとそうだね。いつもの探索と変わらないし、しかも二人だと危険が増すし、意味ないか」
鈴さんが何故か本人の事のようにがっかりする。
「だったら、2人でダンジョンに入ってダンジョンのエントランスでエロいことでもすればいいんじゃないか? あそこなら安全だろ?」
そう言って一角が起きてくる。
「アホか? 神様が作ったダンジョンをラブホテル代わりに使えって事だぞ。不敬にもほどがあるだろ?」
俺は一角に呆れてそう言う。
「りゅう君、ラブホテルって」
朝食を作っていた明日乃がそう言って顔を真っ赤にする。
「流司お兄ちゃんやる気満々だね」
琉生が明日乃の料理を手伝いながら、笑ってそう言う。
子供みたいな琉生に言われるとちょっと感覚が狂うな。
「琉生、他のメンバーに変な事を教わり過ぎるなよ」
俺はそう言って軽くしかる。
「琉生だって、もう立派な大人だぞ」
一角が少しからかい気味にそう言うが、琉生は「うん、うん」と何度も頷き、一角の言葉を真に受ける。
「というか、ダンジョンって2人で入ったら残り3枠で熊とか入ってこないのかしら?」
真望が素朴な疑問を浮かべる。
「基本的に最初に入った者が、残り4人を承認して入らせるという形式をとっているので、最初に入った者が入場を拒めば動物はもちろん、魔物も入ることはできません」
秘書子さんが真望の疑問に答える。
「なるほど、普段は無意識に最初に入った人間が承認していたって事か。よくできているな。それなら、流司、ラブホとして使えるな。俺達には遠慮せずに使えよ」
一角がそう言って納得する。というか何言っているんだ? こいつは。
「そういえば、ダンジョンといえば、明日はどうするの? 魔物狩り、早朝から行ってダンジョン挑戦してみる?」
真望が話題を変えるようにそう聞く。
「そうだな、どうするか? ダンジョンより、ダンジョンに入る権利を取り合う前哨戦の方がメインになりそうだよな。三つ巴の戦いに俺達が加わるみたいな状況にもなりかねないんだろ? 下手したら、昨日の3倍の敵を相手にしないといけなくなるみたいな状況になるもんな。しかも3種類の魔物、トカゲ人間に、カエル人間に、まだ見ぬ何か?」
俺はそう言って唸る。ちょっと悩むよな。
「まあ、でも、変幻自在の武器がもう1本増えたら色々やりやすくなるし、便利じゃない?」
琉生がそう質問してくる。
「そうだな。それも一理あるんだよな。最悪、ダンジョンの入り口を占拠して明日乃の結界魔法で粘るとかもありと言えばありだよな。魔法は抑えめで、結界内から武器で攻撃しながら持久戦に持ち込むみたいな?」
俺は琉生にそう答える。
「またお祈りポイント減っちゃうじゃない」
鈴さんが嫌そうな顔でそう言う。
「まあ、次のダンジョンは水の精霊が管理するダンジョンだったよな? それなら麗美さんの意見を聞くのがいいんじゃないか?」
一角が俺にそう言う。まあ、そう言われるとそうか。
「まあ、私はどっちでもいいわよ。お祈りポイントもまだ余裕があるし、結界を使った持久戦も可能じゃないかな?」
真望は賛成のようだ。
「私は、お祈りポイント減らされると困るんだけど、変幻自在の武器が増えるというのはありがたいな。ノコギリや工具が増えるわけだから色々と作業はしやすくなるし、私の立場からすると難しいところね」
鈴さんはお祈りポイントも大事だが、変幻自在の武器が増えるのも大事というスタンスらしく、ダンジョンに挑むのは他のメンバーの意見に任せるとのことだった。
「でも、ダンジョンに挑戦できても、5階のボスを倒せるとは限らないよね?」
明日乃が朝ごはんを作りながらそう聞いてくる。
言われてみるとそうだな。
「ダメ元で挑戦してみても面白いんじゃないか?」
一角はそう言って楽しそうな顔をする。
「一角、魔法は無断使用禁止だからな。この間みたいに攻撃魔法連発されたら、結界の維持も怪しくなるからな。武器で戦える敵は武器で戦え。いいな?」
俺は一角に念を押しておく。こいつは隙あらば魔法使いたい魔法馬鹿だからな。
「とりあえず、ご飯にしよ? ご飯を食べていたら麗美さんも起きてくるだろうし、麗美さんの意見を聞いて決めればいいよ」
明日乃がそう言って、朝食を配る。熊の干し肉をお湯で戻して野菜と煮たスープだ。
「たまには魚も食べたいな。北の川に魚取りに行くか? 川遊び楽しいしな」
一角が突拍子もない事を言う。
「北に行くなら私も行くよ。野菜が収穫できるし。流司お兄ちゃんも明日乃お姉ちゃんも行くでしょ?」
琉生が乗り気だ。
「流司が行くなら、私も行こうかな?」
真望が少し照れながらそう言う。
「私は、パスかな。青銅の盾を少しでも早く完成させたいし」
鈴さんは居残り希望らしい。まあ、拠点に誰か残ってもらえるとありがたいけどね。
「そうね、川遊びなら少しお休みっぽいしいいかもね。水浴びもできるし」
明日乃も水浴びにひかれたらしい。
「あそこの滝はシャワーみたいで気持ちいしな」
一角はそう言って明日乃をメンバーに引き入れる。
「しょうがないな。荷物持ちも必要だろうし、熊が出たら困るしな。俺も行くよ」
俺は渋々付き合う事にする。別に明日乃や他の女の子の水着姿が見たいわけじゃないぞ。
「何? 楽しそうな話してるけど、お姉さんはのけ者?」
そう言って麗美さんも起きてくる。
「いやいや、麗美さんが寝坊助なだけでしょ?」
俺はそう突っ込みを入れてみんなもあきれ気味に笑う。
そんな感じで、かなり遅れて、麗美さんも朝食に加わり、さっき議論が止まった、魔物の島でのダンジョン攻略の話を再開する。
「うーん、私は早く自分用の変幻自在の武器が欲しいかな? 今は流司クンの武器を借りているだけだし、やっぱり、変幻自在の武器が2本になるのは大きいわよね? 1回ダメ元でいいからダンジョン挑戦権争奪戦に参加してみてもいいんじゃない? 魔法で反撃しまくれば魔物も一網打尽にできるだろうし、ちょろちょろ、魔物の根城を襲うより効率よさそうだしね」
麗美さんはダンジョン攻略賛成のようだ。
「魔法の使用はなるべく抑えてね」
鈴さんが困った顔をする。
「じゃあ、魔物の集落潰しより先にダンジョン攻略をめざすか。そうなると、明日は5人で魔物狩りだな。一人だけダンジョンの外で待つ、って訳にはいかないだろうし」
俺はそう皆に言う。
「だったら私が休むわね。裁縫とかしたいし」
真望が魔物狩り休みを希望する。
「でも、真望ちゃん、レベル上がったし、真望ちゃんの魔法『炎の壁』は必要じゃない?」
麗美さんがそう言う。
「確かにそうだな。炎の壁もそうだが、ダンジョン攻略するなら少しでもレベルが高い方がいいしな」
一角も真望の参加を期待する。
「もう、明日だけよ。魔物の数が落ち着いたら麻布作りに戻るからね?」
真望が渋々参加を承諾する。
「じゃあ、私がお留守番だね。ちょうど農作業でお休みの予定だったし」
琉生がそう言って留守番役を引き受ける。
「それじゃあ、琉生ちゃん、農作業が終わったら、お姉さんと新しい窯作りしましょうか? 小麦粉ができるのを見越してピザ窯かな?」
鈴さんが少し気持ち悪い猫なで声で琉生を誘う。
「鈴さん、耐熱煉瓦作りは禁止だからね。琉生も協力しちゃだめだぞ。とりあえず、魔物狩りが落ち着くまでは窯作りは禁止ね」
俺は鈴さんにそう言い、鈴さんががっくりと肩を落とす。
ピザ窯とかちょっと魅力的な響きだが我慢だ。
とりあえず、明日は、昨日のメンバーで早起きしてダンジョン攻略権争奪戦に参加する流れになった。そして、今日の川遊びには麗美さんも参加するらしい。
「今日の川遊びは早めに帰るからな。水浴びと魚獲るだけで終わりな。早く寝て、明日早起きしないといけないからな」
俺はそう言って、朝食兼作戦会議を終わらせる。
これから北の平原に急いで行って帰ってくる感じなので、今日の剣道教室はお休みだ。
そんな感じで、今日は休日と言いつつ、北の平原に野菜採りと川魚獲りに行き川魚を少し多めと野菜と野菜の苗を持って少し早めに帰ってきて夕食も早めにとり、早めに寝る。
鈴さんは川遊びに行かなかったので、眷属と竹を取りに行くついでに水浴びにしてから寝るそうだ。
ちなみに拾った青銅の防具のセットは、魔法の箱でサイズ調整してもらい一角が着ることになった。一角というより麗美さんのサイズに合わせれば多くのメンバーが防具を共有できるしな。お祈りポイント8000使ってしまった。残り32000ポイントだ。
盾は俺が持ち、鈴さんが作った盾は真望が持つことにした。
明日はダンジョン攻略とその為にも挑戦権を獲得するための争奪戦に加わることになった。
次話に続く。
【改訂部分】新しい獣化スキル『霊獣召喚』が追加されました。ダンジョンドロップの回収対策です。アイテムボックスが存在しない異世界なので動物で運搬する機能みたいなものを追加しました。




