第16話 土器作りの続きとさらなる危険
【異世界生活 4日目 2:15】
「りゅう君、どうしたの?」
夜の見張りを始めた明日乃が俺にそう聞く。
「ああ、俺もすでに結構寝たから眠れなくなっちゃってさ。明日乃と話でもしながら何か作業しようかなって」
俺はそう答えて、たき火の傍に座る。
「そうなんだ。なんか起こしちゃってごめんね」
明日乃がそう言って申し訳なさそうな顔をする。
「謝る事じゃないよ。俺も明日乃が会いに来てくれたのはうれしかったし」
俺がそう言うと、明日乃が照れる。
それを見た俺も、恥ずかしい事を言ってしまったことに気づき照れてしまう。
「たまにはりゅう君から来てくれてもいいんだよ」
明日乃がそう言って笑うが、
「いや、男がそれやったら夜這いだし、明日乃に迷惑だろ? そして、一角に見つかったら確実に殺される」
俺はそう言って、愛想笑いをする。
本当は俺から行きたいって気持ちもあるんだが、明日乃の気持ちをまだ完全につかみ取れていない、というか自信がまだないのだ。
それに、明日乃ラブな一角がマジで怖いしな。
「私は歓迎なのにな」
明日乃がそう言うが、俺は愛想笑いを続けるしかなかった。
「枯草、持ってきた」
話が途切れたところで後ろからレオがやってくる。お前も起きてたのか。
「ああ、1人で暇だったから、枯草で草鞋みたいな靴作ろうかなって考えていたら、レオが起きてきて枯草集めに行ってくれたんだよ」
明日乃がそう言ってレオから枯草を受け取り、レオの頭を撫でる。レオはもう、ツンデレではなくデレデレだな。
「靴か、確かに必要だよな。昨日の森の散策でも足元に気を付けながら歩いていたし、木の棘とか刺さったら大変だもんな」
俺も賛同する。
「怪我して破傷風とかに罹ったら大変だもんね。まあ、破傷風の菌がこの世界にいるか分からないけどね」
明日乃がそう言って笑う。
というか、逆にどんな細菌やウイルスがこの世界にいるか分からないとも言えるよな。
「医学知識が欲しいな。あと薬とかも作れたらいいんだけど」
俺はそう言って、頭にある人を思い出す。昔お世話になった人だ。
「まあ、本当に危なくなったら、神様にお願いすれば病気とか直してくれるんじゃないかな?」
明日乃がそう言って楽観的になる。
「そうだよな。そういうことにしておこう」
俺は明日乃を変に不安にさせないようにその話は終わりにする。
その後俺たちは荒縄を作る作業のように草鞋づくりをやってみる。明日乃が分からないところはアドバイス女神様の秘書子さんに聞いたりして、何とか形にする。
「レオもいるでしょ? 靴?」
3人の草鞋っぽい靴を作り終えた後で、明日乃がレオに聞くと、
「オレは要らない。足の裏の皮固いし、病気もすぐ治る」
レオがそう言う。まあ、動物が靴履くかと言われると履かないし、肉球だし、獣人っぽい眷属も靴は要らないのかもな。
「そっか、残念」
明日乃が残念そうにそう言う。
「将来的には革靴っぽいものも作りたいね」
気を取り直すように明日乃がそう言い、俺も頷く。
草鞋では守れるのは足の裏だけ。つま先とか足の横は守れないもんな。イノシシの皮とか沢山とれるようになったら革靴作りにも挑戦したいな。
残りの枯草は、3人で荒縄にする作業をする。荒縄はいくらあっても足りなそうだからな。レオはひたすら枯草を石で叩いて柔らかくする係だ。
そんな作業をしていると、周りが明るくなりだし、一角も起きてくる。
「なんだ、お前たち起きてたのか」
一角がそう言う。
「ああ、おはよう、一角。さすがに10時間は寝られないからな。早めに起きて作業をしていた」
俺は挨拶がてらそう答える。見張り役ではない場合、10時間寝られるんだよな。
「そうだ、これ、一角ちゃんに。今日は森に入るから必要でしょ?」
明日乃はそう言って昨晩作った草鞋のような靴を渡す。
「ああ、確かに地面に何か落ちていたら危険だし、ありがとう、明日乃」
一角が嬉しそうにお礼を言う。
枯草を叩いて柔らかくしたのは俺とレオだけどな。
「そう言えば、私も昨夜作ったものがある」
一角がそう言って家に戻り取ってきたのは、弓矢?
「弓矢か? なんかちっちゃいけど」
俺は気になって聞いてみる。
弓矢というには少し小さい。子供が遊ぶのにちょうどよさそうな大きさの弓矢っぽい何かだ。
「ああ、本格的な弓矢を作るには接着剤になるものがないから、小さいものを作った。これは魚捕り用の弓矢だ。この世界にはゴムみたいなものがなさそうだから水中用のモリは作れない、だから弓の力を利用したモリ代わりの水中弓矢って感じか」
一角がそう説明しながら魚捕り用の弓矢をみせる。
確かに普通の弓矢とは違い、水中用なのか、矢羽はついていないし、矢の尻の部分には紐がつながっていて魚に刺さった後逃がさないようになっていた。弦の紐は木の皮を撚って作ったみたいだな。
「なるほどね。魚捕りのモリって射出時にゴムの加速があるから魚が簡単に捕れるって仕組みらしいもんね。ただのモリで突いても魚が逃げるのに間に合わないし鱗を貫く力も足りないらしいよね」
明日乃がそう言う。
そうなのか? 前にテレビで見たことある、芸能人が無人島で魚捕りをする番組、言われてみるとゴムのついた文明の力に頼ったモリを使っていたな。あのゴムが重要なのか。
「そうそう、あのゴム代わりになるのがこの小さな弓ってわけ」
一角が明日乃に理解してもらえたことを嬉しそうに喜ぶ。
「それと、流司、秘書子さんに松脂がないか聞いてくれ。接着剤代わりに使いたいんだ。あるなら、マップにマークもお願いして欲しい。接着剤と竹で本格的な和弓に近い弓が作りたいんだよ」
一角が俺にそう言う。さすが元弓道部だ。弓道部員だからといって弓矢を作れるかは知らんが。
しかたがないので秘書子さんに松脂があるか聞いてみる。本当に弓ができるのなら戦力増強になるしな。
「秘書子さんに聞いたら、あるらしいぞ。松脂。森の少し入ったところ、拠点の結構そばみたいだ」
俺がそう言うと、一角はステータスウインドウのマップを開き確認している。
「なるほど、結構近いな。明日乃、水を汲みに行くついでに松脂も採りに行っていいかな?」
一角が明日乃に聞く。
「うん、いいよ。弓があれば色々助かりそうだし」
明日乃はそう言って了承する。
「ああ、それと、一角、接着剤を作るなら、松脂と灰を混ぜるといいらしいぞ。秘書子さんが教えてくれた。あとで作り方も教えてやる」
俺は一角にそうアドバイスしてやる。
「ああ、あのインディアンが使っていた天然の接着剤ってやつかな?」
明日乃がそう言う。
明日乃も知っていたのか。物知り過ぎるな。
「それと、流司、その神様に貰った変幻自在の武器ってやつも貸してくれ。もっと竹をとっておきたいし、水筒も作りたいからな」
一角にそうせがまれる。
「そうだな。水筒が増えるのは助かる」
俺はそう言って筒状の武器、神様に貰った変幻自在の武器を渡す。
「そうだね。竹の水筒はいっぱいあった方が飲み水に困らないもんね。土器も乾かすのに2週間以上かかるし水汲み用の壺とか作っても使えるのはまだだいぶ先だしね」
明日乃がそう言って竹の水筒作りに同意する。
そうなんだよ。土器作るにしても、一晩くらい乾かせばすぐに焼けて次の日には土器として使えるものかと思っていたが甘かった。
一角は今の会話をまじめに聞いているのか聞いていないのか、俺が貸した変幻自在の武器を槍に変えてぶんぶん振り回して遊んでいる。
「そういえば、その武器って、無くしちゃったり、魔物に盗られちゃったりしたらどうなるの?」
明日乃が気になったらしく俺に聞かれる。
「秘書子さん、どうなる?」
俺はみんなに聞こえるように聞いてみる。
「魔物や動物に盗られても、問題はありません。所有者はリュウジ様になっていますので、『戻ってこい』と念じればリュウジ様の手元に戻ってきます」
秘書子さんがそう教えてくれる。
俺はそれを聞いて面白い事を思い付き、
「戻ってこい」
俺はみんなに聞こえるようにそう叫ぶ。
すると、一角が振り回していた槍、変幻自在の武器が消えて、俺の手の中に現れる。
「なんだ!?」
一角が驚きの声をあげる。
「こういう事らしい。盗られても、無くしても、俺が戻ってこいと念じれば戻ってきてくれるらしいよ。この武器」
俺は少し自慢げに明日乃に説明する。
「流司、私たちが森に入っている時に、それ、やるなよ。私の武器がなくなるからな」
一角はそう言って俺の手から槍を奪い返す。
「それと、明日乃、一角。水浴びのついでに、イノシシの毛皮も川の水で洗ってきてくれないか。海水で洗ってほったらかしだし、キレイに洗って服の材料にしたいしな」
俺は二人にそうお願いする。
たぶん、1回洗ったくらいじゃ使えないだろうけど。
「そうだね、早めに葉っぱの服は卒業したいもんね」
明日乃が少し恥ずかしそうに体を見回しながら言う。
そして、それぞれ作業に入る。
明日乃は昨日の残りの山菜と干し肉で朝食作り、俺は昨日、地面に埋めた粘土の掘り起こし、一角とレオはバナナを取りにいったり、薪を取りに行ったりする。
「みんな、ご飯できたよ」
明日乃の声が聞こえてきたのでたき火の方に戻る。
バナナと薪を持った一角とレオも戻って来る。
「昨日作った土器も見てきたけど、問題なさそうだった。ただ、暗闇の中で作ったせいか、明るくなってから見ると結構不格好だったけどな」
俺は笑いながらそう言って掘り起こしてきた粘土、大きな草で包んだ粘土を置く。
「じゃあ、今日作る分はしっかり作らないとね。昨日の土器は失敗して割れちゃう可能性が高いかもしれないし、今日は色々工夫しながら作ってみようね」
明日乃がそう言う。まあ、焦って夜中に強行で作った土器だからな。期待しないことにしよう。
3人でたき火を囲んで、昨日の夜と同じような野菜炒め? 野菜煮込み? よく分からない長ネギと玉ねぎの中間みたいな山菜? 塩味の山菜とイノシシ肉の料理を食べる。
「干し肉も今日食べたらなくなっちゃいそうだから、次のことも考えないとね。またバナナ生活かな?」
ご飯を食べながら、明日乃が少し寂しそうにそう言う。
「明日あたり、海で魚でも採ってみるか? 一角も魚捕り用の弓を試したいだろうし、魚がダメでも貝とかあるかもしれないし」
俺はそう言って貴重なたんぱく源の確保をめざす。
「そうだね。土器作りも一段落するし、せっかく海があるんだから魚を採れるようになるといいよね」
明日乃も賛成して、何もなければ明日は魚を採ることにした。
「あと、明日乃、川に行く前に流司に塩の作り方教えておいてくれよ。二人が川に行っている間、塩作りをさせるから」
一角が明日乃にそう言う。一角は本当に塩にうるさいな。
まあ、俺としたら、秘書子さんに聞けばいいといえばいいんだが。
一昨日の夜に焼肉を食べながら、塩の作り方は明日乃から簡単にだが聞いた。今日は実際作る為にもう少し詳しく聞く。
海水を煮詰めて水分を飛ばすだけではダメなこと。水分を完全に飛ばしてしまうとにがりという、苦み成分も混ざってしまうので、ギリギリまで煮て、塩が析出しだしたら、上澄みを捨てて塩を乾燥させるそんな作業の流れを教わった。
「あと、麻みたいな植物が採れるところは知っておきたいね。将来的に葉っぱの服や毛皮の服からは卒業したいし、麻紐ができれば色々道具が増えそうだし」
明日乃がそう言う。
「麻紐は私も欲しいな。弓の弦になるものが欲しいし、今回は木の皮を撚って紐を作ったが、手間がかかるし、どうしても1本1本が短くて結び目が多くなって弓の弦としては不安が残るしな」
一角もそう言うので秘書子さんに聞いて麻の生えている場所を全員のマップに表示してもらった。粘土のあった崖のもう少し先に麻の生えているところがあるそうだ。そして麻布の作り方も教えてくれたが、結構難易度高そうだ。
「秘書子さんの話だと、麻から糸を作って布を作るのはかなり面倒臭いらしいぞ。とりあえず、枯れた麻の茎を叩いたりしてから編み、なんちゃって麻紐くらいはできるらしいが、布となるとかなり難易度は上がるらしい。麻の茎を水に浸けて腐らせて、繊維だけ取り出して、それを糸にしてその糸で布を織る。布を織る織機とかもないと麻布は到底作れないらしい」
俺はそう言って麻布はまだまだ先の話だと説明する。明日乃が結構がっかりする。そりゃ、葉っぱの服からは卒業したいよな。
「まあ、逆を言えば、秘書子さんの知識と人が増えれば、人海戦術で将来的には麻布も作ることができるってことでもあるけどな」
俺はそう付け足し、明日乃を慰める。
「そうなると、もっといっぱい神様にお祈りして早く仲間を増やしてもらわないとね」
そう言って、早速神様にお祈りを始める明日乃。
「回数や時間を増やしても祈りに乗る願いの力が分散するだけで、神様へ届く信仰心は増えません」
秘書子さんが俺の心の中でそうつぶやく。
「お祈りは回数増やすより、1日1回、しっかり心を込めてお祈りすることが大事らしいぞ」
明日乃にそう教えてあげるとがっかりして、お祈りを止める。
そんな雑談をしながら、朝食も食べ終わり、3人で土器作りを始める。
砂と粘土を混ぜて、まずは念入りにねって空気を抜く作業。
そのあと、昨日と同じようなバケツのような形、一番簡単にできそうな土器を各自1個ずつ作り、明日乃はさらに上手に口の細くなった壺みたいな土器を作っていた。一角は土器を作るセンスがないのか、一番簡単にできそうな、バケツみたいな土器をひたすら作っていた。
「これだけあれば、失敗しても、いくつかは残るだろ?」
俺は昨日作った土器と同じように雨に濡れないように作った屋根の下に並べた土器を見てそう言う。
「そうだね、一角ちゃんがひたすら同じような鍋用の土器作っていたし、どれかは残るかな?」
明日乃が少しあきれ顔でそう言う。
結局、一角は土器を作るセンスがなかったようで、結果、バケツみたいな土器ばかりを3個作っていた。俺は、バケツ型以外にも土鍋みたいなものを1つ、ちょっと工夫して一回り小さいバケツ鍋や大き目のどんぶり、お皿っぽい物やコップっぽい物を多めに作ったし、明日乃は壺みたいな土器を2個と土鍋みたいな土器を作っていた。
「流司、別にコップや皿なんか、竹で作ればいいだろ?」
一角が俺に負け惜しみを言う。
一角は出来上がってから痛いところを突いてきやがる。小物食器は竹で代用できる。確かにその通りだ。俺の方が上手く作れたはずなのになぜか敗北感を味わう。
「というか、明日乃は結構器用なんだな」
俺は明日乃の壺型の土器を見て賞賛する。
「ああ、昔、家族で旅行に行ったときに、陶器づくりの体験教室みたいなのに参加したこともあったからね。あと、その時に、お母さんが少しハマったみたいで、その後も何度か陶芸教室に一緒に行ったし」
明日乃がそう言って謙遜する。
なるほど、どおりで上手いわけだ。本の知識だけじゃさすがにここまで作れないもんな。
そんな感じで土器を作る粘土も無くなり、土器作りも一段落。
お昼ご飯をみんなで食べた後、明日乃と一角は予定通り、昨日行った泉に水汲みと水浴びに。それと、松脂と麻も探しに行くそうだ。一角は麻ひもで弓の弦を作る気満々だ。
俺はキャンプで留守番と塩づくり。手が空いている間は石包丁や石斧などを作る。
俺は海に海水を汲みに行き、海水を煮詰めて、塩が析出したら上澄みのにがりは捨てて、塩づくりを繰り返す。捨てるにがりを試しになめてみたが確かに苦かった。
レオも黙々と薪を拾ってきてくれるので俺は塩作りと、煮詰まるのを待つ間の石器づくりに専念することができた。
そんな感じで塩づくりをしながら、石包丁や石斧にする石を研いだりしていると時間は15時を回った。
がさっ、がさがさ。
森の奥の藪で嫌な気配がする。結構大きな動物?
俺は、槍を片手に、そして右手には手ごろな石を持って投擲も考える。
そして、音のする藪を睨みつける。出てきたのは黒い大きな影、
「熊!?」
俺は突然の強敵に焦り、声を上げてしまう。
クマの方は、俺を舐めているのか、見たことない生き物、弱々しそうな生き物に関心がないのか、ゆっくりとこちらに向かってくる。
焦る俺。一人で勝てるのか? 冷静になれ、俺。
そう頭の中で自分に言い聞かせ、まずは、一角に魔法で連絡する。とりあえず、秘書子さんの説明では、魔法であることを意識して、連絡したい相手を思い浮かべて伝えたいことを頭で考えると相手に伝わるそうだ。
「一角、流司だ。いま、キャンプに熊がでた。動けるようなら慎重に、警戒しながら戻ってきてくれ。一人だとちょっと厳しそうだ」
俺はそう、頭の中で考える。
明日乃ではなく一角に連絡したのは、明日乃では冷静さを欠きそうだと思ったからだ。そして魔法連絡でマナを10持っていかれた。
クマが、のそり、のそり、と近づいてくる。鼻を鳴らしながら、干し肉の吊るしてある木を気にしながら近づいてくる。
干し肉の匂いに釣られたのか?
俺はそんなことを考えつつも、冷静にクマを鑑定する。
なまえ レッサーベア(オス)
レベル 20
クマでも弱い方。小型のクマ。
力がとても強く、足も速い。
固い毛皮に覆われ防御力は高く並みの武器では刃も通らない。
意外と手先が器用で木を登ることもできる。
あんまり参考にならないし、嫌なコメントばかり書かれている鑑定結果を見て顔をしかめる俺。言われると確かに小柄なクマだが、レベル20は明らかにヤバそうな数値だ。レベル6の俺と強さにどれくらい差があるのか想像もできない。少なくともステータス合計は単純計算で今の俺の10倍だ。
「レオ、とりあえず、戦わずに逃げるぞ。俺たちのレベルで2人だけじゃ勝てる気がしない」
俺は、ちょうと薪集めから帰ってきていたレオにそう言う。
レオは賛成も反対もしないが、たぶん俺と同じ意見なのだろう。戦う気配はない。
とにかく時間を稼いで、一角と明日乃が戻ってきてくれたら、レオと4人で囲めば逃げてくれるかもしれない。
「秘書子さん、全能神様に連絡して、強そうな仲間とか呼べない?」
俺は藁にもすがる気持ちで秘書子さんに相談する。
「いま、全能神様に呼びかけています。起きたところで新しい仲間が呼べるかわかりませんが」
秘書子さんはこんな時でも焦る様子もなく、無感情でそう答える。
一応困った時の神頼み。一生懸命祈っておく。強い仲間を降臨させてください。と。
「りゅう君! 大丈夫? 今、急いで戻ってるから。逃げて。とにかく自分の命を優先して、お願い」
予想通り、明日乃が冷静さを失って、魔法で連絡してきた。
「そしたら、明日乃、一度冷静になって、一角と一緒に全能神様にお祈りしてくれ。強い仲間を降臨させてくれって。ちょっと一人じゃヤバそうだ」
俺は明日乃に笑い声を意識しながらそう魔法で返事をする。安心させるように。
そして、ピンチであることに変わりないことはしっかり伝える。一角と明日乃が戻ってくるにしても1時間弱、時間を稼がないといけない。まさに今頼れるのは神様だけって感じだ。
2度目の魔法の通信でさらにマナを10消費してしまった。
俺は、左手に木の槍(といっても先をとがらせただけの木の棒だが)、右手には石を持ってクマを冷静に観察する。石の投擲で先制攻撃してもいいのだが、なるべくなら戦いたくはない。そして戦うにしても、木の槍より石斧の方がまだ、ダメージあたえられるか?
レオも木の槍を持ち、じりじりと後退する。
一角達の事を考えると変幻自在の武器を手元に戻すのも悪手になりそうだし。
そんなことを考えながら、時間はゆっくり進んでいく。
次話に続く。
感想と☆いただきました。
ありがとうございます。やる気が出ます。




