第73話 青銅の剣を量産する為に必要なもの?
【異世界生活 44日目 4:30】
いつも通り、明日乃と琉生が朝食を作りみんなで食べる。
そこで一角がぼそっとつぶやく。
「そういえば、明日乃は眷属召喚しないのか? 一つ目のダンジョンをクリアして変幻自在の剣の所有権を手に入れたんだし、琉生が眷属のトラを召喚して1週間以上たったし、そろそろ召喚してもいいんじゃないか?」
一角が明日乃にそう聞く。
「そうだね。召喚できるんだよね。でも、レオたち4人もいるし、ツリーハウスも出来上がって特に人手が足りないって感じもなくなってきたし、夜の見張りも眷属4人で交代して上手く回っているみたいだし、落ち着いてからでいいかな? って」
明日乃があまり乗り気ではない返事をする。
まあ、確かに、夜の見張りも眷属が2人ずつペアになって前半後半交替でやっていて問題なくうまくいっているし、資材集めや雑用も色々やってくれるので竹や荒縄、薪、木炭や塩なんかも在庫が貯まり出している。鈴さんが新しく倉庫を作らないといけないくらいだ。
「まあ、人手が足りていると言えば足りているけど、眷属が増える分には色々仕事も任せられて助かるんじゃないか?」
一角はそう聞き返す。
「そうなんだろうけどね。正直言うと、私に似た眷属、INT特化の子とかって呼んでも役に立たないんじゃないかなって不安もあるし、食料消費も増えるし、ね?」
明日乃は自信がなさそうにそう言う。
明日乃は自分に似たステータスの眷属が生まれても役に立たないんじゃないかという不安があるようだ。
そして食糧問題か。確かに、俺達ほど食べるわけではないが、1日1回夕食を食べる感じで食料が減る量は増えるな。
「じゃあ、真望や鈴さんは? 私や麗美姉みたいに仮召還してもいいんじゃないか?」
一角はまだ眷属を召喚していない2人にも振ってみる。
「私は秘書子さんの話だとダンジョン攻略がだいぶ先みたいだから、ちょっと不安はあるのよね。明日乃の言う通り、人手も極端に足りてないわけじゃないし、保留かな?」
鈴さんも消極的のようだ。
秘書子さんの話では鈴さんに対応するダンジョンは2番目に難しいダンジョン、つまり6番目に攻略するダンジョンらしいのでまだまだ先の話になりそうだ。
「私もだいたい一緒かな? あえて呼ぶ必要はないかな? 私に似て、器用な眷属とか生まれれば麻布作りのペースが上がっていいんだけど、みんな肉球だしね」
真望が残念そうにそう言う。
そうなんだよな。眷属達は手が獣に近い肉球で指も短めだ。ぶっちゃけ、不器用であまり細かい作業は得意ではないことが分かっている。
真望の眷属、多分狐だろう。キツネの手も似たようなものだろうな。
「じゃあ、眷属召喚は一時休止ということで、麗美さんに対応するダンジョンか一角に対応するダンジョンを攻略した辺りでまた検討すればいいんじゃないか? それか、急に人手が必要になる事案ができた時とかに再検討って感じか」
俺はそう結論を出す。
「そうね、それでいいんじゃない?」
麗美さんが納得し、みんなも頷く。
そして、ココに手を出そうとして逃げられる麗美さん。最近も夜以外はココには触らせてもらえないらしい。
猫好きほど猫に嫌われる。よくあるパターンだな。猫は追っかけられるのが嫌いなんだよ。
【異世界生活 44日目 6:00】
今日も朝食を食べ、麗美先生の剣道教室を行い、作業を始める。
真望と明日乃は麻糸作り。
一角と麗美さんはアオとトラを連れてけい石を取りに行くらしい。
レオとココは薪や枯草集めをした後、木炭を焼く作業をしてくれるそうだ。
そして、鈴さんと琉生は何か怪しい作業を始めた。青銅の剣はどうしたんだ?
「鈴さん、琉生、何してるんだ? 青銅の剣作りはやらないのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「青銅の剣や農具や刃物作り、あと一角の矢の鏃を作る為にも必要な道具を作るんだよ。グラインダーってやつね」
麗美さんが自慢げに言う。
「グラインダー? って何?」
俺は聞いたことあるような無いような単語を聞き、麗美さんに聞き返す。
「ようは、丸い円盤状の砥石を作って、それを自転車みたいに回すんだよ。そうすると、平らな砥石で砥ぐより数倍の効率で刃物が研げるようになる。特に、今回みたいな鋳型での作り方だと金属を削る部分が多いから、あると数倍効率が上がる予定かな?」
鈴さんが自慢げにそう言う。
「で、琉生に丸い砥石ってやつを作ってもらう訳か」
俺は鈴さんにそう聞く。
「そ、そうね。今いる人だけにでも許可もらえればいいかな?」
鈴さんが独断でやろうとしていたことがバレて、気まずそうな顔をする。
「そうだね。今いるメンバーがOK出せばいいだろう。一角が使う鏃を作る為だし、青銅の剣も1つは麗美さんが使う予定だしな」
俺はそう言って許可を出すと鈴さんは急いで真望と明日乃に聞きに行く。
結果はOKだったらしい。
後から聞いた話だと、真望にグラインダーがあれば糸車やはた織機がより作りやすくなる、明日乃には包丁を作るのに必要と半分騙すような手口を使ったらしい。ちなみにグラインダーが無くても糸車やはた織り機、鏃も包丁もできるそうだ。
まあ、効率が上がるという事で仕方なく許可を出す。
琉生は、鈴さんが地面に書いた設計図をもとに丸い砥石を作る。砥石と言っても粗削り用のざらざらな石、原料も普通の石らしいので琉生もそんなに苦労せずに、1回の魔法で作れるらしい。
「土の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力とせよ。『石の壁』!」
琉生が魔法詠唱をし、目の前にあった石がきらきらと消えていき、代わりに石の壁、ではなく、真ん中に四角い穴の開いた円形の石、イメージ的には古代人が使っていた石のお金みたいなものの小さい版みたいなものが出来上がる。しかも表面は砂を固めたように要望通りのざらざらの石だ。
「うん、いい感じね。それじゃあ、グラインダーの台座作りと原動力部分、そして、クロスボウの材料として、木材を集めにいくよ」
鈴さんがそう言って、次は近くの森に乾いた倒木を探しに行く。
俺と鈴さんと琉生で背負子を背負い、森に行き、二人で引くような巨大なノコギリに変幻自在の武器を変化させ手ごろな倒木を背負える大きさに切り持ち帰る。結構大きな丸太が3個だ。
「やっぱり、変幻自在の武器はいいわね。普通のノコギリはもちろん、こんな専門的なノコギリとか、色々な工具になるんだもんね」
鈴さんが昔の木こりの使いそうな巨大なノコギリを絶賛する。
「まあ、切れ味はいまいちだけどな」
俺はそう言う。これで鋼鉄製やステンレス製の現代的なノコギリと同じ切れ味だったら最高なのだが、若干切れ味が悪い。もちろん、剣や槍にした場合もだ。
「そんな何でも簡単に切れすぎる道具があっても楽しみがなくなるじゃない? そんな万能武器あったら流司一人で何でもできるし、最悪、流司がいなくても万能武器があればいい。みたいな話になっちゃうしね」
鈴さんはそんな感じで、今の生活を楽しんでいるようだ。
確かにそうかもしれないな。俺だけ強いとか、憧れはあるかもしれないが、仲間の大切さが薄れそうだもんな。
「みんなで協力し合う楽しみを神様が残してくれたのかもしれないね」
琉生が純粋無垢な笑顔でそうまとめるが、俺から言わせると、神様、そこまで考えていないと思うぞ。純粋に力がないだけだと思う。
そんな話をしながら拠点に帰り、倒木を木材に加工する。
さっき使った二人がかりで使うのこぎりで、鈴さん指示の元、俺と鈴さんが協力して丸太を平らな木材にしていく。琉生は真望の手伝いに行くようだ。
最後に鈴さんが変幻自在の武器を昔の大工が使っていたという手斧というかんな代わりに使える道具に変化させ、表面を平らにして平らな木材のできあがりだ。
あとは、グラインダー用の作業机を作り、その上にグラインダー、木材と竹を使って本体を作り、グラインダーを動かす原動力というものも木材と竹で作る。
「鈴さん、もしかして、これって?」
俺は、原動力というものを見て嫌な予感がする。
「うん、自転車みたいなものね。流司、頑張って漕いでね」
鈴さんがさわやかな笑顔で俺にそう言う。
そうきたかぁ。いや、電気もエンジンもガソリンもない世界、水車や風車もないし、もしかしたらと思ったらそのまさかだった。
グラインダーイメージ図
とりあえず、そこまでの作業で、お昼になってしまい、明日乃が「お昼ご飯ができた」と呼びに来る。
グラインダーづくりに熱中してしまい少し遅めの昼食だ。
昼食後は昨日、青銅の剣の研磨で1日終わってしまったらしく、余った青銅で作ったシャベルと鍬の金属部分をグラインダーをさっそく使って研磨し、砥ぎ終わったところで、木製の部分を作り完成。琉生が嬉しそうに鍬とシャベルを受け取る。
「今回は金属が足りなかったから、シャベルも鍬も刃先の部分だけ金属だけど、将来的には刃の部分全部金属の鍬やシャベルも作ってあげるからね」
鈴さんが琉生にそう言う。
「自分専用の鍬がもらえただけでもうれしいです。変幻自在の武器は順番待ちが大変だし、武器が空いている時間も少ないし。さっそく、畑で使ってみるね」
琉生がそう言って嬉しそうに鍬を持って畑に向かう。
鍬とシャベルを作っただけでも結構時間がかかってしまったな。
残りの時間で、鍛冶工房作りで余った河原の石と粘土で料理用の窯を作る。
今から青銅の剣の2本目を作るには時間が足りなすぎるからな。
場所はいつもみんなが集まるたき火のそば、明日乃が料理するときにみんなから離れない位置に作る。
「でも、なんで、料理用の窯を作り出したの?」
麻布と麻糸を作っていた明日乃が気になったのか寄ってきて聞いてくる。
「うーん、時間が微妙に余ったから? それと、青銅の剣を作るついでに青銅の板を作って、燻製器を作ろうかなって。で燻製器を使うにしても下からあぶる窯が必要だから先に作っておこうかなって」
鈴さんがそう言う。
今回、青銅の剣を鋳造したときに余った青銅でシャベルや鍬を作ったように四角い青銅の板をいくつか作って箱状にして燻製器を作るそうだ。
「時間が余ったなら、糸車やはた織機を作って欲しかったわ」
少し離れたところで麻布作りをしていた真望が愚痴を言う。
「余った時間くらいじゃ、糸車やはた織機はつくれないよ」
鈴さんが呆れた顔でそう言う。
そんな雑談をしながら石を積み上げ、粘土で石の隙間を埋めていき料理用の窯を完成させる。あとは粘土が乾くのを待つ感じだ。
時間も夕方になり、山にけい石を取りに行っていた一角と麗美さん、アオとトラが帰ってくる。竹製の背負い籠に沢山の白い石を積めて。
鈴さんがそれを見て少し興奮する。
「鈴さん、新しい窯を作るのは青銅の剣を人数分、最低でも5本は作ってからだからね」
俺はそう言って鈴さんをたしなめる。
「で、青銅の剣はできたか?」
一角が俺に聞いてくる。
「いや、今日は青銅の剣を効率よく作る為の道具、グラインダーってやつを作った」
俺はそう言うが一角には何のことかわからなかったようだ。
とりあえず、みんなにグラインダーをお披露めする。
「ほう、これがグラインダーってやつか?」
一角いずみが不思議そうに見ている。
「流司、実際動かすところを見せて、一角にこの道具のすばらしさを理解してもらうわよ。さあ、漕いで」
鈴さんが鼻息を荒くしてそう言う。お祈りポイントを勝手に使った汚名返上をしたいようだ。
とりあえず、砥ぐべき青銅の剣2本目はまだできていないので、ダンジョンのドロップアイテム青銅の斧を少し砥ぐところを見せるようだ。
俺は仕方がないので手伝うことにする。手伝うと言っても、自転車みたいな車輪とペダルを漕ぐだけだが。
そして、俺はペダルを漕ぐ。
最初は重く、ゆっくりとしか動かなかったが、だんだん速度も上がっていき、それと同時に、金属を削る少し嫌な音と同時に、一角が「おおー」と感嘆の声を漏らす。
他のみんなからも感心するような声が聞こえてくる。
ここからだと詳しくは見えないが、さっきのグラインダーと呼ばれる円形の砥石が回り出し、それで金属を上手く削れているのだろう。
俺も少し見たくなる。
「一角、ちょっと代われ。俺も見たい」
俺はペダルを漕ぎながらそう声をかける。
「しょうがないな。ちょっとだけだぞ。私たちは小屋を作らないといけないしな」
一角が嫌な顔をしつつペダルを漕ぐ役を代わってくれる。
そして、鈴さんのそばに寄りグラインダーを見る。ダンジョンのドロップアイテム、青銅の斧の金属部分を削ってナイフにする作業のようだ。
鈴さんの合図のもと、一角がペダルを漕ぎだし、それに連動して、円形の砥石が回り出す。
スピードが乗ってきたところで、鈴さんが鏃の(やじり)の平らな方を当てて金属を削り始める。
「キーン」
と嫌な金属音をたてて、青銅製の鏃が火花を上げて削れていく。
「おおー、なんかすごいな」
俺も一角と同じような反応をしてしまう。
まあ、それだけ画期的な装置って事だ。
鈴さんが青銅の金属片の位置や覚悟を調整しながら、両面とも削って、ナイフらしく削っていく。
確かに手で平らな砥石やざらざらな石を使って削るよりはるかに速そうだ。
そしてナイフの形がだいたいできたようだ。
「あとは、もう少し細かい砥石で、綺麗に砥いで、最後に仕上げの細かい砥石で鋭く砥ぐ感じね」
鈴さんがそう教えてくれる。
確かにナイフのように鋭さが増してきたが、刃の部分はナイフとして使うにはまだ鋭さが足りない。
「流司、明日から青銅の剣、4本分、砥ぐ作業が待ってるから、手伝ってね」
そう言って笑う鈴さん。
青銅の剣を4本砥ぐって事は、半日あの自転車モドキを漕ぎ続ける、それを4日続けるってことか?
「一角、麗美さん、琉生。たまにでいいから交代してくれ」
俺はあまりの重労働に泣きつく。
「ああ、やる事がなかったらな」
一角にそっけない返事をされる。
うん、無理やりにでも手伝わせよう。
そんな感じで、グラインダーのお披露目も終わり、日も暮れたので、明日乃が夕食を作り出し、みんな、たき火のまわりに戻る。
夕食を食べて日課のお祈り。歯磨きなど寝る準備をして就寝する。
明日から、青銅の剣を残り4本作る作業をし、終わり次第魔物の島で魔物狩りを始める流れになりそうだ。
次話に続く。
【改訂部分】青銅の剣を5本作るのにもグラインダーあった方がいいよな? って思い、グラインダーの話をに前に持ってきました。




