第57話 遠征からの帰還と今後の方針
【異世界生活 29日目 18:30】
「ただいま、鈴さん、真望、レオ、アオ、ココ」
俺達は南の拠点で留守番をしてくれていたメンバーと合流を果たす。
「おかえり、みんな。遅かったね」
鈴さんが迎えてくれる。
「ごめんね。色々あってさ。でも、そのおかげで色々手に入ったよ」
俺は砂糖や茶葉、野菜に、猪肉、毛皮に川魚、色々並べて、トラの紹介もする。
「明日乃が帰って来てくれてうれしいよ。やっと普通のご飯が食べられる」
鈴さんが本当に嬉しそうな顔をする。
「鈴さんだって、煮るか焼くだけだったじゃない」
真望が不満そうな顔でそう言い返す。
真望の話では2人とも料理ができない上、鈴さんは面倒臭がりで、干し肉をお湯で戻して塩をかけただけとか、魚を焼くだけ、酷い時は、干し肉を火で炙っただけの日もあったらしい。
「真望ちゃんの料理も個性的だったじゃないか。よくて薬膳料理? 酷いときは、化粧品を食べているのか、歯磨き粉を食べているのかわからないみたいな日もあったよ」
鈴さんはそう言って疲れた笑い顔をする。
真望はやる気はあったらしいが、残念ながら、料理と味覚のセンスが皆無だったようだ。
まあ、よくある、素人が本格イタリアンをめざしてハーブを理解せずに使って失敗するやつだな。
「じゃあ、時間も遅いし、夕食作っちゃうね」
明日乃はそう言って、中華鍋とナイフを出し、猪肉を切り分ける。
「猪肉を干し肉にする準備もしないとな」
俺は明日乃から猪肉の赤身の部分をもらい、薄切りにしていく。
「レオ、私たちは海水を汲みに行くぞ」
一角はレオの手を引き土器と護身用の槍を持って海岸に向かう。
「暗いから私も行くよ」
そう言って、鈴さんは松明代わりに火のついた薪を持って一角達を追いかける。
麗美さんと琉生も俺の隣で赤身の肉を薄切りにしていく。
トラはアオやココと挨拶している。作業の引継ぎみたいなものか? しばらくして麻の茎を叩く作業を始める。
「茶葉はどうするの?」
猪肉を切りながら琉生が俺に聞く。
「紅茶を作る場合、最初は日陰に干して適度に萎れさせます」
秘書子さんが教えてくれる。
「地面に、マントを広げて、その上に茶葉を広げておけばいいんじゃないかな?」
俺は秘書子さんの話を聞いて琉生にそう伝える。
「寝ている間に風で飛ばされちゃいそうだよね」
琉生が心配そうな顔で俺にそう聞き返す。
「まあ、寝ている間はしまっておけばいいかな? 室内干しでもいいかもしれないな」
琉生にそう答える。
「じゃあ、ツリーハウスもできたし、空いている家の中に広げちゃうね」
そう言って、琉生は茶葉を背負って家に入っていく。
入り口を閉めておけば風で飛ぶこともないだろう。
俺達が砂糖作りをしていた1週間、鈴さん達も頑張ってくれたみたいで、ツリーハウスも3棟に増えていた。
琉生の代わりに海水を汲んできた一角と鈴さんが戻ってきて干し肉作りに加わる。レオはまた、一角に塩作りをやらされているようだ。
「紅茶はちょっと楽しみね」
麗美さんが干し肉作りをしながら俺に話しかける。
「そうだね。お砂糖もできたし、久しぶりに飲み物らしい飲み物が飲めるかもね」
俺はそう言って、砂糖の使い所に困っている事も話す。小麦、卵、牛乳あたりがないとお菓子の類は作れないしな。
「じゃあ、次は鶏と牛だな」
一角がそう言うがそんな都合よく牛がいるか?
「牛も鶏もいますよ。主に北の平地、小麦畑やトウモロコシ畑の少し先に生息しています」
秘書子さんがしれっと漏らす。
「牛も鶏も北の平地にいるってさ」
俺は呆れ顔でみんなに教える。
「捕まえにいくか?」
一角がやる気になる。
「とりあえず、小麦とトウモロコシが採れてからだろうな。飼うにしても餌がない。そして、野生の牛を飼い慣らす手段が分からない。まあ、琉生に相談だな」
俺はそう言って、牛と鶏は保留にする。
そんな雑談をしながら、手はちゃんと動かし、猪肉をスライスし、塩を入れた海水に放り込んでいく。
明日乃が振るう中華鍋からいい匂いがしてくる。
「みんな、ご飯できたよ。食べよ」
明日乃がそう言って、竹のお皿に取り分ける。
「今日の料理はなんかすごいわね、久しぶりの料理らしい料理に涙が出そう」
鈴さんが、明日乃の料理を見て大袈裟に感動する。
「野菜が採れたからね。いつもの猪の焼肉とキュウリの塩もみ、あと、塩味だけどレタスとトマトもあるよ」
明日乃がお皿をどんどん並べていく。
今日は野菜のオンパレードだな。
「キュウリやレタスはすぐ傷んじゃうから早く食べないとね」
茶葉の加工をしていた琉生も戻ってきてそう言う。
ダンジョンで拾った野菜も1週間常温で放置されて傷んでしまったらしい。
「冷蔵庫がないからね」
鈴さんが残念そうに言う。
「はぁぁ~、レタスとキュウリとトマトが久しぶり過ぎて美味しすぎるぅ~~」
真望が久しぶりの野菜に酔いしれている。
鈴さんも頷きながら野菜を味わう。
レオ達眷属は焼肉だけを美味しそうに食べている。
「ドレッシングとかマヨネーズが欲しいな。あと焼肉のたれ?」
一角がいつものわがままを言う。
「せめて、醤油とみりんが欲しいかな?」
明日乃がそう言う。
「そういえば、神様の箱で醤油とか調味料ってもらえないのかしら?」
麗美さんがそう呟く。
「お祈りポイントで交換は可能ですが、この世界にない技術を含むので醤油もみりんもポイントが大量に必要になります」
秘書子さんが麗美さんのつぶやきに答える。
「もらえるけど、高いのね」
麗美さんががっかりする。
それを聞き、慌てて、一角がステータスウインドウのお祈りポイントの交換価格表を見る。
「た、高い。醤油50000ポイント、みりんも50000ポイント、焼肉のたれなんて70000ポイントだぞ。鉄の剣や鎧より高い」
一角がものすごいがっかりした顔になる。
マジか。それは高すぎる。
「つまり、安定して確保したいなら自分で作りなさいってことだろうね」
琉生があきらめ顔でそう言う。
「い、いや、醤油なら、50000ポイントでも安いかもしれない」
一角が混乱している。
「パンツ50枚分だけどね」
麗美さんが笑いながらそう言う。
「布のワンピースも10着もらえるよ」
明日乃が一角を諭すようにそう言う。
「や、やっぱり高いか。流司、レベルを上げて、魔物を倒しまくって、大豆のある島を占領するぞ」
そして、一角が壊れた。
「ああ、ちょうどいい。魔物退治やレベル上げの件なんだが、今、お祈りポイントが結構貯まっているだろ?」
俺はそこから話題を変える。
「ああ、47500ポイント貯まっているな。二手に分かれていたから相談もできず、お互い使いづらかったんだろうな。もしかして、もう少し貯めて、醤油をもらうのか?」
一角がポイントをチェックし期待のまなざしでそう言う。
「いや、醤油はもらわない。明日、ダンジョンで少し無理をしようと思うんだ。明日乃の補助魔法を使いまくって赤字のダンジョン攻略? というのも、ダンジョン3階の敵がレベル10だろ?」
俺は一角にそう言い返す。
「ああ、一角兔だったか? レベル10で素早さ特化、数が増えると厳しくて、ダンジョン攻略が難航していたな」
一角が思い出すようにそう答える。
「でだ、その3階を明日乃の補助魔法、あと、真望の火の魔法あたりがいいかな? この二つを使いまくって無理やり攻略する。そうすれば4階に入れるようになる。ここからは予想なんだが、あのダンジョン、階が下がるごとに敵のレベルは確実に上がっていた。つまり4階にはレベル11以上、クマと同じランク2の敵が出る可能性があるんだよ」
俺は一角になるべくわかるように説明する。
「どういうことだ?」
一角にはわからなかったようだ。
「ああ、ランク2になるともらえる経験値が5倍になるもんね。クマとイノシシじゃ経験値が全然違うみたいな?」
麗美さんが気付いたようだ。
「そういうこと。そうなれば4階の最初のウッドゴーレム、1対5の状態で数体倒すだけでもかなりの経験値がもらえる。1体ずつ5回倒しても、3階のゴーレムの25体分以上だ」
麗美さんの言葉にそう付け足す。
「なるほど。4階でレベルを上げれば3階も余裕になって、1階の攻略での経験値効率もよくなる。そうなればすぐレベルも上がって4階も5対2、5対3でも戦えるようになり、さらにレベルアップのペースが上がるってわけだな」
一角も理解したようでその先の事まで思いつく。
「そういうことだ。お祈りポイントがいくらかかるか分からないが、やる価値はあると思わないか? 少なくとも、今みたいに3階でグダグダやっているより数倍有意義だと思う。まあ、4階のウッドゴーレムがレベル11以上だったらという推測の話だけどね」
俺はそう締めくくる。
「いいんじゃないかな? レオの為にも闇のダンジョン1年で攻略しなくちゃいけないんだし、それくらい無理しないとダメだと思うよ」
明日乃は俺の意見に賛成する。
「レオが消えちゃうのは可哀想だもんね」
真望がレオに同情する。
レオ本人は眷属が消滅しても行動の記録が無くなるだけ、とあまり気にしていないが、俺達からすると、消えて新しく召喚し直すのは、記憶を失い、全く新しい眷属として生まれ直す、実質死ぬのと同意としか感じないのだ。
「まあ、レオもそうだけど他の眷属達も消えないように、ダンジョン攻略や6つの島の魔物退治のペースを上げないといけないもんね。私としてはお祈りポイントで鍛冶道具が早く欲しいって気持ちもあるんだけどね」
鈴さんがそうまとめ、最後は少し本音が出る。
俺は笑うしかなかった。
「まあ、琉生あたりの魔法がレベルアップしないと、本格的な鍛冶工房もできなそうだし、今はレベルアップを優先した方がいいかな?」
鈴さんは気を取り直したようにそう言う。
琉生が笑いつつも半分、嫌な顔をする。耐熱煉瓦作りを魔法でさせられることが確定したみたいだ。
「まあ、30000ポイントくらいなら、ダメもとで試してみたらいいんじゃない? 5日も祈れば回復する数字だし」
麗美さんもそう言って賛成してくれる。
反対する人間はいないようだ。
一角も賛成とは言わなかったが、レオの事、気に入ってるしな。反対とは言わないだろう。
「じゃあ、そういうことで、さっそく明日、ダンジョンでその作戦を試していいか?」
俺はそう締めくくり、みんな納得してくれたようだ。
「ただし、流司。ダンジョン行くのはひげ剃ってからだからね。流司達が北の平原を探索している間に、石鹸ができたし、鈴さんがダンジョンのドロップアイテムで青銅製の剃刀も作ってくれたから、その無精ひげ、剃らせてもらうわよ」
真望が突然関係ないことを言い出す。
「そうそう、ダンジョンでドロップした青銅の斧とか青銅の爪? 砥ぎ直して、ナイフや剃刀にしておいたから、今使っているナイフと交換して置いてね。そっちも砥ぎ直しが必要でしょ?」
鈴さんがそう付け足す。
たしかに、サトウキビの皮を剥く作業でだいぶ刃こぼれもしちゃったしな。
みんなも、今使っているナイフや予備で持っていったナイフを出して、新しいナイフを受け取る。
「それに、見ての通り、ツリーハウスも1軒増えたしね」
鈴さんが少し自慢げに付け足す。
「鈴さん頑張ってくれたんだね。ありがとう」
俺は心を込めて感謝を伝える。
「あと、これ。流司、パンツ履いてないでしょ? 麻布で作ってあげたんだから感謝しなさいよね。替えも作ったからこまめに洗いなさいよ」
真望がそう言って俺に白いトランクスを2枚くれた。俺だけ下着なしだったので結構うれしかった。
「ありがとな、真望。真望も頑張ってくれたんだな」
俺はお礼を言う。たかがパンツ、されどパンツだ。
「女の子たちは、もう少しウサギの毛皮の水着で我慢だね」
明日乃がそう言って笑う。
「まあ、あれならいくらでも作れるし、ウサギの毛皮はいくらでもダンジョンでドロップするし」
真望もそう言い笑う。
「流司クンは真望ちゃんにも愛されているわね」
麗美さんが俺を冷やかすようにそう言う。
「もう、そういうんじゃないから!!」
何故か真望が怒る。
そしてみんなが呆れるように笑った。
【異世界生活 29日目 22:00】
とりあえず、食後、残りの作業をして、干し肉を干す準備と茶葉の処理は終わった。
日課のお祈りをして、睡眠をとる。
眷属達も4人になったので2人でペアになって2交代制で夜の見張りをしてくれるらしい。というより一晩中寝られないから何かしたいというのが本音っぽいけどな。まあ、朝起きたら褒めてやろう。
ツリーハウスの1軒は一角、真望、琉生が使うことに。もう1軒は麗美さんと鈴さん、俺と明日乃も新しくできたツリーハウスで寝られるようになった。
眷属達は基本、一角や琉生のいるツリーハウスに間借りをするようだ。というより、レオは地上の家を使うと言い張ったが一角に連行された。
ココも麗美さんに強制連行された。まあ、ココも嫌がりつつも嫌いじゃないんだろう。
そんな感じで眷属も増え、ツリーハウスもだいぶ落ち着き、生活のリズムも安定してきた。
明日は少し無理をするダンジョン攻略があるし、しっかり寝て、疲れをとりたい。
まあ、明日乃が寝かせてくれないだろうけどな。
次の話に続く。
昨日と今日で、ブックマーク2名様、☆1名様ありがとうございます。やる気が出ます。
【改訂部分】シロの代わりにトラが眷属になったのでそのあたり結構書き直しました。
麗美さんが遠征組になったので書き直しが多かったです。
次話以降のお祈りポイントによるダンジョン強行は明日乃結界魔法ではなく補助魔法でいくことになりそうです。結界魔法が移動できなくなったので。そのあたり流司の会話を書き換えました。改訂前の補助魔法での強行の時より苦戦するかもしれません。




