第56話 小麦畑と新しい仲間、そして帰路に着く
【異世界生活 29日目 8:00】
朝食に昨日倒したイノシシ肉焼いて食べ、早々に帰路に着く俺達。
まあ、途中、麦畑とトウモロコシ畑に寄り道して帰る感じだが。
「小麦もトウモロコシも季節的に夏収穫だからまだちょっと早いかな?」
琉生が歩きながら呟く。
結局、昨日破れた服は直さずにそのまま着ている。麻糸もなければ真望もいないので拠点まで放置らしい。着替えも洗ってないので着替えられないそうだ。
お腹がちらちら見えてるが、本人はまったく気にしていない。
「まあ、今日は、場所の確認と状況の確認だな。夏になったら収穫にこよう」
俺は琉生にそう答える。
とりあえず、サトウキビ畑から東にあるようなので臨時拠点から東に歩く。
「そういえば、そろそろ、新しい眷属呼べるんじゃないか?」
歩きながら、一角がそんなことを言い出す。
「はあ、眷属と言えばココちゃんに早く会いたいわ。というより連れてくればよかったわ」
麗美さんが自分の世界に入っている。
「で、どうする、琉生が呼ぶか? 明日乃が呼ぶか?」
一角が煽る。
「それじゃあ、琉生が呼んじゃおうっかな? これから野菜も採取するんだし、荷物も増えそうだしね」
琉生が一角の口車にのる。
「でも、琉生に対応するダンジョンって何番目なんだ? あまり後ろの方だと眷属を失うリスクが高いぞ?」
俺は慌てて止める。
「ルウ様に対応したダンジョンは4番目になります。1番目が現在攻略中のアスノ様に対応したダンジョン、2番目がレイミ様、3番目がイズミ様、その後になります」
秘書子さんがいらん事を教えてくれる。
「私の後なら結構すぐ攻略できそうじゃないか。琉生、眷属召喚しちゃえよ」
一角が無責任にそう言う。
「じゃあ、呼んじゃおうっかな? 流司お兄ちゃん、変幻自在の武器貸して」
琉生があまり考えずにそう俺に言う。
「大丈夫か? よく考えてからの方がいいんじゃないか? 1年以内に4番目のダンジョン攻略できないかもしれないんだぞ?」
俺は琉生に考え直すようにそう聞き直す。
「平気だよ。だって、流司お兄ちゃんの7番目のダンジョンだって1年でクリアしないといけないんでしょ? それに、全部の島の魔物を減らさないと、流司お兄ちゃんと明日乃お姉ちゃんは結婚できない。それを考えたら、流司お兄ちゃんは必ずやると思うしね。というか明日乃お姉ちゃんが待てないと思うの。つまり、確実に1年以内にダンジョン7つ攻略することが確定しているんだよね」
琉生が訳の分からない自論を言う。
そして明日乃も期待するように俺を見る。
1年で7つのダンジョンを攻略し、7つの島の魔物を減らすことが確定してしまったようだ。
まあ、レオの件もあるから1年で7つのダンジョン制覇は確定なんだけどな。
俺は渋々、琉生に変幻自在の武器を渡す。
そして、一度足を止め、琉生が眷属召喚の儀式に入る。
「眷属召喚」
琉生が変幻自在の武器を構え、落ち着いてそう呟くと、琉生の目の前の地面が盛り上がっていき、1メートル以上の塚のような土の塊ができる。
そして、土の山がボロボロ崩れ出し、中から人影が見える。
出てきたのは虎の顔をした獣人、虎の子供の様なかわいらしさの残るしましまの猫のような獣人が立っている。
「この子もなかなか可愛いわね」
麗美さんの視線が新しく生まれた眷属のお腹に向かう。
麗美さんの眷属のココより攻撃力がありそうなので俺は止めておく。なんか、腕とか足とか尻尾もむっちりしている。殴られたら危険そうな匂いがする。そんな虎の姿をした眷属だ。
なんか、琉生の趣味なのか神様の趣味なのか、中華服っぽい格好をした獣人の女の子っぽい。
「名前はどうするの?」
麗美さんが琉生に聞く。
「うーん、しまじ〇う?」
琉生がそう言う。
「いやいや、それはダメだろう。ストレートすぎる」
俺は止める。
「なんで? レオだってダメじゃない?」
琉生が不満そうに言う。
「れ、レオはセーフだ。一般的なライオンの名前だし」
俺はしどろもどろにそう言う。
「じゃあ、寅次郎?」
琉生がそう言う。
「それもちょっとダメかな?」
明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
「じゃあ、トラでいいよ、そのまんまトラで」
琉生が適当になる。
「なんかダメそうな気もするがそれでいいか?」
俺は一応、虎の眷属に聞いてみる
「面倒臭そうだからそれでいい」
結構ドライな眷属だった。そして結構無口だ。
「じゃあ、そういうことで、宜しくね、トラ」
そう言って琉生がぶんぶんと握手した手を振り回す。
トラには抱えていた土器の一つを持ってもらい、先を進む。
一角の余計な提案で時間を使ってしまったな。
「これは、渡れないな」
「そうだね」
俺の呟きに明日乃が答える。
東に15分ほど歩くと川にぶつかる。いつも魚や飲み水を手に入れていた川の下流だろう。
見た感じ明らかに広くて深そうだ。
そして、対岸には以前、見たことのある物があった。
「そこにも白い橋があるのか」
一角がそう言う。
「あれは第六の島に続く橋ですね。一番強い魔物がいるので最後に渡ることになると思います」
秘書子さんがそう教えてくれる。
あの先にある島の魔物を倒して、ダンジョンを攻略しないといけないのか、しかも1年以内に。
「この先にあるダンジョンを流司は1年以内にクリアしないといけないんだよな。ちなみに1年って365日でいいのか?」
一角が俺の心を読んだように素朴な疑問をもらす。
「この世界の1年は360日で1か月が30日、12カ月で1年となります」
秘書子さんがそう言う。
「なんか適当な数字だな」
一角がそう呆れる。
「神が面倒臭がってそうしました。ちなみにうるう年などもありません」
秘書子さんがそう付け足す。
本当に適当だなこの世界の神様は。
「ちなみに、今って何月なんだろ?」
明日乃が不思議そうにそう言う。
「今日は4月29日です。リュウジ様とアスノ様がこの世界に降臨したのが4月1日となっています」
俺は秘書子さんの答えをそのまま伝える。
「なんか適当だな」
一角がもう一度呆れる。
「ああ、本当にな」
俺も呆れる。
そんな感じで雑談をしてから、この川を渡るのは無理という事になり、川岸を歩いて上り、三角州ができる分岐点を越え、さらに進むと歩いて渡れそうな石だらけの河原になる。というか、ほぼ、いつもの竹林の近くまで歩いてきた。
最初に来た時のように川を歩いて渡り、対岸に着く。
とりあえず、飲み水を汲んでから、今度は北に川を下り始める。小麦畑はこの川とさっきの三角州を挟んでサトウキビ畑の反対あたりにあるらしいからな。
【異世界生活 29日目 12:00】
「あれがそうかな?」
琉生がそう言い、川沿いに北へ1時間半ほど歩くと確かに目の前に緑色の草原とはちょっと違った雰囲気の小麦畑が見えてくる。
「結構広いな。そしてまだ、緑色って事は食べられないって事か?」
一角がそれを見てそう感想を漏らす。
「だね。もう少し成長して茶色くなるまで待たないとダメかな?」
琉生はそう言って少し歩くスピードが上がる。かなり楽しみだったらしい。
「すごいよ、小麦以外にも野菜があるよ」
琉生がそう言って小麦畑の手前の草原で足を止める。
確かによく見ると、雑草の間になんか見たことあるような葉っぱや茎が見える。
「りゅう君、キュウリだよ。キュウリがある。トマトもあるよ」
明日乃も興奮して野菜の生えた草原に飛び込む。トマトはまだ青いな。
「これはナスっぽいが、まだ時期じゃないみたいだな。一角がそう言って足元にある野菜の苗っぽいものを見ている。
「虫に食べられてるけど、キャベツやレタスもあるよ。虫に食べられてないところを洗ったら食べられるかな?」
琉生が自生の野菜を見て興奮している。
まあ、キャベツはダンジョンで拾えるからいらないといえばいらないんだけどな。
「人参も育ったものを選べば食べられるかな?」
明日乃も必死に野菜を選別している。
人参もダンジョンで拾えるぞ。
「琉生、明日乃、今日は茶葉や猪肉、荷物が沢山あるからほどほどにな。拠点に荷物を置いたらまた採りにくればいいだろ?」
俺はそう言って増えそうな荷物を抑制する。あまり多くは荷物を増やせない。
なんか、琉生と明日乃が相談を始める。何を持ち帰るか検討しているようだ。
「一角はあんまり興味ないのか?」
俺は気になって一角に聞く。
「ああ、嫌いではないが、別になければないで困らない感じだな」
一角はそう答える。こいつは将来太る。俺にはわかる。
「一角、歳をとっても運動だけは続けろよな」
俺は同情するようにそう言う。
一角は小麦と米と肉は好き。そして調味料にうるさい。ちょっと将来が心配になったからな。
「何が言いたい?」
一角ににらまれる。
俺は誤魔化すように、野菜を見て回る。
確かに数は多くないが色々な種類の野菜が生えている。
「よし、流司お兄ちゃん、今日持ち帰る野菜はこれにしたよ」
琉生がそう言って野菜を一抱え持ってくる。
とりあえず、明日乃と相談してキュウリとレタス、プチトマトのような小さなトマト、ナスの苗やトマトの苗も持ち帰るらしい。
なんかすごい荷物が増えた。
砂糖作りに使った空の土器2つに野菜を詰めて持ち帰る。俺はイノシシ肉の詰まった土器を持ち、琉生と新しい眷属、トラが野菜の詰まった土器を1つずつ持って帰る。
そんな大荷物で、さらに北に進み小麦畑に到着。
とりあえず、荷物を置き、俺と麗美さんが荷物番、琉生が小麦の生育状況などを調べている。明日乃も相談役として琉生と話をしている。一角も興味があるらしく、琉生と明日乃の意見を聞いている。
「もう少しだね。なんか発育もばらばらだし、雑草も多いし、虫もついているけど、自然に生えているものだから仕方ないね。様子見ながら食べられそうな小麦を収穫する感じかな?」
琉生が満足したようにそう言って畑から出てくる。
「生活が落ち着いたら本格的に農業とかもやりたいよね」
そして琉生がそう付け足す。
「来年にはそうなるといいんだけどな」
俺はそう言って笑う。まあ、眷属達の件もあるから、1年で魔物やダンジョンは何とかしないといけないんだけどな。
そんな感じで、小麦畑の確認は終了。来月くらいにもう一度見に来る感じで落ち着く。
すでにお昼の時間だが、さっきの綺麗な水が汲める川のあたりまで戻って昼食にすることにした。
【異世界生活 29日目 14:00】
いつも竹をとったり、飲み水を汲んだりしている河原まで戻ってきた俺達。
たき火をして昼食にする。
明日乃と琉生は野菜を川で洗っている。
一角と麗美さんとトラは魚をとっている。真望、鈴さんへのお土産にするらしい。
いやいや、荷物は増やすなよ。今ですら結構限界なのに。
俺は、イノシシ肉の脂身の多い部分を切り出し、串に刺して焼く係だ。
そして、昼食が出来上がる。ちょっと豪勢にサラダ付きだ。
ついでに一角達が捕まえた魚も捌かされて結構面倒臭かったけどな。
「なんか久しぶりの野菜らしい野菜だな」
俺は久しぶりに見るキュウリとレタスと小さいトマトに感動する。
「マヨネーズがあれば最高なんだが」
塩味だけのサラダに一角が少し残念そうな顔をする
「マヨネーズはちょっと難しいかな? 塩にお酢に卵に油、あとコショウも欲しいね」
明日乃がそう言って笑う。
「塩味でもこのキュウリは感動ものだぞ。懐かしすぎる」
俺はフォローするようにそう褒める。
「そうだね、懐かしすぎる味だよ」
琉生が味わう様にキュウリやレタスを食べる。
トラは完全に肉食らしい。野菜に全く興味なさそうだ。そして、レオ達同様1日1食でいいそうだ。
「そういえば、時間が厳しいんだが、どうする? トウモロコシ畑まで見に行ったら丘の手前で野宿することになりそうなんだが」
俺は遅い昼食をとりながら話題を変えるように、思い出したようにそう相談話を始める。
「そうだね、今からまっすぐ急いで丘を越えて拠点に帰るとしてもギリギリ暗くなるころだろうね」
明日乃がステータスウインドウの時計を見ながらそう言う。
「来るときのクマの件もあるし、あまり丘の手前とかで野宿とかはしたくないよね」
琉生が来るときに襲われたクマを思い出す。
「今、クマ狩ったとしても、もう肉も毛皮も持てないしな」
一角がピントのズレた事を言い、みんなが呆れるように笑う。
というか、お前、さっき魚獲って荷物増やしたばかりだろ?
「じゃあ、トウモロコシ畑は一度拠点に帰ってからかな? どうせ、トウモロコシも夏にならないと収穫できないだろうし」
琉生が少し残念そうな顔でそう答える。
そしてみんなも頷く。
昼食を終え、急いで南の拠点への帰路に着く。麗美さんと一角が予備の槍に荒縄で川魚を吊るして歩く姿はシュールだった。
トラは琉生のステータスに似せて作られているようで、体力のありそうな眷属だ。野菜の入った土器を抱えて普通に山道を登っていく。
俺はトラを観察しながらそんなことを考え、坂道を登っていく。
途中、明日乃が辛そうだったので、丘の頂上で少しだけ休憩して、先を急ぐ。
丘を下りる頃には日が暮れてしまい暗くなったので明日乃に光魔法をお願いする。
そんな感じで、トウモロコシ畑は見に行くことができなかったが、無事砂糖を作ることもでき、おまけで茶葉も入手、イノシシ肉や野菜も手に入れることができ、大収穫の探索となった。
そして、予定外の仲間、トラも加わり、さらに行動の選択肢が増えた気がする。そして、魔物退治のタイムリミットもできてしまった。
次話に続く。
【改訂部分】明日乃の眷属シロの登場シーンが丸々なくなりました。代わりに琉生の眷属トラを召喚しました。ちなみに発音はト↓ラ↓ではなくト↑ラ↑って感じです。改訂前は変則的な召喚に理由が必要だったのが、誰でも1週間待てば召還できるようになったのでその対応です。
キャベツとニンジンはダンジョンで採れるようになったので畑では拾わずに代わりにトマトの苗とナスの苗を持ち帰りました。




