第49話 熊の油作りと石鹸作りの準備
【異世界生活 18日目 4:00】
「おはよう、みんな」
俺は明日乃と一緒に起き、たき火のまわりにいるみんなと合流する。
少し寝坊しがちな麗美さん以外は起きているようだ。
そして先に起きていた琉生が朝ごはんを作ってくれていたようで、ちょうど出来上がり、みんなで食べる。
まあ、朝食と言っても昨日の残り。クマの肉、油多めの部位を焼いたものだ。
「肉が獲れると、この連続焼肉パーティが辛いんだよな。3日おきくらいに分けて食べられればどれだけありがたいか」
俺はそう言って笑う。
「脂身多い部分は燻製にするといいかもね。ベーコンみたいに?」
明日乃がそう言う。
「そうなると、色々道具が必要なんだろ?」
俺はそう聞き返す。
「そうだね。煙を充満させられる燻製の装置と煙を出す為の木片? 桜の木のチップとかおススメだね。問題は燻製機をなにで作るかだよ。金属があれば金属製がいいんだけどね。木製とかで作れるのかな?」
明日乃がそう言って何か考えている。
「木製といえば、流司、ちょっと作りたいものがあるから、というより作り忘れたものがあるから、半日時間貰っていいか? それと、変幻自在の武器を貸してくれ」
鈴さんが明日乃の言葉で思い出したようにそう言う。
「いいけど、何作るの?」
俺は気になって聞く。
「ああ、ふいごだよ。空気を送る機械だな。貝を焼くにも、将来、鍛冶をするにも高い温度が必要で、その温度を得る為には空気を送る機械が必要なんだよ。さすがに一角の風魔法で空気を送り続けるわけにもいかないしね」
鈴さんがそう言う。
「それって、簡単にできるの?」
俺は気になって聞く。
「まあ、大きな四角い箱を作って、中に動く板を入れて前後させるだけのものだから、平らな板と竹があれば、まあ、比較的簡単にできるかな? ウサギの毛皮がいっぱいあるし、空気が漏れないようにするゴム替わりにそれを使えばいいしね」
鈴さんがそう言う。頭の中にイメージはできているようだ。
「流司、最初だけ手伝ってもらっていいか? 板を作るのに大き目の丸太が欲しいんだよ」
鈴さんがそう付け足す。
俺は了承して、そのまま、午前中の作業の役割分担の話になる。
とりあえず、俺と鈴さんはふいごの材料探し。
明日乃と真望と琉生は熊の脂身を油にする作業。それを麻布作りと並行して行う。レオとアオは麻の茎をひたすら叩く作業。
一角と麗美さんは海岸に貝を取りに行く。生石灰の材料だ。
そんな話をしていると、寝坊助の麗美さんも起きてくる。
麗美さんが食事をしている間に、俺と鈴さんは材料の丸太を探しに行く。
他のメンバーは脂身を細かく切って鍋に放り込んで煮る作業に入る。
真望と明日乃はひたすら麻布作りだ。真望は少し夜なべをして一生懸命作ったらしいが、まだ1枚しかできていない。クマの油を濾すのにバンダナサイズの布が3枚は欲しい。まあ、最悪、砂糖作り用に作ってもらった麻布を使えばいいが。
とりあえず、丸太は、拠点のすぐ裏の森で倒木を見つけたので二人で持てる大きさに切って持ち帰る。
拠点に帰ると麗美さんが食事を終えていたので、これから一角と2人で海岸に貝拾いに行くらしい。
今日の剣道教室はお昼くらい、落ち着いてからかな?
そんな感じで3組に分かれて作業が続く。俺は鈴さんとふいごを作る為の平らな板作りだ。
まあ、手伝いと言っても丸太を押さえたり、できた木材を押さえたり、その程度だが。
とりあえず、ふいごは、神社にあるお賽銭箱みたいな箱を作って、その中に動く板を入れて、その板に竹の棒をつけて、竹の棒を前後に動かすと板が動き、中の空気が変えとなって噴き出す構造だ。しかも箱の底が2層になっていて、板を前に押しても、後ろに引いても空気が送られる構造になっている。
ふいごの簡略図
「なんかよくできてるね」
俺はその構造に感心する。
「昔の人はこれで刀を作っていたらしいよ。まあ、元の世界では、最近はブロワーっていう電動で空気送る機械があるから使ってないだろうけどね」
そう言って、懐かしそうに笑う鈴さん。
「というか、これを釘なしで作っちゃう、鈴さんの技術がすごいね」
俺はくぎを使ってないことに驚く。
「まあ、昔は当たり前だったからね。ほぞとほぞ穴、凸凹を作って組み合わせる技法だね。釘なんて高級品だった時代の技術よ」
鈴さんがそう教えてくれる。
鈴さんは大学で日本の伝統的な大工の技術、宮大工の技術なども習っていたらしい。
鈴さんの凄い技術を見せてもらいながら、半日が終わる。
【異世界生活 18日目 12:00】
「りゅう君、鈴さん、お昼ご飯にしよ?」
ふいごがちょうど出来上がったころ、明日乃の声がかかる。
みんなで休憩してお昼ご飯だ。
「なんか今日のお昼ご飯は凄いな」
俺はたき火のそばに来て驚く。
「すごいだろ?」
何故か一角が自慢げな顔をする。
たき火の上に平らな石が置いてあり、その上に大量のカキが乗せられ焼かれている。
「というか、大丈夫なのか? あたらないか?」
俺は少し心配になる。
「一応、鑑定で、毒マークが出たカキは外しておいたから大丈夫だと思うよ」
明日乃がそう言う。
「毒あるやつあったんだ」
俺はさらに心配になる。
「まあ、毒というより菌でしょうけどね」
麗美さんが笑いながらそういう。
貝毒というのは食中毒を起こす細菌やウイルスで起きる下痢や吐き気、腹痛だそうだ。
「秘書子さんに一応聞いておくか?」
俺がそう言うと秘書子さんが、
「鑑定結果で毒がなければ大丈夫だと思います。あとは個人の体力や健康状態によりますが、皆さん、健康的ですし、問題ないかと」
と結構適当そうに言う。
「明日乃に解毒魔法とか病気の治療魔法があればよかったんだけどな」
俺はそう言って笑う。
「ありますよ? 病気の治療魔法はレベルが足りませんが、解毒魔法なら覚えられます。覚えますか?」
秘書子さんがまた大事なことをしれっと言う。
「明日乃、解毒魔法が覚えられるらしいぞ。覚えとくか? 貝は一応安全らしいけど」
俺は明日乃にそう聞く。
「うん、覚えとく。カキにあたってみんな倒れちゃったら大変だしね」
明日乃がそう言ってステータスウインドウを触り出す。
「まあ、解毒魔法でカキの中毒が消えるって言う仕組みが良く分からないけどな」
俺はあきれながらそういう。
「解毒魔法の基本的な仕組みは、体に害のある物質を除去する魔法です。細菌やウイルスの除去などもできるので簡単な病気なら治せます」
秘書子さんがそう言う。解毒魔法優秀すぎるだろ?
医者の卵の麗美さんも少し呆れる。俺達は明日乃が解毒魔法を習得したことを確認して貝を食べる。カキ以外にもサザエやアワビ、元の世界では滅多に味わえない高級食材が並んでいる。
「今日ほど醤油が欲しいと思ったことはないぞ」
一角が悲しそうにそう言う。
「塩で我慢しろ」
俺は冷静に切り捨てる。
まあ、塩でも十分旨いな。というより海水で味がついていてそのままでも旨いな。
「とりあえず、みんなよく焼いてから食えよ」
俺はそう言ってよく焼けた貝を選んで食べる。さすがに生はヤバそうだからな。
「まあ、今日は一角ナイスプレイだな。麗美さんも頑張ったね」
俺はそう言って二人を褒める。
麗美さんの話だと、一角が砂浜でのアサリ掘りに飽きて岩場に行こうという話になり、行ってみたらちょうど引き潮で大漁だったらしい。
うん、一角らしいな。
とりあえず、アワビが美味かった。ただし、ワタの部分はさすがに手が出なかった。見かけもそうだが、あたりそうだしな。
そんな感じで貝尽くしのバーベキューが終わる。
少し休憩して、日課の剣道教室をする。
なんか、経験値が貯まっていたみたいで、剣道教室で得た経験値で俺のレベルが上がる。レベル12だ。
剣道教室後は午後の作業を再開する。
「真望、熊の油の方はどうだ?」
俺は気になって聞いてみる。
「う~ん、とりあえずお昼前には脂身を煮詰めて油は出てきたんで、作業できるくらいに冷めたら麻布で濾す感じかな? 今、布を急ピッチで作ってる感じよ。何とか間に合いそうだけど」
真望はそう言って、さっそく昨日、鈴さんに作ってもらった木枠のような簡易はた織機を手にし作業を始める。明日乃も同じようなものを持って作業している。結局、鈴さんにこの木枠みたいなものを3個作ってもらったらしいが、1枚は出来上がったので琉生は糸作りに回ったようだ。
まあ、こっちは何とかなりそうだな。
「鈴さん、生石灰だっけ? 貝の方はどんな感じ?」
俺は貝の方も気になって聞いてみる。
「うーん、生石灰はギリギリでいいかな? 油が多分明日以降になりそうだし、あまり早く作っても生石灰って水吸いやすいからね。とりあえず、焼く準備までして保留かな?」
鈴さんがそう言う。
「熊の油は不純物を取り除くのにお湯で煮込むのと、冷却して不純物を取り除くのを何度も繰り返さないといけないのよ。油ができるのに2~3日かかるんじゃないかな?」
麗美さんもそう言う。
「マジか。石鹸ができるまで琉生が待てないぞ」
俺はそう言う。
「だから、流司は明日、北エリアの探索に出ちゃっていいわよ? 待っている間にクマの油と石鹸は居残り組で作っておくから」
鈴さんがそう言う。
「さすがにそういうわけにはいかないだろ? 鈴さんも真望もやることあるだろうし」
俺はそう言って反論する。
「そう言って、流司は石鹸づくりに加わりたいだけなんでしょ?」
鈴さんがそう言って笑う。
まあ、確かに見たいし、貝を焼くとことか手伝ってみたいしな。
そんな感じで、北の平原への探索は石鹸が出来上がるまで待ってもらうことになった。砂糖や野菜が待ち遠しい琉生が結構がっかりしていた。
とりあえず、今日は貝を良く洗ってから、たき火の上で軽く水分を飛ばし、岩で細かく砕く作業。そして、レオが以前作った木炭も細かく砕く。
これを石窯に交互に入れて上から火をつけて風を送れば生石灰ができるらしい。
「そういえば、高温で貝を焼くとかって、石窯もつの?」
俺は気になって鈴さんに聞く。
「前も言ったとおり、石窯は使い捨てだよ。貝を焼いて生石灰にするには1000度以上の高温が必要。でも1000度だと、そこらへんに落ちている石や粘土くらいだと溶けて壊れちゃうだろうね」
鈴さんが当たり前のように言う。
「だから、お祈りポイント使って神様から耐熱煉瓦をもらいたいのか」
俺は合点がいく。
「そ。そういうこと」
鈴さんがそう言って笑う。
「まあ、石英って言って結晶構造によっては熱に強い天然石もあるから、それが見つかったらそれでレンガ作ってもらうっていうのが一番安くあがりそうなんだけどね」
鈴さんがそう言って何かを考えている。
「生活に余裕がでたら石英探しもいいかもしれないな」
俺はそう言う。
「うん、その時はよろしくね、流司」
そう言って鈴さんが笑う。
とりあえず、貝の砕いたものや木炭の砕いたものは風に飛ばされないように土器に入れて葉っぱと荒縄で蓋をしておく。
そして、熊の油作りの方に戻ってみると、脂を絞り出す作業中のようだ。
脂を出来たばかりの麻布で濾してそのまま熊の油を絞り出す。煮詰めた土器とは別の土器に油が貯まる。そうしてまた別の土器を用意し、新しい布でもう一度油を濾し、布を絞り、脂を絞り出す。布と土器を洗ってこの作業を繰り返す。あまり絞り過ぎると不純物が増えるのでほどほどがいいらしい。秘書子さんのアドバイスだ。
これを3~4回繰り返し、ゴミの少ない油とお湯の混合液を作るのだ。
「りゅう君、暇そうなら、交代で泉に水浴びと洗濯に行こ?」
明日乃がそう言うのでとりあえず、俺、明日乃、一角、琉生で水浴びに行く。
そして、一角はなぜか嫌がるレオとアオを小脇に抱えている。洗うらしい。
「明日乃ちゃん、この油まみれの布も洗ってきて。油濾すのに何度も使うから」
真望はそう言って、熊の脂でべたべたな布を3枚、明日乃に渡す。
「こういうのも大事に使わないとね」
明日乃がそう言って受け取る。
昔だったら使い捨てにするような布だが、洗って何度も使わなければならない。作る労力も半端なかっただろうしな。
ティッシュを当たり前のように使い捨てにしていたころが懐かしいな。
とりあえず、交代で泉に行って洗濯と水浴びをする。泉のまわりでシャボン草を摘んで石鹸や洗剤代わりにする。
油を濾した布も、苦戦はしたようだが綺麗になったようだ。
そしてレオとアオも綺麗になったようだ。本人は不機嫌そうだが。
俺は女の子達が洗濯と水浴びしている間に竹を切る。
逆に俺が水浴びしている間は、女の子たちが竹を切ったり、山菜を集めたりして時間を有効活用する。
あと、竹で水筒をいくつか作って飲み水を汲んで持ち帰る。
「ただいま。作業交代するぞ」
俺達は拠点に帰り、作業をしていた麗美さん、真望、鈴さんと交代し、3人は泉に向かう。一応、護身用と竹を切るらしいので変幻自在の武器を麗美さんに貸す。
洗ってきた布で、熊の脂をもう一度濾し、濾した油の入った土器にゴミが入らないように蓋をして日陰の涼しいところにおいて固める。
これで固まらなかったら、麗美さんの氷魔法かな?
そんな感じで作業は一時終了。日が暮れるまでは麻の茎を叩いたり、麻糸を作ったり、手分けして作業をする。布は沢山欲しいしな。
日が暮れるころ、麗美さん、真望、鈴さんも水浴びを終え帰ってくる。竹も何本か持って帰ってくる。
あたりも暗くなったので、そのまま、夕食になる。
今日は明日乃が先ほど採ってきた山菜と熊肉を一緒に煮て熊鍋にする。
やっぱり、熊肉とネギに似た山菜がよく合う。
そして、日課のお祈りをして、見張りを眷属2人に任せてみんな眠りにつく。
熊の油と石鹸が完成するまで北の平原への遠征は延期、石鹸ができ次第北に向かう。
それと『ふいご』という将来的に鍛冶を始めようとしたときに有用道具になりそうなものを作れたのは大きいな。
明日石鹸が完成すれば、明後日は北のエリアの探索に再挑戦する。それ以上は琉生と一角のやる気を抑えられそうにないからな。
次話に続く。
【改訂部分】改訂前は遠征を焦り過ぎて石鹸作りを後回し、石鹸づくりを二度に分けて書くことになってしまうのが面倒なので北の平原への遠征を1日遅らせることにして、石鹸を完成させることにしました。
砂糖の完成が1日や2日遅れても誤差範囲内だと思ったので。
なんか徐々に日にちがズレだしたり、経験値の計算、食料の個数がズレだしてきて、ただ書き直すだけではすまなくなってきたので大変です。そろそろ1話丸ごと書き直しみたいな事態になりそうです。




