第44話 ウサギの毛皮の活用と魚獲り
【異世界生活 14日目 4:30】
眷属のレオとアオが夜の見張りをしてくれるようになって、しっかり睡眠がとれるようになった俺達。明日乃と俺は少し夜更かししてしまったがそれでも確実に6時間以上睡眠がとれている。少し眠かったので明日乃と二人で30分だけ余計に寝たけどな。
「みんな、おはよう。早いな」
俺はそう言って挨拶をし、明日乃と一緒にたき火の周りに座る。
みんな、麻の枝を叩いたり、思い思いの作業をしたりしている。
鈴さんは昨日拾ったドロップアイテムで青銅の槍に使う穂先を砥ぎ直してくれているようだ。
「ん? 真望はもう麻糸を作り始めているのか?」
俺は気になって聞く。
昨日、鈴さんが作った『スピンドル』? 糸を紡ぐ道具をくるくる回して糸を紡いでいる。
「ああ、折角ウサギの毛皮? ダンジョンのドロップアイテムが山ほどあるから、明日乃ちゃんと話していた通り、パッチワークして洋服を作ろうかなって。やっぱり、着替えがないと洗濯とか大変だしね」
真望がそう言う。
結局ハンカチ大で使いどころがなさそうなウサギの毛皮、ダンジョンのドロップアイテムを麻糸と昨日神様から貰った縫い針を使ってつなげて洋服にするらしい。ハンカチ大の毛皮とはいえ、2日間ダンジョンに潜っただけで60枚以上拾ったからな。まあ、麻糸さえあれば何着でも服は作れそうだ。
「麻布はいいのか?」
俺は気になって聞く。麻糸をある程度増やさないと麻布は作れないだろうし、毛皮を縫ってしまうと麻布の完成は遅くなってしまう。
「男のあんたにいう事じゃないけど、みんな下着が欲しいのよね。さすがに葉っぱや毛皮で下着作るわけにはいかないし。ただ、替えの服もみんな欲しいのは事実だし、先に作れる方を作っちゃおうかなって」
真望がそう言う。確かに、服の下はノーパンだもんな。俺も含めて。
「まあ、熊の脂身が手に入った時に麻布がないと油づくりもできないらしいから、麻布作りは急ピッチで進めるわよ」
真望がそう付け足し、麻糸を作り続ける。
「じゃあ、俺も麻の茎でも叩くか」
俺がそう言って作業に入ろうとすると、
「流司お兄ちゃん、朝ご飯できたし、先に食べちゃお? みんなも、手を休めて、ね?」
琉生がそう言って朝食を配り出す。琉生が早起きして朝食を作ってくれたようだ。
今日はウサギ肉を香草で焼いたステーキに茹でたニンジンやキャベツが添えられている。
「琉生、肉の在庫はどれくらいだ?」
俺は朝食を食べながら気になって聞く。
「ウサギ肉があと3食分、猪肉があと4食分、熊肉があと2食分で終わりだよ」
琉生がそう言う。
「ああ、食料の件は私と麗美姉であとで魚をとってくるから今日、明日の分くらいはなんとかなる。あとは、ウサギ肉任せか、朝食はバナナにするとか少し節約しないとダメかな?」
一角がそう言う。
「私は魚獲り確定なのね」
麗美さんが少し面倒くさそうに言う。
一角は風魔法、麗美さんは水魔法で、目の周りに空気の層を作れるらしいから水中眼鏡代わりに使えるそうだ。ゆえの魚獲り要員らしい。
「毎日ウサギ肉は嫌でしょ? 麗美姉」
一角がそう言って魚獲り仲間に引き入れようとする。
「ダンジョンの探索を一度止めて、島の探索をしながら狩りでもするか?」
俺は一応、一角に聞いてみる。
「それもいいな。とりあえず、ダンジョンの2階をクリアするか、全員レベル11になったら、島の探索もしてみるか」
一角がそう言う。きっと弓矢を使いたいのだろう。一角は暇な時を見計らって弓の練習もしているからな。
俺も投擲の練習とかもしようかな? せっかくスキルがあるんだし。
雑談をしながら朝食を食べ終わり、みんな作業に戻る。とりあえず、鈴さんが青銅の穂先で槍を完成させるまで、みんな麻糸作りの手伝いを中心に行う。
そんな作業をしていると、明日乃も起きてきて朝食を食べだす。
あとはいつもの日課の剣道道場をして、休憩後、それぞれの作業に移る。
一角と麗美さんは海岸に魚獲りに。
サメが出ると危険なので、俺もつき合う。俺が見える範囲ならば秘書子さんがサメの警戒をしてくれるらしいからだ。
まあ、俺は、水中眼鏡代わりになる魔法を持っていないので、海岸で貝拾いだ。変幻自在の武器は鈴さんに貸してきたので、ダンジョンで拾った粗悪な青銅の斧をシャベル代わりに砂浜を掘って貝拾いをする。
真望、明日乃、琉生は麻糸作りを、鈴さんは変幻自在の武器をのこぎりに変えて、竹を切り、ツリーハウスの建材作りだ。レオとアオはひたすら麻の茎を叩いて麻糸作りのお手伝いだ。
一角と麗美さんが海に潜るのを見ながら俺は貝を拾う。
ちなみに、一角は麗美さんに魚を獲らせる気満々だったようで、今朝、早めに起きて、麗美さん用の魚捕り用の水中弓矢をもう一組作っていたらしい。
それと、今朝、真望にウサギの毛皮で水着がわりにビキニを2着作らせたらしい。確かに、ビキニみたいな葉っぱの服ならそのまま潜ってもよかったが、今着ているワンピースの毛皮の服では海に潜れないもんな。もちろん、ハダカで泳がれても俺が困る。
俺が貝を拾っていると、10分弱で二人が上がってくる。
大漁のようで口から荒縄を通された魚を何匹もぶら下げて二人が帰ってくる。
「もう、流司クンたら、2人の美女のビキニ姿に釘付けじゃない?」
そう言って麗美さんがポーズをとる。
豊満な大人の、熟れた女性の双丘に俺は恥ずかしくて目をそらすしかなかった。
大人の女性の魅力を放つ麗美さんと健康的な運動部女子の魅力を放つ一角。二人とも胸はかなり大きく、黒いウサギの毛皮で作ったなんかいやらしい黒ビキニがそれをさらに引き立てる。
「安心しろ、流司。真望に明日乃の分のビキニもこの後作るように言ってあるから、今夜を楽しみにするんだな」
一角が余計な事をする。そもそも明日乃が海に入る理由も水着を着る必要もないしな。
「そういえば、一角、魔法の調子はどうだ? 水中眼鏡代わりになってるか?」
俺は気になって聞く。
「ああ、いい感じだぞ。目も痛くならないし、視界もいいし、魚も倍くらい獲れる気がするな。まあ、10分で切れるのが玉に瑕だが」
一角がそう言って自慢げに魚を見せる。
10分で5~7匹ってところか? 100円でその数ならまあ、お得かもしれないな。
そんな感じで少し休憩してから二人はもう一度海に入り、合計20匹以上の魚を獲ってきた。
そして俺も気持ち程度だがアサリに似た貝を両手で持てるくらいの量だがとることができた。
「ただいま。結構とれたぞ」
そう言って明日乃達に魚を渡す一角。大小合わせて20匹以上だ。
「すごいね。今日食べる分以外は干物にしないとね」
明日乃がそう言って、さっそく、魚を捌き始める。
俺も魚を捌く技術は親父に釣りで鍛えられたので明日乃を手伝う。
「一角ちゃんは海水汲んできて。塩漬けにするほど塩残ってないし」
明日乃がそう言う。
「マジか? 塩も残り少ないのか?」
一角がそっちに飛びつく。言われてみると最近塩作り忘れていたな。ダンジョンの事で頭いっぱいだし、時間も取られていたし。
「レオ、塩作りするぞ。お前も手伝え」
一角がそう言って、麻の茎を叩いていたレオを引きずるように連れていく。
俺は魚を捌き、一角と麗美さんとレオは土器を持って水を汲みに、そのまま、一角とレオは海水を煮始めて塩作りに入る。
俺は3人が汲んできた海水に少し塩を入れて塩分濃度をあげて開きにした魚を放り込んでいく。
「これだけあれば、7人で5~6食分あるかな? 2日は食料が確保できたよ」
明日乃が嬉しそうにそう言う。
ウサギ肉と猪肉と熊肉も合わせて5日分くらいか。ダンジョンに潜ればウサギ肉は永遠に増えるが足りなくなりそうだったらバナナとかも取ってくるか。
「やっぱり、人が増えると食料の減りが早いな」
俺はそう言う。明日乃も頷く。
「そうそう、飲み水も残り少ないから、午後、ダンジョン攻略終わったら水も汲んで帰ろうね」
明日乃がそう言う。
料理関係は明日乃が仕切ってくれてかなり助かっているな。
「ちょっと遠回りになるが、時間があれば、ダンジョン終わったら、元の拠点のそばでバナナとか採って帰るか」
俺はさっき思いついたそんな提案をする。
「そうだね、山菜とかも欲しいし、懐かしい帰り道で帰ってもいいかもね」
明日乃がそう言う。
まあ、懐かしいといっても、こっちに引っ越して数日しかたってないんだけどな。まあ、色々あり過ぎて時間の流れがおかしいし、しかたない。
そんな感じで魚の干物の下ごしらえをして、終わったところで俺はツリーハウス作りに参加する。
俺、麗美さん、鈴さんがツリーハウス作り。
真望、明日乃、琉生が麻糸作り。アオはひたすら麻の茎を叩く作業。
一角とレオは塩作り。レオは今日1日塩作りをさせられるらしい。
なんかレオが一角の眷属で、アオが俺の眷属みたいな逆転現象が起きているが、まあ、いいか。
ツリーハウス作りは根気がいるな。建材の上げ下ろしが大変だし、想像していたより建築が進まない。まあ、少しずつ出来上がっていくのを見るのは楽しいが、時間も体力もかかり過ぎるな。
今日は、麗美さんがノコギリで鈴さんが作った見本の竹と同じ長さに切る作業を黙々としつつ、俺と鈴さんが木の上に登って実際組み立てる作業をする。まあ、俺は建材の上げ下げや建材を押さえる手伝いみたいなレベルだけどな。
まあ、3人で手分けして頑張ったおかげで、ツリーハウスの1軒目の土台と、床、そして簡単な柱の骨組みを立てるまでは進めることができた。
これを4棟とその中心に集会場も作るらしい。先は長いな。
【異世界生活 14日目 11:00】
今日は早めに昼食を食べて、ダンジョンに向かう。水汲みとバナナや食材を採って帰る予定だからだ。
さっき一角達が獲った魚を丸焼きにしたり、お吸い物にしたりして食べる。俺のとった貝もお吸い物になる。
「やっぱり、この魚美味しいね」
明日乃がお吸い物を食べながらそう言う。俺が前に獲ってきたハマフエフキダイとか言う沖縄にいる魚に似たやつだな。
「アサリみたいな貝も美味しいね。良い出汁でてるよね」
琉生もうれしそうにそう言う。塩だけで味付けした魚と貝の汁だけどな。
「この焼き魚は旨いな」
一角がそう言う。
今回色々な種類を獲る事に挑戦したらしい。以前、一角が獲った大きな魚は大味だったしな。
いろいろな魚の中でも美味しいものを秘書子さんにチョイスしてもらったので今日の焼き魚は美味しいのだ。もちろん、残念な味の魚も干物として次回以降に登場する予定だが。
昼食も終わり、12時前、準備を整えダンジョンに向かう。
全員、青銅製の穂先のついた木の槍を持つことができたし、予備の槍2本も青銅製だ。
「今日は、まずは俺と一角が中心になって敵を倒し、レベルを11にする。その後、明日乃と琉生もレベル11をめざしつつ、2階のボス討伐をめざすよ」
俺はそう言ってダンジョンに入る。
そして、もう攻略3回目でかなり慣れた1階の攻略。俺と一角がとどめをさすのを意識して戦い、ボスの部屋をクリアしたときには一角がレベル11になり明日乃もレベル11になった。昨日まで明日乃にとどめを刺させていたので俺より経験値が貯まっていたようだ。
一角も麗美さん同様、攻撃魔法を習得可能になる。攻撃魔法は『風の刃』、獣化スキルとして『狼の疾走』という魔法スキルを習得可能になったようだ。
前者はまんまかまいたちのような風の刃を飛ばす魔法。後者は麗美さんの『猫の歩み』と同じようなステータス強化魔法だ。ただ、麗美さんの魔法とは違い、素早さは上がるが直線的な動きになるので隙も多くなる魔法と説明には書いてあったらしい。左右の回避にも強い麗美さんの攻防一体の強化魔法と攻撃特化の一角の強化魔法といった感じかな?
あと、獣化スキルに獣化義装という着ぐるみバリアの魔法も麗美さん同様追加された。
明日乃は神様が言っていた通り、回復魔法と防御魔法を覚えられるようになったらしい。
回復魔法は麗美さんと全く一緒。マナかお祈りポイント300使って仲間を回復。ただし、効果は麗美さんの1.5倍の仲間のHPを45回復できるらしい。INTの高さの違いか、信仰心の高さの違いか分からないが。
防御魔法の方は『聖域』。結界を張る魔法らしい。自分たちの周りに絶対不可侵のバリアを張れるそうだ。ただし、10分ないし、45回攻撃されると、結界が消えるか、マナかお祈りポイントをさらに300消費する。攻撃されるとどんどんお祈りポイントが減るポイント泥棒な魔法らしい。しかも強い攻撃魔法を受けると45回分の耐久度ががっつり減るらしい。
それと補助魔法が二つ。麗美さんや一角と同じような獣化スキルでステータス強化魔法『脱兎』、防御や回避に重点を置いた素早さ強化の魔法らしい。左右に高速ステップできる。もちろん、攻撃にも使えるが、どちらかというと防御の方に活きる魔法とのこと。
もう一つの補助魔法は『祝福』。10分間仲間一人のステータスを全体的に少し上げる魔法らしい。
まあ、全般に言えるのは初級魔法ということで、マナかお祈りポイントを300消費するのであまり積極的には使えなそうだ。大事な時やピンチの時に使う感じかな?
先にレベルアップした2人同様、獣化義装も覚えたそうだ。ウサギの着ぐるみ? ちょっと見て見たい気もするがマナ300は勿体ないので我慢だ。
1階を攻略し、北のエントランスで少し休憩してから、2階に挑む。
一角もレベルが上がったおかげか、防戦一方だった爪ウサギを模したウッドゴーレムに対しても、攻撃に転じられるようになったようだ。素早さが少し上がって、敵の速さに対応できるようになったのと、器用さが上がって武器の正確性があがり、力の上昇で敵へのダメージも格段に大きくなった。変な話、ウッドゴーレムの弱点の核を破壊しなくても動きを止めるくらいまでダメージを与え続けられるようになったのだ。
「これならいけそうだな」
一角が嬉しそうに言う。
そのあと、俺も一角や麗美さんにウッドゴーレムのとどめをさす役を譲ってもらい、すぐにレベルが上がる。
俺の場合、素早さと器用さが劇的に上がり、2階のウッドゴーレムの素早さを上回る動きが急にできるようになった。
敵の攻撃に合わせて、相手の爪を跳ね飛ばしつつの2連撃、的確にウッドゴーレムの核を破壊する。
急に立場が逆転した感じだ。
ちなみに、俺も魔法を覚え、攻撃魔法は『闇弾』。圧縮した何かをぶつける魔法? 何かって何だよ? マイクロブラックホール的な何からしい。
闇属性は名前の通り闇を操るのと、空間を圧縮する、そして簒奪が特徴らしい。
初級魔法に生活魔法のような魔法、『圧縮する』という魔法も加わった。なんか物を絞ったりするのによさそうだな。
そして、獣化スキルは他のメンバーと同じく2つ。先にレベル11になった3人と同様、ステータスを上げる魔法『獅子の咆哮』。一角の補助魔法と似ているが、一角の魔法ほど素早さは上がらない代わりに筋力、攻撃力が上がるらしい。それと、敵を怯えさせる効果もあるそうだ。それとおなじみの獣化義装だ。
もう一つ魔法を覚えられるようになっていて、『横取り』。10分間だけ敵1体のステータスを奪い、自分のステータスを底上げできる魔法らしい。
まあ、どれもマナかお祈りポイント300消費なので頻繁に使える魔法ではないけどな。
最後に琉生にもとどめをさす役を回して琉生もレベル11になる。
琉生は力と体力が上がって、素早さも少し上がり余裕はできたようだ。俺と一角の中間みたいなステータスの上がり方かな?
ただ、琉生はまだ槍の使い方に慣れていないのか、格段に強くなった感じはないそうだ。あくまでもレベル7の素早さ特化のウッドゴーレムと対等になったくらいの印象とのことだった。
琉生の攻撃魔法は土属性なのでお約束の『石弾』。石つぶてを高速でぶつける魔法だ。
補助魔法は『猛虎蹴撃』。なんかふざけた名前だが結構強そうだ。
俺の『獅子の咆哮』によく似ているが、敵を怯えさせる効果がない代わりに隠密効果があるらしい。忍び寄って強烈な一撃を食らわせる感じかな?
そして、獣化義装。虎の着ぐるみはちょっと強そうかもしれない。
みんなレベル11になって急に魔法が増えてちょっと消化不良といった感じだ。というより、ポイントが勿体なくてあまり使えなそうだ。
まあ、神様に「もっと使えよ、異世界なんだからさ」って怒られそうだが。
そんな感じで、俺と一角が格段に強くなり、琉生も対等に戦えるようになり、2階も余裕が出てくる。
通路の敵を全部倒し、宝箱を2個確保、最後のボス部屋に挑む。
とりあえず、ボス部屋の扉を開けて、いつものチラ見だ。
みんなで、入り口の縁からチラ見して鑑定する。
なまえ イッカクウサギ
レベル 10
凶暴なウサギ。角で刺す。
爪でひっかくことも噛むこともある
レベルが上がるとどんどん素早くなる。
それを模して神が作ったウッドゴーレム。
両目の赤い核を壊すと停止する。
「1階と同じパターンだな。レベル7のウッドゴーレムが4体に、レベル10が1体、しかもボスらしきウッドゴーレムには角が生えてるし、核が両目の二つに増えてるし、突っ込みどころ満載だな」
俺はそう言う。
「角で刺す、爪でひっかく、噛みつく、何でもありだな」
一角が嫌そうな顔をする。
「一角兎だし、一角の親戚じゃないのか?」
俺はそう言って冷やかす。
「流司は馬鹿じゃないか? 親戚だからと言って名前が一緒になるわけないだろ? 苗字ならともかく」
一角がそう言って俺を馬鹿にする。いや、そんなアホの子みたいな突っ込みを返されても困るんだが。
「漫才はそれくらいにして、いくわよ。ボスはどうする?」
麗美さんがそう言って俺と一角の漫才を止める。
「今回も俺がボスを押さえるよ。多分、アホみたいに素早いだろうし、麗美さんがボスに足止めされちゃうと選択肢が狭まるしな」
俺はそう言い、麗美さんが了承と頷く。
「いつもの流れね。私が2匹相手にするから明日乃ちゃんは私のフォロー、他は一人一体ね」
麗美さんがそう言って武器を構え、みんなも武器を構える。
「ちょっとまった。今回は盾で行こうと思う」
そう言って慌てて変幻自在の武器を四角い盾にする。
今回は丸盾ではなく四角い盾だ。足元狙われたらヤバそうだしな。
そして武器は一角から予備の槍を借りる。槍を短く持って片手で扱う感じだ。
「準備できた? じゃあ、いくわよ」
麗美さんがそう言い、俺も頷く。
そして麗美さんが敵に全力で走り寄り、一角も琉生もそれに合わせて全速力で目の前の敵に走り寄る。
俺は少し遅れるように飛び出し、スピードを合わせる。俺だけ素早さが飛びぬけて高く、全速力で飛び込むと先行し過ぎてすべての敵の標的になってしまうからだ。
だが、気にする必要はなかったようだ。
ボスの一角兎のウッドゴーレムがものすごいスピードで突進してくる。
俺もそれに合わせて、全速力で突進し、部屋の中央でぶつかり合う。
しかも一撃じゃない!
角による突進、左右の爪の2連撃、盾を後ろ脚で蹴り飛ばしてのバックステップ、そこからサイドステップを踏み、別の角度からの3連撃。
ヤバい速さだ。
しかも、俺が気を抜いて、プレッシャーをかけ忘れれば、一角や琉生に襲い掛かりそうで怖くなる。全身全霊を目の前の敵に集中する。
今の動きに一角や琉生、そして明日乃が気を取られている。いや、呆気にとられている。
「みんな、自分の相手に集中しろ。こいつは俺が抑える」
俺はそう言って、盾を使ってボスのウッドゴーレムを押し込み、全力で部屋の奥まで移動させる。
盾に肩を当てて、サッカーで言うショルダータックルの感じでボスを押し込む。
途中、ウッドゴーレムがそれを嫌がり、サイドステップで避けようとするので、そのまま、右手に持った槍で首のあたりを一突きし、跳ね飛ばし、さらに追いかける。
プレッシャーをかけ続けないと、速度を活かして、俺以外の誰かに襲いかかりそうで冷や汗が出る。
そんな感じで必死に攻撃の読み合いをし、プレッシャーをかけ、盾で攻撃を受け、逃げるようなら、その隙を槍で突く。
徐々にだが、敵も弱っているようだ。
そして、ボスウッドゴーレムがきょろきょろと回りを伺う。
「?」
俺は一瞬、奇妙に感じるがその理由はすぐに分かった。
「流司クン、周りの敵は倒したわ。手伝う?」
麗美さんがそう言ってくる。
あまりにも集中し過ぎて、時間の経過も分からなかったのか。
「手伝って。一人だと時間がかかりそうだ」
俺はそう言って攻撃より、足止めに全力を注ぐ。
麗美さんと一角に囲まれて、ボスウッドゴーレム(一角兎)が落ち着かない。
俺は冷静にその隙を突いて、槍で一突きし、弱ったところを、2突き。両目のコアをつぶし、敵が煙のように消えていく。そして残ったのは、額についていた角、粗悪な青銅の斧と同じような金属片をドロップする。
「ふう~~~~」
俺は今までの人生で一番大きく長いと思うような息を吐く。
それだけ集中していたみたいだ。
「流司クン、お疲れ様。ヤバそうね。今の敵」
麗美さんがそう言う。
「あれが下の階では4匹並ぶのか。一難去ってまた一難って感じだな」
一角がそう言ってぐったりする。
確かに、やっとのことで爪ウサギのウッドゴーレムと対等以上の戦闘ができるようになったのに、今度はさらに速い一角兎のウッドゴーレム。しかもレベルは10で素早さ特化。
素早さ重視のステータスの俺だから対応できた、いや、また対応しきれず、防戦一方になった。さすがにこの強さは、麗美さんでも1対1で防戦一方になりかねないな。
「2対1でやっとかな?」
俺の考えが伝わったのか、麗美さんがそう言う。俺もそう思う。
「1対1で反撃できるようになるにはもう1レベル、いや2レベル上げないとダメかな?」
俺は今の戦いで冷静にそう判断する。
「どうする? 3階行くか?」
一角がそう聞く。
「そうだな。5対1なら何とかなるだろ? 2体出だすところまで行ってこいつに慣れよう」
俺はそう言って、部屋の奥にある木箱から、粗悪な青銅の斧を回収し、南のエントランスに抜ける。
「3階の入り口は南のエントランスからスタートだね。途中でリタイアしても階段上がるだけで出口だから帰りが楽だね」
明日乃が能天気そうな声でそう言う。
そしてみんなも笑う。
そうだな。悲観的にならずに、ポジティブにいこう。
エントランスで少し休憩してから、第三階層に挑むのだった。
次話に続く。
【変更部分】みんな魔法に加えて、獣化義装のスキルを覚えました。明日乃の結界魔法の劣化対策です。そして個人のステータスアップ魔法も獣化スキルになったので、お祈りポイントでは使えず、使いづらい魔法になりました。地道にダンジョンで鍛えないと進めない感じですね。
まあ、同じことの繰り返しの作業部分はスキップしますw 読むのも面倒臭いと思うので。
だいぶ、戦闘システムが変わり出して面倒臭くなりました。書き換える部分が増えて改訂ペースが落ちそうです。というより全文書き換えになる日も近いかも。




