第37話 ダンジョンに挑もう
【異世界生活 12日目 5:00】
「おはよう、りゅう君、もう起きる?」
俺が目を覚ますと明日乃が横から俺にそう声をかける。
昨日は21時に就寝。昨日の夜からレオとアオ、2人の眷属が夜の見張りをしてくれるようになったので、みんな8時間寝られるようになった。
「ああ、起きようか」
俺はそう言って家から這い出る。明日乃も俺に続いて家から出てくる。
なんか、明日乃と一緒に寝るのが自然になり過ぎて怖いくらいだ。
「おはよう、ボス」
後半の見張り役だった新しい仲間、眷属のアオが挨拶する。
一角、鈴さん、琉生、真望も起きていてみんなで挨拶を交わす。
麗美さんはだらし姉なので寝坊気味だ。
「レオは?」
俺はレオがいないことに気づきそう聞く。
「いつもの薪拾いよ。自主的にやってくれて助かるけど、悪い気もするのよね」
真望がそう言い。明日乃も頷く。
「なんか働き過ぎな気もするよな。いくら、俺たちの半分しか寝なくてもいいといってもな」
俺はそう言って心配する。
「まあ、あいつは好きでやってるみたいだし、止めるのもなんだしな。やることない時に休憩させてやればいいんじゃないか?」
一角はそう言って、あまり心配していないようだ。
「私も行ってくる!!」
アオがレオに対抗するように立ち上がり薪拾いに行ってしまう。
「アオ、気をつけろよ。あと無理はするな」
俺は慌てて飛び出すアオにそう声をかける。
「とりあえず、朝ごはん作るね」
明日乃がそう言い、琉生も手伝う。
「そういえば、真望って料理できないのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「料理は下手よ。悪い? どうせ、実家暮らし18年、家事は何もできませんよーだ」
そう言って真望が不貞腐れる。
「ちなみに私も苦手だ。忙しすぎてスーパーの総菜やコンビニ弁当に頼り過ぎた」
鈴さんが恥ずかしそうにそう言う。
高校生のときはモデル業、大学に入ってからは授業とバイトに忙しかったらしい。
「料理できるのが、明日乃と琉生と俺だけか」
そんな雑談をしながら朝食ができるのを待つ。
「そういえば、今日はダンジョンに行くんだよね? 私は留守番でいいかな? 石窯とかツリーハウスを作り始めたいしね」
鈴さんがそう言う。
「だったら、私も留守番。5人しか入れないんでしょ? 私は留守番しながら麻糸作るわ」
真望もやりたいことがあるらしい。
「まあいいんじゃないか? 俺としては、治癒魔法が使えるようになる明日乃と麗美さんを優先したいし、俺と一角は強くなっておいたほうがいいと思うしで、あと一人、琉生もダンジョン行ってみたいと昨日から言っていたし、ちょうどいいかもな」
俺はそう言う。
「ただし、麻糸や麻布が落ち着いたら真望もダンジョンでレベル上げするし、将来的には鈴さんも色々やることあっても午前中はダンジョン入るようにしてもらうからね。レベルを上げると獣に襲われたときの命の危険性がだいぶ下がるだろうし」
俺はそう言い、2人も頷く。
「あと、申し訳ないんだけど、今日のダンジョンは午後からにしてもらえないか? 石と竹を午前中に運んでもらえると、私が留守番している間に色々できるし」
鈴さんが申し訳なさそうにそう言う。
「そうか、だったら午前中、竹を採りに行くついでにイノシシの皮を洗いに行って、麗美さんに乾燥してもらうかな。さすがに俺と麗美さん、葉っぱの服でダンジョン攻略はかっこ悪いしな」
俺はそう言う。
「まあ、毛皮を着て原始人みたいな恰好でダンジョン攻略も十分恥ずかしいけどな」
一角がそう言って笑う。
確かに違いない。
「少しだけ防御力ありそうだろ? 毛皮の服の方が」
俺はそう言って、何とか真望に午前中、俺と麗美さんの服を毛皮で作ってもらう約束を取り付けた。
【異世界生活 12日目 6:00】
麗美さんが起きてきて、ダンジョンに行くのが午後になった件、事情を説明し、少し早いが作業に入る。
俺と明日乃と琉生とアオは竹林に竹取と泉にイノシシの毛皮を洗いに。
鈴さんと一角とレオは河原に石窯用の石を採りに。
麗美さんは朝食をとり、真望は留守番しながら、麗美さんがご飯を食べ終わって、麻の茎を乾燥させてもらうのを待つ感じだ。
俺は、とりあえず、竹林に行き竹を切る。アオは石斧で竹を叩き切る感じだ。明日乃と琉生は毛皮を洗いつつ、水浴びをしている。明日乃達の水浴びが終わり次第、俺も水浴びをする。3日風呂に入っていないともなると、サバイバル生活とはいえ明日乃に嫌われそうだしな。
俺が水浴びしている間、琉生に変幻自在の武器を貸して竹を切ってもらい、アオも手伝う。明日乃はなぜか、竹の子を探しているようだ。まあ、美味しいけどな。
俺の水浴びも終わり、みんなで竹を担いで拠点に戻る。
拠点に戻ると真望が麻の茎と悪戦苦闘していた。
麗美さんに麻の茎を乾燥してもらったみたいで、余分な皮の部分を採る為に一生懸命棒で叩いている。
「麗美さん、このイノシシの毛皮も魔法で乾燥させてくれないか? 俺と麗美さん、葉っぱの服でダンジョン行くのはちょっと格好悪いだろ? 急いで乾かして真望に服にしてもらおうと思ってさ」
俺は彼女にそう言い、魔法で毛皮を乾燥してもらう。
イノシシの毛皮、絞ってはきたが、結構びちゃびちゃだったので、乾燥の魔法を2回かけてもらう必要がでてしまった。
そして、真望には一度、麻の茎との奮闘を休んでもらい、俺と麗美さんの服を作ってもらう。洋服作りの為に変幻自在の武器を真望に貸す。
そうしていると、鈴さん達、石拾いチームも帰ってくる。
ちょうどいいので、少し休憩しながら毛皮の服の完成を待つ。
俺と麗美さんの服ができたのでそれを着て、麗美さんの服がよく似合うと散々褒め、日課の剣道教室をして、もう一度、それぞれの作業に戻る。
俺はもう一度竹採りだ。毛皮の服もできたし、全員が葉っぱの服を卒業、新規一転やる気が出てきた。
【異世界生活 12日目 11:00】
二度目の竹採りも終わり、石拾い組も戻ってきたので早めの昼食。ダンジョン攻略の準備だ。
真望と鈴さんは俺達がお昼ご飯を作っている間、変幻自在の武器を使って何か作っているようだった。麻糸作りに必要なものっぽいな。
「真望、鈴さん、そろそろ変幻自在の武器返してくれ。それがないと、さすがにダンジョン攻略ヤバそうだしな。で、何作ってるんだ?」
俺はそう言って、変幻自在の武器を返してもらいつつ、何をしていたのか聞く。
「これは、麻の繊維をほぐす道具ね。同時にいらない皮の部分も取れる感じ?」
そう言って見せてくれたのは、社会か何かの教科書で見た記憶のある昔使われていた農機具?
「千歯こき、っぽいものかな?」
明日乃がそれを見てそう言う。
そうだそうだ、そんな感じの名前の農機具だ。
竹をうまく使って、大きな櫛みたいなものを作ったようだ。それに机のような足がついていて、その大きな櫛に稲穂を通すと籾だけ落ちる。そんな農機具を竹で作ったようだ。
「そうそう、そんな感じ。これに麻の茎の束を何度も通すと、麻の繊維がほぐれて、要らない外の皮もとれる感じね。まあ、これ使う前に麻の茎をいっぱい叩かないとダメなんだけどね」
真望が明日乃にそう答える。
大変そうな作業だが、真望が楽しそうにやっているから任せてもいいだろう。
ダンジョンに行くメンバー、俺、明日乃、一角、麗美さん、琉生がそれぞれ準備をする。
それぞれ、黒曜石の穂先のついた木の槍と一応、サブ武器として石斧、安全とは言われても何が起こるか分からないので水筒と少し火であぶった熊の干し肉を非常食としてヤシの葉で作ったリュックサックに入れる。あと、何かに使えるかもしれないと荒縄もリュックに入れる。
今回、琉生には後衛に回ってもらい、予備の木の槍を3本持ってもらう感じにした。何が起きるか分からないしな。
それと、一角は今回、弓矢は持って行かないらしい。ダンジョンが狭くて敵との距離が近く、使えなかった場合、荷物になるからだ。
「じゃあ、いくか」
俺はそう言って、泉に向かって歩き出す。
ダンジョンは泉の奥、川を渡った先にある小高い丘の中腹にあるからだ。
「気を付けてね」
「あまり無理はしないようにね」
留守番の真望と鈴さん、そしてレオとアオも見送りをしてくれる。
ちなみに今のパーティのレベルは
流司 レベル10 レンジャー見習い 剣士見習い
明日乃 レベル9 神官見習い 聖魔法使い見習い 剣士見習い
一角 レベル10 狩人見習い 剣士見習い
麗美 レベル10 医師 剣士 治癒魔法使い見習い
真望 レベル7 剣士見習い (留守番)
鈴 レベル8 鍛冶師見習い (留守番)
琉生 レベル6 テイマー見習い
前回から明日乃がレベル1上がっただけだな。軽作業や剣道道場、クマ肉を食べるだけじゃ大した経験値にはならないか。
「今回、前衛は俺、麗美さん、一角。明日乃は俺の後ろにつき、琉生は一角の後ろにつき、敵の数が3体以上になったら、戦闘補助する感じで頼む。とりあえず、俺と一角と麗美さんがレベル11になるのをめざす感じかな? で、その後、余裕が出たら明日乃や琉生のレベルを上げる。そんな感じだ」
俺は歩きながら今日の作戦を説明する。
秘書子さんの説明ではダンジョンは奥に進むほど敵の数が増え、最大5匹に。下に進むほどレベルが上がるといっていた、なので最初は敵も少ないだろうと考えている。
とりあえず、泉につき、マップに表示されている方角を見ると、確かに山の中腹あたりに黒っぽい建物が見える。ダンジョンの入り口だろうか?
俺達は泉を少し下り、浅い川が流れだすところを徒歩で渡る。水量が少ないので徒歩でも十分渡れる深さだ。
そして、そのまま、ダンジョンらしき建物まで丘を登る。
「これがダンジョンっぽいな。なんか、ダンジョンというより、学校の体育用具置き場というか、公衆便所というか、なんか小さいな」
俺は建物を見てそう言う。
黒い四角い石を積んでできた四角い建物に大きめの入り口が口を開けている。
「多分、半分埋まってるから奥は深いんじゃないかな?」
明日乃がそう言う。見える部分と中は別物なんだろうな。
建物に近づくと、入り口に、変な膜のような光のような良く分からないものが張ってある。
みんなも、怪しすぎて警戒した目でそれを観察する。
「秘書子さん、これって何?」
俺は秘書子さんに聞く。
「これは、5人という人数制限を課すための魔法の障壁です。5人入って、6人目が入ろうとすると、この魔法障壁に阻まれます。体には害がないので安心してください」
秘書子さんがそう教えてくれる。
見た目は異様でいままでみたことのないようなものだったが、秘書子さんの説明にとりあえずみんなも安心する。
「じゃあ、行くか」
俺がそう言うと、みんな緊張した顔になる。
最初は俺が入り、中を調べる。いきなり敵が襲ってくる気配はないようだ。
小さな小屋のような建物に入るとすぐに下りの階段がある。そして、その階段を降りると少し広い部屋が現れる。
「ここはエントランス。各階に移動する為の階段がある部屋で敵は出てきません。安全地帯となっております」
秘書子さんがそう言うので、みんなも入ってもらう。
中は外から見たのと同じような黒い四角い石を重ねて作られたような構造だ。
10畳くらいの四角い大き目な部屋になっていて、なぜか中はうっすら明るい。壁のところどころに発光する石が埋め込まれているようだ。
そして部屋を見渡すと正面の壁に二つの入り口がある。
一つはそこから下る階段があり、入り口のところに『B1、B3、B5』と書いてある。
そしてもう一つの方は長い廊下が続いていて『B2、B4』と書いてある。
「ああ、なんとなくわかったよ。多分、このダンジョンの1階は今いる南のエントランスから北にあると思われるエントランスに向かってダンジョンを進む感じ? そして2階は北のエントランスに抜けて、そこにある階段を下りれば2階に行けて、2階は逆に北から南に向かってダンジョンを攻略して、このエントランスの下の階に出てくる感じ。階を下るごとに北と南を行ったり来たりするダンジョンっぽいよね。書いてある数字から予想すると」
明日乃がそう言う。
なるほど。だから階段には『B1、B3、B5』と書いてあって、廊下のほうには『B2、B4』と書いてあるのか。たぶん、この廊下を進むと北のエントランスにつながっているってことだろうな。
「その通りです。次回以降の攻略時、2階や4階からスタートする場合は、この右の廊下の方を進み北のエントランスをご活用ください」
秘書子さんが種明かしをしてくれる。
「じゃあ、とりあえず、今日は階段の方だな。地下1階に降りてダンジョンを攻略、2階に挑戦する権利を取りに行くと」
俺はそう言ってみんなも頷く。
「ちなみに秘書子さん、2階への挑戦権ってどうやってもらうの?」
俺はそれが気になって聞いてみる。
「ダンジョンの最奥にボス部屋と呼ばれる敵が5体出てくる部屋があるので、その5体を倒せば、その時点で部屋にいる5人に挑戦権利が与えられます。ダンジョンを管理する精霊が、挑戦権も管理しているので特にすることはありません。自動で体に権利が登録される感じです」
秘書子さんがそう教えてくれた。
「とりあえず今日の目標は最奥のボス部屋。敵が5体で襲ってくる部屋、そこで敵を全部倒して2階への挑戦権の取得をめざすよ」
俺は秘書子さんに教えてもらったことを元に計画を立て、みんなに目標を提示する。
そして俺が先頭で階段を下りる。
階段を降りると、ダンジョンの入り口とよく似た光の膜の張った入り口が開いている。そして背中側の壁には今降りてきた階段と下に降りる階段2つがあった。
「この階段をさらに降りると2階のダンジョン出口ってことか」
俺はそう言う。
「多分そうだろうね。で、さらに階段を降りると3階のダンジョンの入り口があるのかな?」
明日乃が俺の言葉にそう答える。
「まあ、とりあえず、今日はこの入り口から入ればいいんだろ? 多分、このバリアみたいな膜が挑戦権を確認する魔法の障壁だろうな」
一角がそう言う。
「その通りです。ですから、今の段階で3階のエントランスに行き同じような魔法障壁をくぐろうとしても現段階では3階の挑戦権をお持ちではないので、みなさん、魔法障壁に弾かれてしまいます。5階の入り口も同様に弾かれます」
秘書子さんが一角の言葉に回答する。
「なるほどね。この魔法障壁と挑戦権ってやつが曲者ね」
麗美さんがそう言って少し楽しそうな顔をする。こういうの好きなのかな? 脱出ゲームみたいなの?
「じゃあ、入るよ」
俺がそう言うと、事前に打ち合わせしておいたフォーメーションになる。
前衛中央が麗美さん。前衛右が俺。前衛左が一角。そして俺の後ろに明日乃が続き。一角の後ろに琉生が続く。
まず俺が首だけ入れて、ダンジョンを観察する。とりあえず、敵はいないようなので入り、みんなも入ってくる。
とりあえず、右にしか道がない部屋だ。
とりあえず、フォーメーションをそのまま回転するように立ち位置を変えてから前に進む。
「みんな、全方向に注意を払いつつ、麗美さんは特に前を、一角は左を、明日乃と琉生は後ろも注意しながら進んでくれ」
俺はあまり数多くはやらなかったが、子供のころにやったRPGゲームなどを思い出しながらそう指示を出す。
そして、手に持った、変幻自在の武器を槍に変化させたものを構え直す。
とりあえず、前に何もいないのでまっすぐ東に向かって進むことにする。
「とりあえず、右手で壁を触りながら進む感じでいくよ? 迷路で迷わないお約束の方法だ」
俺はそう言って右の壁沿いに歩く。
「あ、りゅう君、ステータスウインドウのマップがダンジョン用になってるよ。歩くと自動でマッピングしてくれるみたい」
明日乃がそう言ってステータスウインドウをいじっている。
「そこはゲームっぽいんだな。まあ、迷わなくてあるがたいけどな」
俺はそう言って笑う。
「しっ、何かいるぞ」
一角がそう言って木の槍を構える。
東にまっすぐ行った突き当り、左に曲がる角の先に何か気配を感じる。
「オレが突っ込むからフォローしてくれ」
俺がそう言うと、
「まって、流司クン。もしかして、キミが持っている変幻自在の武器って盾にもなるんじゃないの? 盾にして突っ込んで、私がひるんだ敵を倒す。できない?」
麗美さんが突拍子もない事を言う。
いや、武器だろ? と思いつつ試してみると、普通にできた。
筒状の部分を持ち手にしてその両側から金属が出だしてつながり、丸い盾に変化する。
「マジか、盲点だった」
俺はそう言って、出来上がった盾をまじまじと見る。
「その勢いで中華鍋とかもできちゃいそうだよね」
明日乃がそんなことを言うので俺は無意識に想像してしまい、筒の部分を持ち手にした中華鍋になってしまう。
「できたな」
「うん、できちゃったね」
一角と明日乃が呆れるように言う。
「筒状の部分とつながっていて、複雑な構造じゃなければなんでもできるって事かもしれない」
俺はそう言う。
「流司お兄ちゃん、農業始めるときは私にも貸してね」
琉生がうらやましそうにそう言う。
「ねえ、みんな、遊んでいる間に敵が来ちゃったわよ」
麗美さんがそう言って武器を構える
突き当りを見ると、敵?
なんか木製のでかいウサギがいる。中型犬か大型犬くらいの大きさがあるんじゃないか?
見かけは置物みたいだが、動いている。
一応鑑定してみる
なまえ キラーラビット(噛みつき)
レベル 5
凶暴なウサギ。飛び掛かってきて噛みつく。
レベルが上がるとどんどん素早くなる。
それを模して神が作ったウッドゴーレム
額にある赤い核を壊すと停止する。
そんな悠長なことをしていると、木製のウサギが走り出し俺に飛び掛かる。
俺は慌てて持っていた中華鍋でウッドゴーレム(ウサギ)を殴り、叩き落す。
「ダンジョン最初の一撃が、中華なべはかっこ悪いわね」
麗美さんが笑いながらそう言って、黒曜石の槍でウッドゴーレム(ウサギ)を突き刺す。
しかし、ウッドゴーレムの体は木製で固く、黒曜石の穂先でも刃がほとんど通らない。
「麗美さん、額の赤い宝石が弱点らしいから、そこを狙って」
俺は鑑定結果を参考にそうアドバイスする。
そして俺は中華なべを丸盾に戻し、腰に下げていた石斧を右手で構える。
もう一度ウッドゴーレム(ウサギ)が襲ってくるので、俺が前に立ち、丸盾で防ぎ、叩き落す。
そして、ウッドゴーレムが着地したところを麗美さんが黒曜石の槍で突く。今度は的確に額に光る宝石、核を貫き、その宝石が割れると、ウッドゴーレムが動かなくなり、霧散する。
神様にお祈りして、オオカミの死骸をマナに還した時とよく似ている。
「うん、額の宝石自体はなんか柔らかかったわね」
麗美さんがそう言う。見かけ通りの硬さではないようだ。
とりあえず、みんなに情報を共有する。
鑑定結果の内容やウッドゴーレムは額にある赤い宝石を割ると倒せることなどを。
そして、もらえた経験値は合計6ポイント。
みんな1ずつもらえて、倒した麗美さんが2ポイントという感じだった。
貢献度で分配されるのは変わらない感じかな?
そして、床に落ちている四角い何か。
「なにかしら?」
麗美さんが近づいて拾う。
俺も、近寄って鑑定してみる。
うさぎの毛皮(黒)
キラーラビットを模したウッドゴーレムを倒すとドロップする
「まんま、ロールプレイングゲームね」
麗美さんも鑑定したみたいで呆れながらそう言う。
「でもこんな小さかったら使いどころないな」
俺はそう言う。実際、ハンカチかバンダナぐらいの大きさの正方形の毛皮だ。
「でも、集めてパッチワークしたら結構可愛い洋服できそうじゃない? ふわふわで肌触りいいし」
明日乃も近づいてきて毛皮の感触を楽しむ。
「まあ、この大きさでも、ビキニを作ったら、エッチな毛皮のビキニが作れそうよね。明日乃ちゃん、真望ちゃんに作ってもらったら? 流司クンきっと喜ぶわよ」
麗美さんが余計な事を言う。
思わず、布面積の小さいふわふわの毛皮のビキニを付けた明日乃を想像してしまったじゃないか。
「もう!! 麗美さん、からかわないの。それに発想がおじさんっぽいよ!」
明日乃がそう言って麗美さんを叱る。
麗美さんも発想がおじさんっぽいと言われてショックを受けたようだ。
想像してしまった俺も軽くショックを受けた。
そんなたわいもない話をしつつ、
「レベル5なら、油断しなければなんとかなりそうだな」
一角がそう言う。
「さっきは中華鍋で遊びだして、油断しまくっていたけどね」
麗美さんがそう言って笑う。
「まあ、麗美姉がいきなり盾にしろとか言い出したのが原因だけどね」
一角が突っ込み返す。
「でも、盾の発想と戦略は良さそうだね。1匹は今の戦い方で倒そう。2匹出てきたときは一角、足止め頼むぞ」
俺は今の戦闘の作戦を振り返る。
「足止めじゃなくて倒しちゃってもいいんだろ?」
一角が自信ありげにそう言う。
「油断しなければな」
俺はそう言って笑う。
ダンジョン初戦、色々あったが、何とかなりそうな気はしてきたぞ。
次話に続く。
【改訂部分】新しい眷属、アオが増え、夜の見張りをレオと二人でしてくれるようになったので夜の見張りをせずに寝られるようになりました。その分、2時間早く起きることができるようになりました。アオが召喚され、人手が増えたので竹や薪など、素材収集の効率が良くなっています。




