第13話 川を探しに行こう
【異世界生活 3日目 8;00】
ステータスウインドウの時計についているアラーム機能で目を覚ます俺。この世界に落とされて、もう3日目か。
「異世界、しかも無人島で目覚まし時計に起こされるっていうのもなんだかな」
俺は愚痴を言いつつ枝と葉っぱでつくったシェルターから外に出る。
「いっそのこと、この、ステータスウインドウって奴を使用禁止にした方がサバイバル生活を楽しめるかもな」
昨晩、最後の見張り役&たき火の番をしていた一角がそう言う。
まあ、ステータスウインドウがないならないで色々困るんだが。
俺は賛成とも反対とも取れそうに鼻で笑うとたき火のそばに座る。
「おはよう。一角。何か変わったことはなかったか?」
俺は一角に挨拶をする。
「変わったこと? 変わったことと言えば、昨日の夜、お前と明日乃がなんだか騒がしかったこと、それと、今、お前の体から明日乃の匂いがプンプンしたくらいかな? お前達そう言う関係だったのか?」
一角が顔色変えずにそう言う。
俺は豪快にせき込む。
「い、いや、こっち来てからというか、元々好き同士だったというか、何ていったらいいか、なあ」
俺は必死に弁明するが、言った張本人の一角は顔色も変えず、興味なさそうな顔をして荒縄を編んでいる。
俺も薄々気づいていたが、けもみみが生えた時に、耳も鼻も少し良くなっている気がしていたが、一角もかなり耳が良くなり鼻が利くようになっていたのか。
「ああ、荒縄を編んでくれたのか」
俺は誤魔化すようにそう言う。
一角は見張りの間、荒縄を編んでくれていたようだ。
「ああ、暇だったからな。荒縄はたくさんあった方がいいだろ?」
一角がそう答える。
よかった。なんか、誤魔化せたようだ。
「で、明日乃とは付き合っているのか?」
一角が横目でにらみながらそう言う。
「あ、ああ、付き合っているみたいだな。お互い好きだったと気付いたのは昨日みたいだが」
俺はそう答える。
今日、俺は一角に殺されるかもしれない。こいつは明日乃の従妹で、同性でありながら、明日乃の事が大好きだからな。
「そうか。明日乃の事を泣かせるなよ」
一角が静かにそう言う。
意外な反応に、俺が反応に困る。
「おはよー、りゅう君、一角ちゃん。どうしたの? 何かあったの?」
明日乃も起きてきたが、微妙な二人の空気に首をかしげる。
「いや、なんでもない。おはよう。明日乃」
一角が何もなかったように明日乃に挨拶をする。
俺もそれに倣うように明日乃に挨拶をする。
「とりあえず、俺は、昨日地面に埋めた肉を掘り起こしてくるから、明日乃と一角は肉を干し肉にするのによさそうな籠、魚の一夜干し作る網みたいなものを作ってくれ」
俺はそう言って、肉の埋めてあるところに向かおうとする。
「一夜干しを作る網?」
一角が首をひねる。
明日乃もよく分かってないようだ。父親のサバイバル本には干し肉や一夜干しの作り方はなかったのか?
「こんな感じの四角形で3段くらいの棚があって、風がよく通る感じの鳥かごみたいなものを作って欲しいんだよ。これをヤシの木にでも吊るしておけば風で乾いて干し肉ができる。って感じか。鳥に突かれないように網の目は細かめにな」
俺はそう言って、地面に直方体の絵を描き中に2段の棚を描いて見せる。
「ああ、これなら、テレビか何かで見た気がする。ナイロン製の網か何かでできていたけどそれを木で作ればいいんだね」
明日乃が一夜干しの網を思い出したようだ。俺もそれだと頷く。
「荒縄の目の部分に枝を差し込んですだれみたいな物を作って、外側6面分と、中の棚2枚作って組み合わせればいい感じかな?」
明日乃が思考錯誤しているようだ。多分大丈夫そうだな。
「荒縄ならあるぞ」
そう言って一角が見張りの間に作った大量の荒縄を見せる。
「わぁ、すごいね、一角ちゃん。夜の間にいっぱい作ってくれたんだ。これなら枝を集めて荒縄にさしていくだけですだれができるよ」
とりあえず、枝を拾いに明日乃と一角は材料集めに行くようだ。
俺は2人に一夜干しのかごづくりを任せて、キャンプのすぐそばに埋めた肉を取りに行く。
「レオは中華鍋で海水を汲んできてくれ」
俺はレオに仕事を頼む。
レオは、チッっと舌打ちをしながら、しぶしぶ中華鍋を持って海の方に歩いていく。
俺も、肉を埋めた場所に行き、目印に置いた石をどかし、変幻自在の武器をシャベルに変化させてそれで掘っていく。
深めに埋めた肉をすべて掘り起こし、キャンプに戻る。
明日乃と一角も材料集めが終わったようで、二人で荒縄を作っていた。
「とりあえず、脂身の多い肉をもう一度焼き直して朝食にするぞ」
俺はそう言って準備をすると、
「おい、流司。ついででいいから、この中華鍋の海水も煮詰めてくれ。さすがに味の薄い肉は食欲が沸かない」
一角がそう言う。こいつ、意外とグルメだな。
「この海水は干し肉を浸けておくためにレオに汲んできてもらったんだけどな。塩がないから、海水を肉に染み込ませて干し肉にする予定だったんだよ」
俺はそう言って渋る。
「だったら、その海水はヤシの実のボウルに移して、そっちで肉を浸けたらいいんじゃない? 海水、もう一度汲みに行く手間がかかっちゃいそうだけど」
明日乃がそう言うので俺は海水をたくさんあるヤシの実のボウルに移していく。
「汲んでくる」
レオが明日乃にそう言って空になった中華鍋を持って海に歩いていく。
こいつ、明日乃には忠実で健気だな。
「レオはいい子だね」
明日乃がそう言う。
「そうか?」
俺は全否定する。
俺はレオの海水を待つ間、昨日のイノシシ肉の残りのうち、脂身の多いものを焼く準備をしていく。
「ああ、りゅう君、イノシシの脂身の大きいのは残しておいてね。中華鍋、鉄だから油ひいとかないと錆びちゃうからイノシシの油でそれをやっておきたいの」
明日乃がそう言う。
明日乃の話では、昨日も、中華鍋を使った後はよく洗って、火で空焚きしてよく乾かし、イノシシの油をひいておいたらしい。鉄なべの管理も大変そうだな。
レオが戻ってきたので海水の入った中華鍋を俺が石を組んで作った簡単なかまどにのせて煮詰める。
それを見ながら同時に肉を変幻自在武器のナイフで食べやすい大きさに切り、枝に刺して串焼きのようにしてたき火の周りに刺していく。だいぶ手馴れてきたものだ。
まあ、親父や明日乃の父親と一緒によくキャンプに行っていたおかげもあるかもしれないな。
そんな感じで、昔のキャンプを思い出しながら肉を焼きつつ、塩づくりもする。
「良い匂いだねえ~」
匂いにつられて明日乃が寄ってくる。
「このあたりはもう食べられるんじゃないか?」
俺はそう言って、よく焼いたイノシシ肉を明日乃に渡す。
「りゅう君も食べよ?」
明日乃がそう言うので仕方なく、肉を焼きながら、俺もイノシシ肉の串焼きを手に取り、塩を少しかけて食べる。
よく焼いてあるし、腐ってはいなそうだし、大丈夫そうだな。
明日乃と二人でたき火を囲んで朝食を食べる。
「おい、流司、私の分もよこせ」
一角が怒り顔で寄ってくる。
ごめん、忘れていた。
一角にもイノシシ肉の串焼きを渡し、それ以降はセルフで食べていく。
レオは明日乃に勧められて付き合い程度に食べる。本当に体を維持するだけの少しの食事で大丈夫みたいだな。かなりの少食だ。
「やっぱり、塩はたくさん欲しいな」
俺は塩を使い切ってしまい味気の無い串焼きを食べる。
かまどの中華鍋はまだ煮詰まっていない。
「一角ちゃん、今日は塩づくり宜しくね。責任重大だよ」
明日乃がそう言う。
「ああ、任せてくれ」
一角が明日乃に頼られて、嬉しそうに答える。
こいつ、明日乃には素直なんだよな。レオといい、一角といい俺には反抗的なのにな。
今日は動けるように腹八分目に押さえ、多めに焼いた肉を葉っぱに包み、お昼ご飯用の弁当を作る。
「飲み水用にヤシの実も取っておかないとな」
一角がそう言う。
確かに、昨日取ったヤシの実が今の朝食で尽きてしまった。
「一夜干しのかごができたら取りにいくか」
俺はそう言うと、
「もうできてるよ」
そう言って自慢げに直方体の鳥かごのような箱を見せてくる明日乃。
「おお、いい感じじゃないか」
俺は感嘆の声を漏らす。
すだれのような網を6面並べたような、想像していた通りの一夜干し籠が2つできていて俺は明日乃を褒める。
「私も手伝ったぞ」
一角が不貞腐れる。
「なんだ? 一角も俺に褒めて欲しかったのか?」
俺は一角を冷やかすようにそう言うと、
「いや、いい」
一角に丁寧にお断りされた。
とりあえず、一夜干し籠もできていたので、俺が塩作りをしつつ、イノシシの赤身肉をナイフで切り分けて海水に浸けて下準備する役。明日乃と一角はヤシの実を取りに行く感じになった。レオもヤシの実の組についていった。
俺は、残ったイノシシ肉の脂身を取り除きながら赤身を厚さ1センチ以下の薄切りにしていく。
そして薄切りにした肉はヤシの実の殻に入った海水につける。
とりあえず、半日くらい海水につけて塩分をしみこませたら干す。そんな感じだ。
結構な量の肉があるので薄切りにするのも一苦労だ。しかも切れ味の悪い石包丁。時間がかかる。
中華鍋の海水もいい感じで煮詰まってきて、塩も析出しだしたので、上澄みを捨てて塩を取り出し、塩を乾燥させる。
中華鍋1個煮詰めてこれしかとれないのか。俺は一つまみの塩を見てがっかりする。
そうこうしているうちに、明日乃と一角もヤシの実を持って帰ってくる。明日乃が2個に一角が4個。レオが3個、明日くらいまでは持つかな?
そのあと、3人で肉の処理をして、レオはまた、海水を汲みに行き、とりあえず、赤身のすべてを海水につける作業までは終わった。
「一角、15時くらいになったら、海水に浸けた肉を海水から出して、一夜干し籠の中にこの肉を並べて干しておいてくれ」
俺はそう言う。
「ああ、分った。流司と明日乃は川を探しに行くのか?」
一角がそう答える。
「そうだな。そろそろ出かけないと夕方になりそうだし、明日乃も水浴びしたくて仕方ないみたいだしな。まあ、ステータスウインドウにオートマッピング機能も付いているし、川がありそうな場所にマークもついている。マップ自体は真っ黒だけど、行く先と帰る場所、そして仲間のいる場所が分かるっていうのは凄くありがたいな」
俺はそう言って出かける支度をする。
本当にオートマッピング機能はありがたい。こういうサバイバル生活で怖いのは探索時の遭難だもんな。
神様からもらった変幻自在の武器、昨日作ったなたっぽい石斧、そして最初に作った石斧を大きな葉っぱに包み、風呂敷の要領で背中に背負う。明日乃も同じようにヤシの実の外の皮をはがしたものも水筒代わりに1個入れ、弁当代わりの焼き肉も入れて葉っぱに包み背中に背負う。そして作業用の石包丁を1個と護身用の木の槍を1本持って準備完了だ。
「それじゃあ、行ってくる」
俺は一角にそう挨拶して森の中に入っていく。
時間は11時。準備と干し肉の下ごしらえで結構時間がかかってしまったな。
ちなみに川はキャンプから森の中を北に進むとあるらしい。
まあ、森と言ってもジャングルのように行く手を阻むほどの木や草が生い茂る密林というより、日本の裏山っぽい雑木林の感じなので、陽も入って明るいし、地面も見えて歩きやすいのは助かる。
「あ、りゅう君、鑑定使うと、食べられる野草とかキノコとかわかるみたいだよ?」
明日乃がそう言って森の中をはしゃぎまわる。
たまに立ち止まってキノコや野草のようなものを石包丁で採取している。
俺も興味本位で鑑定を使うと確かに野草の名前や食べられる場合は食べられるコメントがついている。便利だな。このステータスウインドウは。
「背負いかごみたいなのが欲しいね」
明日乃がそう言う。
「そうだな。竹が一杯取れたら背負いかごみたいな物を作るのもいいかもしれないな。作りやすさからしたら長い葉っぱ、ヤシの葉とかを編んだ方がいいか」
俺も同意する。
明日乃は大きな葉っぱをうまく折って、かばんのようなものを作り野草やキノコを入れて抱えている。
俺も匂い消しになりそうな野草やネギっぽい野草をいくつか集め、とある植物に目が行く。
「明日乃、シャボンソウがあるぞ。葉っぱや花を水で揉むと泡立って石鹸になるらしい」
俺が明日乃に声をかける。
「え? 本当?」
明日乃が慌てて俺の方に駆け寄ってくる。
「秘書子さん曰く、根っこや茎を煮込むと液体せっけんができるらしいな。ただし、使うときは目に入らないように気を付けることだって。皮膚の弱い粘膜に触れると毒なんだそうだ」
俺は秘書子さんにシャボンソウの使い方を聞いて明日乃に教えてあげる。
「すごいね。とりあえず、今日は葉っぱと花だけもらっていこ? 生活に余裕ができたら液体せっけん作りたいね」
明日乃が予想以上に喜んでくれた。俺も嬉しくなる。
そんな感じで山菜やキノコをとりながら森を進むと1時間もしないうちに川を発見する。いや、川というより泉だな。綺麗な水が湧きだす小さな泉だ。そしてそこから細い川が東に向かって流れている。
「すごい、綺麗な水だよ。湧いているところの水、飲めるみたいだよ?」
明日乃がそう言って大はしゃぎする。
鑑定してみると湧き水も泉の淀んだところ以外は飲んでも大丈夫らしい。
俺は、湧き水で手を洗い少し手で汲んで口に入れてみる。
しびれや変な味はしない。というよりめちゃくちゃ美味い。
少し様子を見て、体調も悪くならないようなので、
「毒ではなさそうだから飲んでみるか?」
もうひと口だけ飲んで、明日乃にも勧める。
明日乃は嬉しそうに湧き水に飛びつき手で汲んで口に入れる。
「うわぁ、すごく美味しい。しかも、本当のお水を飲むの、久しぶりだから体に染み渡るよ」
明日乃が本当に美味しそうに水を飲む。
明日乃が水に夢中になっている間、周りを見渡すと、すぐそばに竹林もあった。
俺は竹林に近寄り、変幻自在の武器をのこぎりに変化させると。根元の方を切っていく。切れ味は普通ののこぎりだが、これがあるとないとでは全然違うな。変幻自在の武器を貸してくれた神様には感謝しないとな。
そして、この武器がなくならないように貸与期間の1年が過ぎる前にダンジョンも攻略しないといけないな。
そして、将来的には人数分、同じものを確保したい。他の島のダンジョンも攻略する必要があるな。
もちろん、その中に含まれるであろう俺に対応した剣の眠るダンジョンも1年以内に攻略しなくてはいけない。そうしないとレオが消滅するらしいからな。
「明日乃、俺はこっちで竹の採取と竹の加工をしているから、水浴びしていていいぞ」
俺はそう言って、倒した竹をのこぎりで加工していく。とりあえず、水を運ぶための水筒づくりだな。
「え、本当? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな? りゅう君、見ちゃダメだよ?」
明日乃が小悪魔スマイルでそう言って、荷物を置くと、泉をよく調べて危険がなさそうだったのか足をつける。
俺は、明日乃がこれから裸になることを想像してしまい、照れながらそっぽを向き、明日乃が見えないように背中を向けて竹の加工に集中することにした。
次話に続く。
このあたりは改訂点が少ないです。




