帰路
「帰路」
早く帰りたい。帰れば、全部終わるのだから。
フラフラと階段を登り、自宅の扉の前まで着く。
ドアノブに触れると、目眩だ。視界がぼやける。
気が付くと自宅とは違う家の前に立っていた。
ここは、実家だ。
表札には「日高」と書かれている。
「お父さん!」
家の扉が開き、子供が飛び出してきた。
「お父さんはお仕事で疲れてるんだから
あんまり無理させないのよ」
家の奥から母さんの声
「史生、ただいま」
父の手が僕を撫でる。
震災で全てが壊れてしまう前の、何でもない日常
また目眩だ。意識が遠のく。
今度は知らない家だ。表札には「日高」とある
扉越しだが、賑やかな声が聞こえてくる
ドアノブに触れるが、何ともない。
そのまま扉を開けた。
靴を脱いで、玄関に上がる。
不思議と、他人の家という感じはしなかった。
廊下の奥には、リビング。
ダイニングテーブルを囲む、子供とその母親。
髪の綺麗な女がこちらを向いて微笑む。
「おかえりなさい、史生」
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白い天井と、カーテン。ここは病院だろうか。
どうやら、また失敗したらしい。
僕は帰りたかったんだ。家族のいる家へ。
夢で見たことは、ただの妄想なのかもしれない。
でも、確かに聞こえた気がした。
「生きてていいんだよ」と。