短編 97 橋本さん
そんな話もあったよなぁ。
という所からネタを引っ張って来ました。この時は必死でしたね。佳境なのにネタが無くて。
なので内容は推して知るべし!
ベシベシ!
この橋を越えると一気に魔物が強くなる。そんな橋がある。
通称『初心者殺しの橋』
その橋は憎まれた。
その橋は蔑まれた。
多くの命がこの橋を越えて散っていった。
いや、それ、自分のせいではありませんから!
実力も弁えないお馬鹿達が勝手に渡っただけだから!
死んだのは自己責任だよぉ!
そんな橋の主張など誰も聞き入れはしなかった。
これはそんな橋……『橋本さん』の悲しみに満ちた物語である。
橋本さんは橋である。
某有名RPGに出てくる橋である。
川を渡る為に用意された小さな橋。橋本さんは、ただそれだけの為に作られた。
始まりの大陸から次の土地へと移る為に必ず渡る必要がある橋。ただそれだけの意味しかなかった。
だが橋を渡った向こうに出る魔物は始まりの大陸の魔物とは桁違いの強さであったのだ。
橋を越えると一気に敵が強くなる。
あの橋ヤバイ。
あの橋って殺しに来てるよねー。
一歩目で全滅したぞごらぁ!
プレイヤー達はこぞって橋をディスりまくった。
しかし橋本さんにはどうしようも無いことである。それが仕様であり、ちゃんと準備していけば、なんの問題もなく次の村に行けるのだから。
だが世の中はせっかちな人間と話を聞かない人間で満ちている。
ふざけんな、橋。
クソゲー。
うんこ。
謂われなき中傷に橋本さんは日々心を痛める事になっていった。
そしてある日、思い付く。
『そうだ。魔物を通しちゃえば良いんだ』
橋を渡らなくても強い魔物が出ればいい。そうすれば橋への批判は無くなるだろう。橋本さんは考えた。
『よーし! 通るのだー! 魔物達よー!』
橋本さんのこの行動により、ゲームは本当の無理ゲーと化した。始まりの大陸なのに出てくる魔物が強すぎて全滅必至。装備を調えるお金も貯まらないしレベルも上げられない。
一部のプレイヤー達はここでようやく気が付いた。
あれ? もしかして橋が魔物を塞き止めてたって訳なの?
そういう設定なの?
良識持つ者はそう考えた。
しかし大半の者は違う思考に飲まれていた。
あのクソ橋を落とすぞ。あれのせいでクソゲーだ。
あの橋のせいだ。
あの橋が悪いんだ。
全部あの橋のせいだ。
そんな思考をする者達の手によって橋本さんは破壊された。
何度も全滅しながらの妄念と執念の結果である。
これにより始まりの大陸に平和が訪れる事になった。設定通りの魔物しか出てこなくなったのだ。
しかし、勿論の事ながら橋は渡れなくなった。
次の大陸に渡るための手段は橋しかなかった。序盤も序盤である。船や飛行船はもっと先に出てくるものなのだ。
プレイヤー達は抗議した。抗議しまくった。代替手段を出せとメーカーにクレームを叩き付けたのだ。
いや、橋本さんを狂わせたのも、橋本さんを壊したのもお前らじゃん。
メーカーはそう答えて代替措置を取ることはなかった。ゲームは進行不可となったのだ。
橋を再建するプレイヤーも現れたが、その度に始まりの大陸は強い魔物によって蹂躙された。
橋はその度に破壊された。
そしていつしかこのゲーム自体から人は離れていった。
川底で瓦礫と化した橋本さんは考える。
『徒歩で川を渡ればいいのでは?』
人は見たいものしか見ないし、見ようともしない。
川の底はかなり低い。橋本さんが己の存在意義を思わず考えてしまうほどに川はささやかな流れだった。
魔物は水が苦手なんだねぇ。
プレイヤーも苦手なんだねぇ。
どちらも狂犬ぽいし。なんかなっとくー。
橋本さんは橋ではなくなったが穏やかな生活を手に入れた。
橋本さんはこうして伝説の橋となった。
今回の感想。
人間は自分勝手だよね。そろそろまたバベルするんじゃない?