表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ジュースとメロンパンと待ち合わせ

 エイはまた失敗をした。

 友達のビーからすすめられて買った美味しいメロンパンを、一人でベンチに座りながら食べようとした時のことだった。

 その時エイは手を滑らせて、メロンパンを地面に落としてしまった。せっかく楽しみにしていた、美味しいメロンパンを。

 落ちたメロンパンを見て、エイはまた悲しくなった。


「最近、失敗が多くて、いいことがない」


 そしてまた、数ヶ月も前の失敗を、昨日のことのように思い出してしまう。



 今から一、二ヶ月前。エイはお気に入りの服を着て、ビーと二人でカラオケ屋へ行った。

 しばらく楽しい時間を過ごしたが、一時間ほど経ち、突如エイは便意を覚え、ビーに声をかけた。


「トイレに行きたくなっちゃった。一人じゃ怖いから、ビーも一緒についてきて」


 エイとビーはトイレに向かい、部屋を空けた。


 二人が出ていった隙を狙い、怪しい男が部屋に侵入した。男はエイのジュースに毒を入れると、速やかに部屋から去った。


 何も知らずに戻ってきたエイは、ジュースを飲もうとした。ところが、うっかりコップを倒しジュースを全部床にこぼしてしまった。お気に入りの服まで、びしょ濡れに汚れてしまった。


「せっかく買った、お気に入りの服が」


 メロンパンを落としてから数日ぐらいが経ち、エイはまたまた失敗をした。


「大変、間に合わないよ」


 その日は、ビーと待ち合わせをする予定だったが、うっかり時間を間違えてしまったのだ。

 気がついたエイは、近道の桜並木を渡って待ち合わせの場所へ急いだが、約束の時間はもうとっくに過ぎていた。


「エイ、遅い」


 ビーはかんかんに怒っていた。


「もう一時間も待っていたんだよ、何回言ったらわかるの」

「ごめんなさい」


 エイは頭を下げて謝ったが、ビーの怒りは収まらない。二人の間に気まずい空気が流れた。


「もういい、今日は疲れたからもう帰る」


 とうとう、ビーは帰って行ってしまった。


「エイって最近、失敗ばっかで本当むかつく」


 同じ頃、桜並木の付近ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。



 その日の夕方、帰宅したビーはたまたま流れたテレビのニュース速報を見る。最近、近所で話題になっている凶悪指名手配犯シーが今日の午後、殺人未遂で現行犯逮捕されたのだ。


 事件現場は近所のあの桜並木からそう遠くない住宅街で、シーは桜並木を通って現場へ向かった。事件発生時刻から逆算すると、シーが桜並木を通ったのは、約束の時間から約十分ぐらい前ということになる。

 シーは住宅街で、道を歩いていた女性をナイフで刺そうとしたが、駆けつけた警察に現行犯逮捕された。

 犯行動機についてシーは「誰でも良かった」という。つまりあの時、約束に間に合うように桜並木を通っていたら、エイもシーに目をつけられ事件に巻き込まれていたのかもしれない。


 他にもシーは、パン工場でたくさんのパンに毒を混ぜたり、カラオケ屋で飲み物に毒を仕込んだりもしていた。パン工場はビーがエイにすすめたメロンパンの製造元で、カラオケ屋も一、二ヶ月前に二人で行った店だ。


「まさかエイ、メロンパン食べちゃったんじゃ。カラオケは大丈夫だったけど」


 一連の事件を知ったビーは、エイがメロンパンで体調を崩していないか心配になった。翌日、ビーはエイを呼んだ。


「この頃、体調おかしくなったりしなかった?」


 ビーは心配そうにたずねたが、もちろんエイは元気に返事をした。


「大丈夫だよ。それがどうしたの」


 エイに聞き返され、ビーは謝った。


「昨日は、本当にごめんね」

「いや、悪いのは私のほうだよ? ビー」

「違う、エイは何も悪くなかった」


 ビーはエイに、昨日の事件のことを話した。話を聞いてエイは、メロンパンは地面に落としてしまって結局食べられなかった、と言った。エイの無事を聞いてビーは安心した。


「それは良かった。失敗は人を成長させるってよくいうけど、人を助けてもくれるんだね」



おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ