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七 質疑応答

――ステイ、いやエリクシルによる副作用はないのでしょうか。


「ありません。人体実験を含む様々な検証の結果、人体に悪影響を及ぼすような副作用は確認できませんでした。例えば癌細胞であれば、若年で発症すればその病の進行はとても早いものとなっていますが、エリクシルを服用することでこの病の進行も抑制できることがあります。たとえ数十年後に何らかの副作用が認められたとしても、人類にとってエリクシルがもたらすメリットの方が大きいことは自明です」




――あなたの目的は何なのでしょう。


「私はたんに、人類が新たなステージに昇ることを期待するのみです。エリクシルにより世界は一変することでしょう。多くの混乱も生じることでしょう。しかし後戻りすることは許されません。ノーベルがダイナマイトを発明したことで、戦争の規模は拡大しました。しかし、トンネル工事などで恩恵を受けたことも多いのです。二十世紀において核が開発された後、我々は核と共存するしかなかった。核は多くの不幸も生み出しましたが、新たなエネルギー源として活用されたことも事実です。不老薬についても同じです。私が創り出さずとも、人類はいずれ老化を克服していたでしょう。この創造により、人類はより発達することができるでしょう」




――永遠の命を得るということは、倫理的にどのようにお考えですか。


「先ず、その質問自体が理解できません。長生きすることの何が悪いのでしょうか。あなたは老人に対して死ねと言えますか? 私もご覧のとおり年老いています。しかし、老いたからといって死ななければならないなんて、こんな不条理なことはないと思いませんか。私はもっと生きていたい。もっと多くのことを知り、体験し、学びたい。だから死にたくはありません。ただし、もし天国や来世というものが存在し、それを信じてあえて自然の死を望む人々がいるならば、私はそれを止めようとは思いません。エリクシルは自由意志で服用してもらいたいと考えています。でも、特効薬があるにも関わらず、それを飲まず死を選ぶという人は少ないでしょうね。そうです、老化は病であると私は考えています。病を治すのに、何故倫理の問題を考えねばならないのか。私が質問自体に理解できないというのは、そうゆうことです」




――誰でも使用できるというお話ですが、子供はどうなりますか。極端な話、赤子に服用させれば、その子は永遠に未熟なままということになります。


「エリクシルは全年齢に効果があります。おっしゃる通り、赤子に服用させれば、飲ませ続ける限りその子は赤子のままということになります。しかし、服用を止めた段階で、成長は再び始まります。幼児期を長く過ごすことに、私自信は問題があるものとは考えません。むしろ、母親の愛情をより長い間得られることは、これからの長い、それこそ永遠に近い長い人生において、利するものがあると考えます。ただ、そうした規制、例えば十八歳まで服用を禁じるという国家・地域が現れることは容易に想像できます。私の立場として、そのような規制に反対することはいたしません。それは、それぞれの国家の指導によればいいのだと思います。私はただ、エリクシルという薬を提供するのみの立場を貫くつもりです」




――あなたの経歴を教えてください。国籍や出身大学はどちらですか。


「答えられません」




 パラケルススは四時間余りの時間を、政治家や記者たちとの質疑応答に費やしたが、問いかけが途切れる気配は見られなかった。


 やがて彼は体力の限界を理由に、議場を後にすることとなる。


 世界は期待と恐怖を同時に抱きつつ、新たな段階を迎えようとしていた。



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