三七 初めから、これが目的だったのね
城島は、そのシナリオを全て知っていた。
事前に腹の中に強化プラスチック製の小型拳銃を手術により埋め込み、重厚なセキュリティをかいくぐり調印式の場へ武器を持ち込む作戦は、児玉少佐自身が立案した。そこまでしなければ、疑り深いパラケルススを殺害することができないと、判断した結果だった。
たった一発の銃弾で、ウベク元帥は目的を達した。
額を打ち抜かれた老人は、体を反り返して倒れ、二度と起き上がることはなかった。即死である。
「児玉! 果たしたぞ」
元帥の声がその耳に届いているのか、城島にはわからない。わずかに口元がほほ笑んだように見えた気がしたが、児玉はもう絶命していた。
「確保しろ! 確保だ!」
少年中佐が叫ぶと、会議室の外から一個小隊がなだれ込み、連合軍の元帥を乱暴に拘束する。元帥に歯向かう意思はなく、ただされるがままに身を委ねていた。
「とんでもないことをしてくれたな」
ニキビ面の少年が、怒りに声を震わせている。自らが投じたナイフが、その原因の一つであるということは忘れているようだ。彼は自分自身の不幸だけを感じていた。もう、永遠の若さが失われてしまったことに、彼は気が付いていたのだ。
「初めから、これが目的だったのね」
事を終え、生気を失ったかのように見える元帥ではなく、エリカはその弟に対して問いかける。
児玉は姉をまっすぐ見つめ返し、無言のまま肯定した。
「確かに、これで戦争が終わるでしょうね。我らの国が、その存在理由をなくすのだから」
エリカは、世界が変化することを瞬時に理解していた。
エリクシルはパラケルススなしでは量産できないことは、既に世界の常識となっていた。
「冗談じゃねえ、冗談じゃねえぞ!」
激高したニキビ面の少年は、少年中佐の手からコルトを奪い取り、その銃口をウベクに向ける。
「止めなさい!」
エリカの制止も空しく、少年は引き金をひく。何度も何度も、その弾倉が空になるまで、少年は発砲を続けた。弾丸は全てウベクの胸に吸い込まれ、元帥の巨体は児玉の死体の上に倒れる。
城島が覗き込んだその死に顔には、児玉と同じような微笑が浮かんでいた。