表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

三三 きっと後悔する

 軍艦の中とは思えぬほど、その室内は広々としたものだった。ゆうに二十人は同時に座ることができる長テーブルが中央に置かれており、その上座の背後には、壁一面を覆う世界地図が貼り付けられている。その地図上には、これみよがしにメガラニカがこれまで占領した南半球の地域が、赤々と塗りつぶされていた。


「よくおいで下さいましたね元帥。どうぞお掛け下さい」


 長テーブルのちょうど中央に、エリカは座っていた。


 言葉は丁寧であったが、彼女は腰かけたまま、手の動作だけで客が座るように促した。


「こちらこそ、お招きいただき恐縮です独裁官閣下。今日はまさに、人類社会全体にとっての吉日。署名する前にワインで乾杯でもしたい気分ですな」


 ウベク元帥がその巨体を、エリカの正面に沈めた。城島はその右隣、児玉は左隣に座る。


 城島の目の前には、自然なものではない赤色の髪をしたニキビ面の少年がいる。名前までは思い出せなかったが、その少年がメガラニカの軍事的指導者あることを、城島は新聞で見て知っていた。一方児玉の前には、北欧系の美しい少女が座る。彼女は確か、財務大臣に相当する地位があったはずだと、城島おぼろげな記憶をたどった。


「あいにく、我が国では酒をたしなむ習慣がございません。ご要望には応えかねます」


「もちろん冗談ですよ。未成年者に酒など飲ませられませんしな。しかし、あなた方は冗談が通じなさすぎる。若さ故の欠点ですよ。しかし、歴史的な条約締結のはずですが、新聞記者の一人もいないのは、どうも寂しい気もしますな」


「体裁にこだわるのは、老人の欠点ですよ元帥」


 不毛な厭味の応戦が繰り返されるのを避けるべく、児玉が二人の間に割って入る。


「独裁官閣下。こちらの条件である『あの方』が見当たらないのですが」


 ニキビ面の少年が、不満気に児玉を睨みつけた。


「パラケルスス氏が何故この場に呼ばれているのか、俺はまだ納得できねえな」


 一国の指導者の一人というより、夜の繁華街を牛耳る不良たちのリーダーといった風貌の少年が吠えた。しかし、エリカは涼しげな顔でニキビ面を制する。


「こちらの条件を飲ませる代わりなのよ。いい加減に諦めなさい」


 エリカに命じられるた少年は、聞こえるように舌打ちながら、先ほど城島たちを案内した中佐にあごで指示を出す。


「何かおかしい。きっと後悔するぜ」


 ニキビ面の少年は、エリカの耳元でそうささやいたが、彼女は聞こえぬかのように顔色を変えることがなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ