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三一 最前線の窓口

「お姉さんから返事が来ましたよ。こちらの条件を飲むそうです。条約締結の場には、必ずパラケルススと同行すると言っています。代わりに、向こう側からは四五項にも及ぶ詳細な条件が提示されましたけどね。主だったところで、多額の賠償金の支払要求、メガラニカが主導的役割を果たす新たな国連機関の設立、連合軍側の大幅な軍縮、若者の地位向上と……、こりゃ事実上の勝利宣言みたいなもんだな」


 インド洋上に浮かぶ連合国の原子力空母スギムラ。その艦内にある一室にて、児玉と城島は対面している。


 飾り気のないスチール机の上には、十四、五枚に及ぶエリカの停戦に対する条件事項が拡げられていた。


「ここまで屈辱的な内容で、連合国のお偉いさんたちは、首を縦にふるのかね」


 大国の国家予算並みの賠償金を要望する事項を眺めてから、城島は自分と同じような呆れ顔で書類を見つめる男に尋ねる。


「まあ、百パーセントまでとはいわないが、無理でしょうね」


「無理って、それじゃあ、俺がやったことは骨折り損かよ」


「そんなことありません。目的は半ば達成されたようなものですよ。なにしろ、この世代間戦争が始まって以来姿を消していたパラケルススを、再び表舞台へと引きずり出せるのですから」


 太った体を揺らすように、児玉はクスクスと笑った。


「しかし、連合国はメガラニカが出した条件を飲まないのだろ? だったら、彼が署名するために現れることもないじゃないか」


「そんなこと心配してたのですか。大丈夫。肝心なのはその場を作るということだけですから」


「だから、条件を飲まないのなら、その場も作れんだろ」


 城島は多少の苛立ちを覚えていた。


「条件なんか、最初からあってもなくても構わないのです。条約締結の場には、連合国の統括本部参謀総長のウベク元帥にご足労願います。彼も我らの同志なんですよ。首脳陣の了承がなくても、彼がその『振り』を示すことは可能です。もちろん、命がけになりますけどね」


「そんなズサンな計画なのか」


「いいえ、綿密ですよ。先ず第一に、連合国の首脳陣は、停戦がメガラニカに対して提示されていることすら、知らないのです。おかしいでしょ?」


 児玉は再び体を揺すった。


「でも、俺が持って行った書類には、統括本部参謀総長のサインが……」


 話している途中で、城島は自分の愚かさを悟った。


 連合軍全軍を指揮する立場の人間が、軍を裏切っているという異常事態。児玉の説得により心は決まっていたが、いまにして自分が大きな渦の中に引きずり込まれ、もはや逃げ出すことは叶わないのだと、城島は理解した。


「最前線の窓口は、依然城島さんですよ。最後の仕上げです。頼みますよ」


 児玉は笑い続けていた。



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