二八 再会
長い廊下を歩かされた。いくつもの扉をくぐり、無数の監視カメラにその姿を曝し、何度も金属探知器で体中を調べられながら城島は進む。そしてようやく、目的の部屋へと到着した。
「間もなく独裁官が面会されます。今しばらくお待ちください」
若すぎる中佐に促され、城島は座り心地の悪いソファーに身を沈める。
窓ひとつなく、無駄に広いその空間には、彼が座るソファーの他に何も置かれていない。殺風景なその部屋そのものが、この国の若さを象徴しているように城島には感じられた。
「久しぶりね」
彼女は、中佐に先導され現れた。
短い黒髪と猫のような大きな瞳を持った若者たちの国の指導者エリカが、城島の前に立っていた。
こうして直接彼女の顔を眺めると、城島の忘れていた記憶が鮮やかに蘇る。
手を取り合って遊んだ公園、ケーキを奪い合い喧嘩した夜、叱られながら勉強を見てもらった食卓、様々な思い出が洪水のように脳裏に浮かぶ。
「姉さん」
自然に、城島は姉のことを呼ぶことができた。
「あなた、本当に裕輔なのね」
不思議そうな顔で、エリカは城島の顔を眺めて言った。
「すっかりおじさんじゃないの。お父さんそっくりだわ」
「姉さんは変わらないね。十五のままか」
エリカは困惑気に笑った。
その表情に、本来あるはずのない『老い』を城島は感じ取った。
「中佐、もう下がっていいわ」
「しかし……」
「実の弟なの。大丈夫、危害を加えるつもりなんかない。私たちは、仲良し姉弟だったのよ」
中佐はしぶしぶ部屋から出て行く。それを見送ると、エリアは城島の前に腰を下ろした。
「三十五年ぶりね。お父さんがあなたを連れて出て行ってからだから」
「出て行ったのはお母さんと姉さんの方だよ」
「どっちでもいいわそんなこと。それより、やっぱり不思議なものね。あの可愛らしい裕輔が、こんなおじさんになってるなんて」
「これが、自然なんだよ」
「馬鹿みたい。老いることなんて、何一つ良いことなんてないでしょ。あなたはお父さんに付き合わされて、無駄な時間を過ごしたのよ」
「お父さんは死んだよ」
エリカの眉は僅かに歪んだ。