二七 入国
片手では数えきれないほどのボディチェックを経て、城島はようやくその地に立つことができた。
若者たちのネバーランド、メガラニカ。
ただでさえ人を寄せ付けないその極寒の地は、老人と若者の世代間戦争により、一層入国が困難な状況となっている。外見が若者であっても、連合国軍のスパイと判明した例があることから、入国審査は老若男女を問わず厳しく徹底されていた。
そんな厳しい門を、見た目も四十五歳である城島が通ることができたのは、彼が連合国軍の正使という肩書を持つのに加え、その血脈が功を奏していた。
「国内での勝手な行動は許可できません。すべて私の指示通りにしていただきます。就寝、起床、食事、入浴、すべて予定通りにやってもらわねばなりません」
十二、三歳にしか見えない少年は、メガラニカ国防省所属中佐を示す腕章をつけていた。入国後直ぐに、少年はその地位を自己紹介として伝えてきたが、城島には子供の戦争ごっこにつき合ってやっているという印象を拭うことができずにいた。
「まさか、しょんべんの時間まで決められてるんじゃないだろうな」
「ご希望ならば、決めておきましょうか?」
怜悧な顔で、少年は応えた。
エリクシルが普及した直後に少年が不老化していたならば、少年は城島より年長である可能性がある。城島はその事実に思い至り、見た目だけで相手を軽んじる行為を慎もうと己を戒めた。城島はエリクシルを飲まない社会で生きてきたため、この世界の常識がまだ理解しきれずにいた。
「失礼を承知でお伺いしますが、貴方は本当に正式な使者として我が国に来られたのですか?」
「そうだよ。統合本部からの伝達も来ているだろ」
「はい。確かに連合国軍統括本部参謀総長殿のサイン入り親書が我らの指導者宛に届けられてはいますが、あなたは軍籍もなければ、政治家でも官僚でもない。いったい何者なんですか?」
「その答えは、あんたらの指導者が教えてくれるはずだ。あんたらの指導者、今じゃ独裁官とか名乗ってる彼女が、俺の訪問を了承したんだろ?」
「私は、独裁官の身辺警護を任されています。たとえ彼女が許しても、私の判断であなたを国外へ追い返すこともできるのですよ」
「じゃあ、そうしたらいい。後で叱られるのはあんただぞ」
疑問に答えようとしない城島に呆れ、中佐は来客室を後にする。城島は中佐が去り際に置いて行ったメモを見ることで、二時間と十三分後に独裁官と会うことができることを知った。
外出を許されていない城島は、仕方なく窓の外を眺める。しかしそこには、横殴りの吹雪が吹き荒れる純白の世界しかなかった。
景色も見れない窓の外に向い、城島は呟く。
「あんたの顔なんか、憶えちゃいないよ」
吹雪は、止む気配がない。