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二三 来訪者

 村の創立者のひとりであった老人の葬儀は、荘厳に行われた。


 この村にとって、死を迎えることは美徳とされており、送る人々は皆笑顔だった。


 しかし、喪主である城島裕輔だけは微笑んでいない。悲しかったわけではなかった。彼もその村の思想と理想を十分理解しており、そして自然に歳をとるという人生を自ら選択した一人である。城島はただ、父の最後の言葉だけが、喉に刺さった小骨のようにひっかかっていたのだ。


 何故父は、突然別れた母と姉の話を口にしたのか。


 それは、三十五年間封印された話題だった。


 幼かった城島は、エリクシルを否定した父に連れられ、この村にやってきた。母は不老という魅力から解放されることがなく、父と異なる生き方を選択した。当時十五歳だった姉も、母と共に城島と別れることとなった。


 自らの死を予感し、思い出話をしたかっただけだろうか。そう解釈することは簡単だったが、最後に見せた父の顔を思い出すと、何かを示唆していたのではと、城島は考えてしまう。


 そして、その男は父の死から一週間後に現れた。


「お亡くなりになっていたとは存じませんでした。ご冥福をお祈り申し上げます」


 高価なスーツで身を包んだ男は、城島に慇懃に頭を下げた。久しぶりに聞く日本語だった。


「父とはご朋輩でしたか?」


 客は城島とほぼ同世代という風貌をもった男であったが、エリクシルが蔓延したこの世の中では、亡父と同じ八十歳近くであっても不思議ではなかった。


「いいえ、お父上とはひと月前に初めてお目にかかりました。あるお願いを、お父上に頼んでいたのです。今日は、そのご返事をいただこうと参上したのでしたが、まさか亡くなられているとはね。まだまだお元気そうでしたのに」


 男の言葉には、何かを聞いていないか、と匂わす雰囲気が感じられた。


「失礼ですが、あなたはどこのどなたでしょうか?」


 城島が問いかけると、わざとらしく男は驚き、面目ないと名刺を差し出した。最初に感じた慇懃さは、次第に薄れつつある。


「私は、連合国軍で働いている者です。いわゆる、大人の軍隊ですな」


 若者たちの国メガラニカに対抗して組織された、国家間の横断組織である連合国軍の存在くらいは、山奥で暮らす城島でも熟知していた。しかし、男は軍人には見えない。小太りで、分厚いレンズの眼鏡をかけている。神経質な銀行員という印象しか城島は覚えなかった。


「児玉義正少佐、ですか」


 城島は、名刺に書かれた名を口にする。児玉は額に浮いた汗を拭きながら、はいはいと頭を下げた。


「連合国軍のあなたが、父にいったい何の依頼をされたのですか?」


 その口調から、城島が何も聞いていないことを察した児玉は、あからさまに面倒くさそうな顔を見せたが、直ぐに真剣な表情を造り直し城島に語った。


「暗殺です。ある人物を殺して欲しいという、お願いですよ」



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