二十 戦火拡大
若者の国メガラニカと、大人たちの国家である諸国との戦火は、南極大陸周辺という局地的なものにはとどまらなかった。世界中には、まだメガラニカに所属していない若者が広く生活を続けている。こうした若者たちの多くがメガラニカを支持し、それぞれが独自の行動を開始していた。世界中至る所でゲリラ活動が展開され、各国における政府機関などの重要拠点が攻撃された。モラル意識の低い若者たちは、細菌兵器や化学兵器であっても、躊躇なく使用する。彼らのゲリラ活動により、僅か半年の期間において億単位の命が失われた。
各国政府が「テロ」と呼ぶ若者たちの行為により、国力差では千分の一以下であるメガラニカも、世界に対してほぼ互角の戦いを繰り広げることができていた。
テロリストと呼ばれる若者たちは、大人たちの隣人であり、教え子であり、部下であり、息子や娘である。その取調に対して二の足を踏む国家が大多数に及ぶ。これが彼らを増強させ、被害を甚大なものとしていた。
若者たちに対して思い切った施策を採った国もある。東ヨーロッパのその国は、第二次世界大戦中のナチスに倣い、敵性世代である二十歳未満の若者たちを強制的に隔離した。ただ、若者の全てがメガラニカを支持していたわけではない。ナチスを彷彿とさせるその行為には、周辺諸国からの反発も起こり、同地域では大人たちの国同士での紛争へと発展した。
一枚岩になりきれない諸国につけ込み、メガラニカ国軍は躍進した。各地域のゲリラと連携を強め、南米・アフリカ大陸においては、それぞれの地域の五割以上を占領下に置くことに成功する。若人としての勢いに加え、彼らは資源も確保した。占領地域からは大人たちが追放され、流民となった人々は第二第三の問題を諸国にもたらすこととなる。
メガラニカの勢いに呑まれ、恭順する小国もあった。そうした国の大人たちは、生存権のみを安寧され、軍事・経済・行政の主要ポストは、若者の手に奪われてゆく。
国連加盟国の離脱が相次ぐことで、諸国もようやくメガラニカに対して本格的な危機感を覚え、ついに連合国軍の設立を実現する。それまでの国連軍や、NATOのような一部地域の連合ではなく、指揮権が明確化されたひとつの軍として、先進国を主体とした史上空前の軍隊が誕生した。
豊富な資源と経験を持つ大人たちの北半球対、狂信的な勢いと団結力、及び各地で突発的なゲリラ活動を展開できる若者たちの南半球という戦いの構図が出来上がった。
それまで二度にわたり勃発した世界大戦を、世界大戦ではなかったと歴史学者に言わせるほどの規模で、世界は戦乱期に突入した。
赤道上で繰り返される戦闘に加え、若者たちによる無差別な破壊工作、そして天文学的な規模にまで拡大した流民と、彼らを苗床として発生した伝染病、そして飢饉。南極でメガラニカ軍が暴走してより僅か一年あまりの期間において、世界の人口は半減していた。