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十八 ネオテニー

「支援、とおっしゃいますと」


 エリカは続く言葉を待った。


「あらゆる形で、この国が機動に乗ることを手助けしたいと考えています。資金、技術、政治的根回しまで、私にできるこでしたら、なんでもさせていただきます。エリクシルも、優先的に、他国と比較しても、格安で提供いたしましょう」


 世界で最も影響力を持つ男の申し出は、これ以上ない魅力的なものであった。この時代におけるエリクシルは、既に水や空気と同じように、人が生きるために必要不可欠なものと化している。そのエリクシルを唯一世界に供給できる男は、その気になりさえすれば、独裁者として君臨することができる力を持っていた。そんな強大な権力を有する男の支援は、国家間のパワーバランスを左右できる程の影響力を秘めている。


「たいへん有難い申し出なのですが、何故今になって、我々の支援を表明されるのですか」


 慎重に言葉を選びながら、エリカは問う。


「今までの貴方の振る舞いは、むしろ政治とは一定の距離を置いていたはずです。いずれの国家にも組せず、完全な中立を保っていたのに、何故今になって、我々を支援してくれるのでしょうか。確かにこのメガラニカは、貴方が生み出したも同然の国です。貴方の子供ともいうことができるでしょう。しかし、国は国です。一方に偏れば、他方が立たなくなる。貴方の支援により、世界のバランスが崩壊するかもしれないのですよ。それをご理解したうえで、ご支援くださるのでしょうか」


 パラケルススは子供を諭す様に語る。


「私が結局何を目指して、エリクシルを世に出したのかお判りか? それは、人類の進化を促したかったからです。寿命、老化に制限された人の活動には、当然限界があった。消えゆくからこそ美しい人生があるのだという意見も聞こえますが、死なぬなら死なぬ方が良い。あなた方のように、美しい姿のまま生きられるのならば、美しいままの方が良い。これは当たり前のことなのです。昔は老いることが普通であったからこそ、死に対してなんらかの美的感覚を与え、無理やりにも人生に価値を与えようとしていた。しかし、そんな考えは歪んでいると私は考えます。古代ユダヤ人たちが、怨恨により価値の転換を図ったように、死を恐れ憎むあまり、人はその現象に価値を与えてしまった。私にはこうした欺瞞が耐えられなかった。今人類はエリクシルを手にし、新たな段階に至ろうとしています。その先駆けとなるのが、あなた方の国家メガラニカなのです。ネオテニーという言葉をご存じかな。幼形成熟とも言います。文字通り、幼い姿のまま成熟し、その後子孫を残してゆくという現象です。自然界ではよく見られることで、我ら人間自体、サルのネオテニーであるという説があります。だから体毛が薄く、爪や歯が脆弱だというのです。もうお判りでしょう。ネオテニーは進化の切っ掛けとなりうるのだと、私は考えています。そして、メガラニカ、この地に集った若者たちは、人間社会におけるネオテニーであるといえるでしょう。幼いままの姿で経験を重ね、ついに自分たちの世界を構築した。私はこの新しい国に、人の進化を期待しているのですよ」



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