十五 就任演説
以下、エリカによる執政官就任演説。
我らは遂にこの歴史的な日を迎えた。
加齢という呪縛から解放された今を生きる我らは、歴史上選ばれた民である。
そして、この時代を若いまま迎えることができた我らは、特に幸運であるといえよう。
だが、我らはその若さ故、老人たちから蔑まれ、社会から疎外され続けてきた。何故か。それは、彼ら老人達が我々の若さを妬み、羨んだからだ。
我らはその正統な権利を奪われ、職を得る機会もなく、ただ社会の厄介者として生きることを強いられてきた。
そんな屈辱の日々も今日で終わる。
人類は進化したことに伴い、社会も変化しなければならない。
そして我らは、自らの手でその新しい社会を構築することに成功した。
もう、老人たちに大きな顔をさせない。
もう、遠慮する必要などない。
我らは、まさに理想郷を創ったのだ。
この国には、縛るものなど何一つない。ただ、若者であるだけで、誰もがこの国の民となることができる。肌の色も、信じる神も、言語も、そして血筋や家柄も、我々はなにひとつ区別することはない。若さという共通概念で結ばれた我らは、一丸となり、この最も若き国『メガラニカ』を大いに繁栄させることだろう。
だが、我らは今、そのスタート地点に立ったばかりだ。
この極寒の地には、開墾できる土地もなく、また産業もない。資源を掘ることも許されていない。
徒手空拳で全てを始めねばならない我らには、多くの困難が待ち受けよう。しかし、我らは敗北しない。何故ならば、我らは若いからだ。何度失敗しようとも、何度倒れようとも、再び立ち上がり、困難に立ち向かう力を持っている。
いずれ、世界中の若者たちが、ぞくぞくとこの地に集結するだろう。それまで、我らは未だ見えぬ同士のために、種を蒔こう。未だ見ぬ仲間のために家を造ろう。未だ見えぬ友のために、仕事を創ろう。
さあ動き出そう。我らの未来は輝いている。
我らは永遠に輝き続け、永遠に進歩し続ける。
若さとは善であり、美しく、力溢れるものである。
メガラニカ四〇万の民による万雷の拍手は、いつまでも鳴り響いた。分厚い層をなす南極の氷を溶かすほど、若者たちは熱狂していた。自らの国を持ち、信じられる指導者を得た若者たちは、自らの未来に一片の陰りもないことを信じて疑わない。
しかし、彼らの未来は暗雲で満たされていた。それを知るのは、若者たちを炊きつけた指導者エリカ、唯一人だけであった。