十三 指導者たち
「パラケルススの正式な支持が得られました。彼は若者の移住に対してその全てを容認するとのことです。ただし、エリクシル精製工場があるアレクサンダー島には近づかないこと、これが唯一の彼が提示した条件です。容認というよりも無関心に近いですね。噂されていた資金の提供などは行われないようです」
十歳前後の少年が、弾んだ声で報告した。彼の前にはマホガニー製の巨大な円卓が設けられており、そこに五人の若者が均等な距離をあけて座っている。世界中の若者たちを統べる五人のリーダーの中に、日本人のエリカも含まれていた。
「パラケルススの支援が得られないのは痛手だが、当面の運営資金は問題ない。我らの支援者は多く、世界中より膨大な支援金が集まっているからな」
欧州地区代表の金髪碧眼の青年が、銀縁の眼鏡を持ち上げながら発言した。
「まずは、過酷な環境で生活を維持できる設備の建築から始めなければならない。そのための部隊を派遣しましょう。各国の認可も、パラケルススの容認も得られたのですから、早速動き出すべきです」
中国で若者たちを束ねる黒髪おかっぱの少女が続いて意見を述べる。
「いやいや、それよりも我々は大切なことを決めねばならない。それは、何歳まで我々の同士として、南極の新国家へ受け入れるかという制約だ。私は以前から訴えていたように、十八歳までを若者とし、十九歳以上の受け入れを拒否すべきだ」
サリーをまとったインド代表の褐色の少女が立ちあがった。
その発言を遮るように、アメリカ代表の逞しい青年も立ち上がる。
「馬鹿な、二十までは若者だと認めるべきだ。それが世界の常識だろう」
「それはあんたの国の常識だろ。僕の国では十六歳から飲酒できるぜ」
欧州代表の青年が、ドイツ訛りで反論する。
「常識などにとらわれている段階で、この場にいる資格はない。我々は、新世界を創造しようとしているのだぞ」
と、中国の少女も同調した。
「あなたは単に自分が十九歳だからそう主張しているに過ぎない。私からみたらあなたはオジサンよ」
インドの少女も立ち上がり、円卓が混乱しようとした瞬間、エリカは口を開く。
「制約は設けないほうがいい。自らが『若者』であると認識する者は、すべて受け入れる。本当に若者である人間だけが、新しい国で生きてゆくことができるだろう。言語、宗教、習慣が違う人々が集うのだから、当初の混乱が生じることは止めようがない。ただ、若者ではなかった人間は、自然と淘汰されることだろう」
世界中のリーダーの中においても、エリカの発言は力を持っていた。政治家を操り、この計画を起動に載せたその手腕を、誰もが認めていたからだ。
「シャオの言うとおり、まずは設備建設から始めなければならない。ただし、ひとつだけ私から提言がある。それは、南極に集う若者たちは、苗字、つまりファミリーネームを捨てること。我らは生まれ育った国を捨てる。それは同時に、家族を捨てるということ。親・子のしがらみは、我らが忌み嫌う年功序列を表現する最たるものだと、私は考える。南極に集う若者は、これを捨てねばならない」
エリカの言葉に、反論する者はいなかった。