いにしえの宗教
登場する人物、団体、製品名、その他固有名称はすべて空想・架空のもので、現実の企業、団体、個人とまったく関わりはありません。
話は校舎の崩落まで遡る。
崩落を免れ、廊下で唖然としていた私は足元の光に巻き込まれ、気が付くと何も無い白い空間に居た。床というか地面が無い。空中に浮いている。目の前には、10歳ぐらいの男の子が、やはり宙に浮かんでこちらを見ている。なんだろう。
「えーと。何が起こったか理解できます?」
聞いてきた。
「いや、さっぱりなんですが。どちら様でしょう?」
聞いてみた。
「うーん。異世界召喚って知ってる?」
「最近、ラノベやアニメで良くあるやつでしょうか?」
こりゃ、神様チックな人っぽい。失礼の無いようにしよう。
「僕はね。こちらの世界の神様的なモノなんだよ。それも現時点で一番信者が多く、最も歴史が古い宗教的なヤツ、日本でも最大の。君もうちの信徒だよね」
やっぱり神様みたいだ。最多信者数ってことだと、あれとか?それとかだろうか?私は信者じゃないんだけど、家は禅宗だ?
「うちの宗教の名前は『科学』って言うんだ。理解した?」
理解に苦しむ、科学って宗教だったんだ。なんかチグハグ感てんこ盛りなんだが。
「神様的なモノってのは、知的生命体からの信心を『神力』って形で集めることで力を発揮できるんだよ。ある世界で神様的なモノがやって行くには信心を集めないとうまくない。
昔は、いわゆる普通の宗教、天国に行けますよ、幸せになれますよ、とか言ってればそれでOKだったんだけど、人が増えるとね、効率が悪いのよ。宗教間で喧嘩始めるし、縄張り争いもひどくなる。あげくは宗派間の兄弟喧嘩でドンパチ始める。どうしようもないよね。
産めよ、増えよ、地に満ちよ。とか言って増えすぎちゃったからねー。信者増やしたいのに、殺し合い始めちゃったら、意味無いよね。
それにね、食うに困らなくなると、実質的な幸福を求めるようになるから、素朴な宗教観じゃ人は寄ってこないんだよ。特に先進国って言われてる国では普通の宗教は冠婚葬祭以外に出番がなくなる傾向だからね。
やれ信教の自由だ、政教分離だとかで、学校で宗教を教えるのがデフォだった時代も過去の話。布教にも制限がかかってくるのよ、近代社会は。
その点、僕んとこは、宗教に甘いように見えてアレルギーが強い君の国、日本でもちゃんと学校で布教してくれる。ほとんど全国民が信者なんじゃないの?僕にとってはウハウハなんだけどね」
たしかに言われるとそんな気もしてきた。科学って宗教の一種なんだ…
「科学ってのは、計測技術と数学で成り立ってるようなもんなんだよ。目の前のものを事実として受け入れる寛容さ、物理法則とかが経典なのさ。
2000年ぐらい前はちゃんと機能してたんだけど、新興宗教に押されてね。千年ぐらい停滞してたんだ。中世暗黒時代ってヤツだよ。魔女狩りとかね。
それでも、うちの宣教師ってか伝道師ががんばって盛り返したんだよ、有名でしょ。ガリレオ、ダーウィン、ニュートン、アインシュタイン。これらを基盤に産業革命とやらで食糧事情が改善したのが大きいんだ。ハーバー、ボッシュとかを聖人認定したいね。
経典という物理法則ってか自然の摂理、それを読み解いて社会に還元する。それで人類全体を幸福にする、これが教義みたいなモノなんだけど、まあ大勢殺すことにもなるんだ。他の宗教のように…」
人の死を哀れんでる風に見せて、収穫前の畑が台風でやられたって感覚なんじゃないか。
「知的生命体ってのが肝なんだよ。ある世界で知的生命体が発生するのは極々希だってことは理解するよね」
銀河系に2000億個の星があって、知的生命体が存在する可能性は多くて数個程度、観測可能な宇宙に1個しかないという推測もあるらしい。
「この世界で、何度も大量絶滅が発生している事実は知ってると思う。なぜ恐竜が絶滅した?僕に都合が悪いからだよ。あんなのがはびこってると知的生命体が生まれない。だから星を落とした」
強制リセットしやがったのか。メテオインパクトだ!
「この世界に知的生命体が発生しているすごく低い確率。おかしいと思わない?管理者が手を出していないわけは無いでしょ」
なんか怖い。お釈迦様とか弥勒菩薩にすがりたい気がしてきた。
「そこで、現在日本と多くの先進国で最大勢力は『科学』。ちなみに2番手は『拝金教』って言うんだ。最近信者が大量に死ぬ原因、すべてこいつらが悪い。何とかして欲しいね、特に赤いヤツ。キツネじゃないよ」
拝金教……某大陸にはびこってるヤツだな。