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第一話 血がドバドバ


衝撃波によってきしむ木。

力と力のぶつかり合いによって地面に開いた大きな穴。

後ろには、妹のようにかわいがっていたカレン。

それを遠くから見つめるベテラン冒険者。


いいよな、もう、本気出したって……。


俺は、巨大な怪物へとむきなおり、歩みを進める。


「ダ、ダメ‼ アクセルお兄ちゃん、もういいの逃げていいから、お兄ちゃんも殺されちゃう‼」

叫ぶカレン。


「これは、どういう状況なんだ……」

状況が呑み込めないマリン。



俺は、もう誰も失いたくない‼



ー----------------------------------------



 美しい日光、豊かな大地、陽気な風。


なんてすばらしいんだ。まるで自然の全てが俺のことを歓迎してくれているようじゃないか。



そう、この目の前の跳ね回るウサ耳さえなければ。

俺は、まるでそいつの意思にそって動いているかのように動いているウサ耳をにらめつける。


「おい、マフィン、お前、今何してる?」

「ん? 私は、今うまい人参をたらふく食っているところだぴょん。」


そいつは、口いっぱいに人参をほおばりながら、アホみたいな顔をこっちに向ける。


「そっかー、うまいか、俺が丹精込めて育てた人参だからなー。」

「ああ、お前才能あるよ……ぴょん」


そいつは、口にほおばった人参を咀嚼してすべて飲み込むと、口の端に人参のカスをつけながら偉そうにない胸を張った。



「何してくれてんじゃバカヤロー‼」


俺は、マフィンの小さい顔を握りつぶすかのように握った。


「いったぁぁぁい‼ お前、こんな超絶美少女に暴力を振るなんて‼ っていうか、痛い痛い痛い、ミシミシって音がした、そろそろやめてくれるんですよね、本当に痛いんですけどぉ‼」


マフィンは、必死にもがくが、アクセルの顔面ロックからは逃れられるはずはなく、じたばたするだけだった。というか、ぴょんはどこ言った、設定浅いな。


「ふはは、馬鹿だな、こんな田舎の町はずれの小さな畑に誰もいるわけないだろぉ‼。 ばかかぁ‼ バカなのかぁお前はぁ‼」


くそっ、このまま顔面を握りつぶしてやりてぇ。

思わず、俺の手に力がこもると、マフィンは、兎の姿に変化して、逃げていった。


「お、おい、逃げんな、人参かえせー‼」


俺が、叫び終わったころには、マフィンの姿は見えなくなっていった。

というか早いな。


っていうか、俺が必死に育てた人参が……。


「くっそぉー、今月の生活はただでさえ苦しいってのにぃーーー‼ しかたねぇ、今日も帰るか……」



俺は、やるせない気持ちを抱えつつも、あんまり動くとお腹がすいてしまうので、家に帰ることにした。



「おい」


「といっても、あいつには、助けてもらっているから、人参の一本や二本くらいならいいわけないぃぃ……死ぬぅ…餓死するぅ……。」



「おい」



「やっぱり、あいつには、食った分働いてもらわないとだな……まあ、顔はわるくないからな…。」



「おい…そこのゲスな笑みを浮かべて、ゲスな顔をしている人間よ……」

「って、誰が貧乏ゴミクズ人間だー‼」


「いや、そこまでは言ってないのだが……」

俺は、思いっきり振り返って怒鳴り声をあげた。





「なあ、ちょっと助けてくれないか?」





そこには、目を疑う光景が広がっていた。



「お、おい、お前、腕はどこにやった……。 腹から滴っているそれは……血か?」



俺は、目の前に現れたそいつに驚き動揺を隠せずにいた。なぜなら、そいつの状態は、怪我なんて生易しいものではなく、逆に生きているのが不思議なくらいだったからだ。



「そんなことはどうでもいい、もう俺に残された時間は、そうもない……。 なあ、一つ願いを聞いてくれんか……。」



そいつは、振り絞るように言葉を発した。


俺は、それを神妙な面持ちで眺め、少し、いや数秒の間思考にふけるように、目をつぶった。

そして俺は……。


「すぐに回復術師さんをよんできますねーーー‼」

「えー‼」



逃げた。どう見ても俺の手に負えることではなかったし、これ以上面倒なことに関わってたまるか‼


俺は、すぐに町の中心にある冒険者ギルドへとダッシュでかけていった。


「よお、アクセル。 そんなに急いでどうした。 いい儲け話でもあったのか。」

「いま、そんな冗談言っている暇はないんだ‼」


俺は、冒険者ギルドの前にいる薬屋のおっさんをはじき飛ばした後、すぐに受付へとタックルした。



「受付嬢さん‼」


俺は、受付で叫ぶ。


「あー、今行きますー。」


受付嬢は、奥にあるデスクでもたもたしており、俺の慌てようにたいして、ものすごくゆっくりしていた。


「早くしてください、時間がないんだ‼」

「はいはい、何ですか。」


初めて見る顔だった。きっと新入りのギルド職員なのだろう。

美人だが、ツリ目に眼鏡をかけていて、少しきつい印象だ。


「ち、血まみれの人が、木にぶら下がっていて……。片腕もなくて。早く、誰か回復術師さんを派遣してください‼」



俺は、みたことを神妙な面持ちで受付嬢に告げる。


その話を聞いて、受付嬢は、まるで俺がおかしなことを言ったかのような変な顔をした。

「そ、それは、ただ単に、何かしらの動物と勘違いしたのでは? そんなに危険な動物は、この町にはいないと思うんですが。」


確かに、この町、ファーストは、駆け出し冒険者が、冒険者として基礎的なことを学ぶ為の駆け出しの町であり、危険なモンスターなど一匹もいない。


 なので、アクセルが言っていることはにわかには信じがたい事なのだ。

 けど、今は非常事態なのだ、なんとしてでも説得しないと‼


「そんなわけない、今すぐいかないと死んでしまう‼」


俺の、鬼気迫る訴えを聞いて、受付嬢は、うーんとうなった。


「はぁ、残念ですが、現在冒険者の訓練中でして、回復術師は一人もいません。なので、依頼料を払っていただいてクエストボートに依頼表を貼っていてください。」

「ああもう、だからそんな時間ないんだって、この石頭‼」


俺は、そう受付嬢に吐き捨てると、入り口においてあった回復薬のビンをもてるだけ抱えた。


「これ全部つけといて‼」


クソ‼ ただでさへ、生活が厳しいのにぃーー‼

俺の目の端に涙がにじむが、そんなこと気にしている場合ではない‼

俺は、急いで怪我人もとへと走っていった。





いない。



「あ、あれ、どこに行ったんだ。」



あの怪我人がどこにもいない、血の跡すらない。まるでそこには、最初からなにもいなかったようだった。


 まじかよ。

 え? 本当に俺の勘違いだった? 



「おう、ここだぁ、先にいただいてるぜー。」


そうやってあたふたしているアクセル後ろから、陽気な声をかけられた。

振り返ると、そこにはあの怪我人が立っていた。

しかし、いまだにお腹には、大きな穴が開いており、片腕はない。

しかも、そいつの手には、俺が持っていたビンが、全て抱えられていた。


「あ、俺が持ってきた回復ビンがない‼」



そいつは、俺の驚いている姿を見て、くすっと笑うと、バリバリバリバリと回復ビンを食べた。



「初めまして」



すぐに分かった。



「魔神でぇーすっ☆」




こいつは、人間じゃない。


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