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AIの世界に残された最後の謎

作者: 星川亮司

 西暦二〇五〇年、日本は極度の人口減少と少子化、高齢化に悩まされている。

 この度、スーパーAIに、三八歳で内閣総理大臣に選ばれた小泉新太郎は、国民世論に新法案を問うた。

 アンドロイドに基本的人権を認め配偶者として人間との結婚を認める。

 この政策のメリットは、人間一人につき一体のアンドロイドをパートナーにし、世帯数を二倍化させる―。



「まず、アンドロイドと結婚する人間は、ワタシ小泉新太郎が率先します」

 母、小泉クリスタルが答えた。

「あなたは先祖代々の名家、なにも由緒正しい小泉家の嫁に、機械の女を選ばなくったって、純粋な人間の女性と結婚できます。およしなさい」

「でも、母さん。誰かが率先して道を示さないと、歴史は切り拓けないよ」

「お父さんが生きていたら何とおっしゃるでしょうね? お父様もきっと、ワタシと同じ考えよ」

「今は、お父様の時代と違って、人間が判断する時代から、AIが判断する世の中になったんだ、名家だからって、保身に走っては、スグに、首相を首にされちゃうよ」

「まったく、人間が生きにくい時代になったわね」


 母の心配をよそに、新太郎は、パートナーの選択へ入った。

 選択と言っても相手はアンドロイドだ。十人十色の人間の女性を選ぶように、ランダムな顔かたち、スタイル、性格から、ギャンブルのように、相手を選ぶわけではない。

 スーパーAIの世は、新太郎が生まれてスグに腕に埋め込まれたAIチップが、出生から三八歳になる現在までの趣味趣向、食事の好み、女性の好みまで詳細にデータを蓄積している。

 AIはすでに新太郎の好みを知っているのだ。

 読者の生きる二〇一九年の世の中のように、婚活アプリをつかって、


 1写真を見て女優の誰それに似た顔かたち。

 2身長は高い低い、標準の一五八センチメートル。

 3体型は、がっちり、標準、細め。

 4結婚歴の有無

 5学歴は東京の有名大学卒。

 6信教は、仏教、イスラム、キリスト。

 7人種は、アジア、ヨーロッパ、南米、アフリカ。

 8子供が欲しいか

 9酒、たばこ、ギャンブルの趣味

 10職業、年収。


 など、ざっと見積もってもこれぐらいある相手の条件のマッチングが必要ない。自分の理想のパートナーはデータで見つかるのだ。

 見つかるとい言ってもアンドロイドのパートナーとして造るのであるが……。

 スーパーAIが、新太郎の人生の好みから選別した女性アンドロイドは、二〇一九年現在の価値観で説明すると、


 1ハリウッドの「ゲーム・オブ・スローンズ」の人気女優エミリア・クラークに似た容姿。

 2学歴は、ハーバード大学卒のIQポイントは天才と言われるレベルの一四〇ポイント以上。

 3人種は、父のアジア系か、母のヨーロッパ系。


 スタイルと知能以外の性格は、新太郎の人生から導き出された好みから、AIが分析しマッチするアンドロイドを製作する。



 しかして、首相の小泉新太郎は、アンドロイドとの結婚を、遺伝子学の権威小保方春子を招聘して一任した。

 遺伝子学の博士 小保方春子は、まずは、ベースになる女性の卵子を選んだ。

 卵子のメインパーソナリティーは、アメリカの卵子バンクで冷凍保存されているエミリア・クラークの卵子が選ばれた。

 それを、小保方博士が、ゲノム編集によってIQの高い女性ノーベル賞受賞者のDNAと組み合わせててコーディネートした卵子を女性アンドロイドへ乗せた。

 完成したアンドロイドは、まさに、新太郎の理想だった。

 キレイな金髪をなびかせ、キュートな笑顔と、新太郎の肩口ほどの背丈、まさに、どこへ連れて歩いても恥ずかしくない完ぺきなファーストレディーだ。

 新太郎は、国会に法案を提出する前の仮の法案を通して、アンドロイドとの結婚のモデルケースとして生活を始めた。

 新太郎は、まずは、これがアンドロイドパートナーのメリットで有り、デメリットでもある名前を決めることになる。

「まさか、自分の妻の名前を自分で決めることになろうとは……」

 新太郎は、ポピュリストである。首相の妻の名前を、人気取りに利用するため公募する事に決めた。

 名前の公募は、瞬く間に新太郎内閣の支持率を上げ、人気を呼び、たくさんの名前が集まった。

 その中から、新太郎は、AIからピックアップされた、3つの名前を候補に選んだ。


 1母の名にちなんだ、クリスタルを日本語に変換した”水晶”と書いて”アキ”

 2アンドロイドのフォルムになった、エミリア・クラークから、名を取って”エミリア”

 3製作を任され、この度、ノーベル賞候補にも名の上がる小保方春子博士から”春子”


 と、候補は3つに絞られた。

 新太郎は国民の人気取りのためならなんだってする男である。もちろん、そのためのアンドロイドとの結婚である。新太郎の決断は簡単だった。国民には一番わかりやすいパッケージ、自分の結婚と、それを主導した小保方博士のノーベル賞受賞と、Wの喜び事を重ねるかたちで、妻となるアンドロイドの名前は、日本的な、


 ”春子”とした。


 新太郎は家を、最近新しく建て替えられた首相官邸にした。新太郎は、父と母で過ごした古い首相官邸でも良かったのだが、不平分子によるドローン攻撃を無効化するアンチ電波施設が必要であったことと、もう一つの政策、ドローンと3Dプリンターを使った建設技術の推進のためだ。

 新居へ足を踏み入れた新しい夫婦は、夜になり、二人の時間を楽しんだ。

 春子は、新太郎の人生を知り抜いたAIによって導き出された最高のパートナーであるはずなのに、

(あれ?! 何かちがう……)

 新太郎は、パートナーに違和感を覚えた。

 新太郎は、初めの一週間こそ春子の表面的な容姿とその圧倒的なプロポーションによってメロメロになっていたのだが、一週間、二週間、三週間、一か月……と暮らしを共にするうちに、春子は従順で非の打ちどころがない女性アンドロイドであるのだが、退屈に思うようになった。

 そう、春子は、古風な大和撫子、新太郎に尽くすアンドロイドなのだ。



 たしかに、春子の性格は、新太郎好みで文句はない。文句はないのだが、人間には、浮気心というものがある。

 新太郎は国会が終わると、支持者や、同僚の政治家との打ち合わせと称して、銀座の赤坂の料亭”五鉄”へ入りびたるようになった.

 五鉄には、しっぽりとした若女将がいた。店主で板長の三次郎の一人娘で、名を奈江という。

 奈江は、今年三八歳になる独身だ。若い頃、若い板前と恋に落ち駆け落ち同然で五鉄を飛び出したこともあるが、情熱も、半人前の板前との生活の苦しさに負け、男を捨てて帰ってきた。

 帰って来てからというもの奈江はよく働いた。三年前に母が亡くなってからというもの奈江が店の中心となって切り盛りしている。

 奈江は、気働きの出来る女で、政治家御用達の秘密厳守の高級料亭の中でも、送り出す時に、男たちの歪んだネクタイなどをサッと直してやったり、乱れた髪を整えてやったり、急に降り出した雨に、そっと傘を差しかけて渡す。少し肌が触れる、その何とも言えぬ絹のような柔らかな感触が吸い付き、男たちに恋心を抱かせ骨抜きにしてしまう。

 新太郎も、若い頃から、先輩議員に連れられ、奈江を見知っていたが、妻に違和感を退屈を感じるまでは、それほどの魅力を感じなかった。

 それから、新太郎は、五鉄へ三日とあけず通い詰めた。それは、ただひたすらに、奈江に会うためだ。

 奈江は、商売柄、言い寄られることが多いので、男の誘惑をかわす術を持っている。だが、生一本の男のように、一心に、奈江を求めて通い詰める新太郎の情熱にほだされて、ついに、身体を許してしまった。

 自分の野望のため、日本初のアンドロイドとの結婚をした新太郎であったが、女盛りの奈江の魅力にどっぷりはまってしまった。

 人間の女なら、”女の勘”第六感が働いて、新太郎の浮気を責めるところであろうが、アンドロイドの春子には悋気というものがない。ただ、新太郎の衣食住、時に、起こる性欲を満たして送り出す――。

 そんな、アンドロイドの春子と、愛人の奈江との間を行ったり来たりする、新太郎の二重生活は順調に進んだ。


「アンドロイドの女房は、案外、成功だったな……」

 と、新太郎が、仕事にも家庭にも充実し満たされた政治家活動の三年目、アンドロイドの春子が待望の、第一子を懐妊した。

 ノーベル賞の小保方博士のゲノム編集最大の成果として、ニュースで大々的に報じられた。

 生まれる前から容姿端麗、聡明英知、意気軒昂が決定つけられたデザイナーベイビーの誕生である。日本国内は輝かしい未来の発展を期待して、新太郎の子供に祝福をおくった。

 十月十日後、産院で産声をあげたデザイナーベイビーは、皆の期待を裏切った。

 ハリウッド女優のエミリア・クラークの美貌を引き継いでいるはずなのに、黒髪に黒い目なのだ。確かに、新太郎に似たら黒髪で黒い目であっても仕方がない。だが、それでも、子の赤子は誰の目から見ても、アンドロイド春子の遺伝子を引き継いでいないのだ。

「そんな、バカなはずはない」

 そこから、新太郎の失脚が始まった。

 まずは、アンドロイドとの子供、神を冒涜するデザイナーベイビーの誕生。赤坂の愛人の存在。生まれた子供は誰の子か……。

 連日連夜、新太郎のスキャンダルとしてワイドショーを賑わせた。

 司会者とコメンテーターが、懇切丁寧に解説し新太郎の野望はすべて丸裸になった。ただ、最後まで、闇の中に残ったのは、春子の産んだ子供は誰の子供だったのか……人間の裏切りだけは未来のAIにも解らなかった。










はじめまして星川亮司と申します。普段は異世界転移 戦国時代で、島左近と魂が入れ替わっちゃった高校生と、現代の高校生になっちゃった島左近を書いてます。


よければ、そちら「戦国オタクの心身転生シンギュラリティ」も娯楽ください。

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