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大英雄の息子の日常冒険譚  作者: いかぽん
エピソード4:商人からの護衛依頼

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第45話 戦いの決意

 村人たちの議論は続いたが、まとまりのつくものではなかった。


 全会一致で合意が得られたのは、国に救援要請を出すこと。

 これに反対する者はいなかった。


 しかしその上で、救援が来るまでどうするかの話になると、誰もが納得する答えは出なかった。


 ひとまず村で暮らしながら、ドラゴンが襲ってきたら避難するか。


 だが高速で空を飛ぶドラゴンから、五百人を超える村人がどうやって逃げ切れるというのか。


 ならばと言って「男たちが武器を取って戦い、女子供は逃がす」という案が出たあたりで、一般の村人たちからも賛否の意見が多数出てきて、議論が紛糾して収拾がつかなくなった。


 その頃には、ケヴィンの腹も決まっていた。

 少年は一つ深呼吸をしてから、挙手をして声を上げる。


「発言、いいでしょうか?」


 透き通ったよく通る少年の声に、議論の場は一時、しんと静まり返った。


 やがて村長が、ケヴィンに発言を許可する。

 少年は広場に歩み出て、村人たちを見回して言った。


「もしドラゴンがこの村を襲いにきたときには、俺が戦います」


 村人たちは、ぽかんとした。

 この少年は、いきなり何を言い出すのか。


 それはケヴィンのパーティの先輩冒険者たちも同じであった。


「ちょっ、ちょい、少年……!? ドラゴンに、勝てるつもりなんか……!?」


 慌ててそう聞いたジャスミンに向かって、ケヴィンは首を横に振る。


「分かりません。実際に戦ってみなければ何とも。でもヒューバートさんでも勝てない相手なんだとしたら、難しいと思います」


「難しいと思います、って、それじゃあ……」


「でもそれは、俺一人で戦ったらの話です。皆さんの力を借りることができれば、勝算はあると思っています」


 ケヴィンの発言に、その場にいる村人たちがざわめき始める。


 次に意味のある言葉を発したのは、村長だった。


「話が見えないのだが、冒険者の少年。キミは仲間たちの協力が得られれば、例のドラゴンとも互角以上に渡り合えるというのかね?」


「はい。そんな直観がある、という程度ですが」


「『直観がある』では……いや、しかし……冒険者の皆さん、彼の言うことは本当なのですかな?」


 村長がそう言って、冒険者たちの姿を見る。

 そこにはもう一つの冒険者パーティの姿もあった。


 魔導士のローナと、斧使いの戦士ダリルが、互いにうなずき合う。

 ダリルが一歩前に出て、発言をした。


「ドラゴンを倒せるかどうかは分からねぇが、その坊主がとんでもない実力の持ち主だってことは間違いない。その坊主が言うんなら、そうなんだろうと思うぜ」


 ローナもまた、ダリルの隣に歩み出る。


 彼女は首にかけられた銅製のタグ──Cランク冒険者の証を村人たちに見せながら、言い放つ。


「それはボクも認める。Cランク冒険者のボクの目から見ても、彼の力は頭抜けているよ」


 村人たちが、再びざわめき始めた。


 その一方で、不安げな声を上げたのはルシアだ。


「で、でもケヴィンさん。『勝算がある』としても、それは『負けるかもしれない』でもありますよね。凶悪なドラゴンを相手に負けるというのが、どういうことだか分かって言っているんですか?」


 その少女の声にも、ケヴィンは微笑んで答える。


「はい。ですから迷いました。俺の気持ちに、ルシアさんたちを巻き込んでもいいのかって。でも俺が考えているやり方なら、確実とは言えないまでも、俺以外の人へのリスクは最小限に──」


「そうじゃなくて! いえ、それもありますけど。でもその前に、ケヴィンさんが命を落とすかもしれないって、そういうことでしょ……!? ほかの人たちのためなら自分の命なんてどうなったっていいって、そういうの、私は……!」


 ルシアの姿はどこか、今にも壊れてしまいそうな脆さを見せていた。


 ケヴィンはそれに少しうろたえたが、すぐに首を横に振る。

 そしてルシアをまっすぐに見て、真剣な表情で答えた。


「すみません、ルシアさん。でも俺、今よりももっともっと強くなりたいんです。俺が守りたいものをいつでも守れるぐらいに、強く」


「そんなの、だって……! ……って、んんっ……? あれ……?」


 ケヴィンの言葉をかみ砕いたとき、ルシアは首を傾げた。


 ついで魔導士の少女は、きょとんとした顔になって、目をぱちくりとさせる。

 想像していた答えと違ったよ、という様子。


 ルシアは少年に、おそるおそる問いかける。


「強く……なりたい……?」


「はい。だって俺、男ですから」


「はあ」


「あー、えぇっとですね、父さんが言ってたんです。強くなるためには、神から与えられた試練に挑めって。……ルシアさんは俺の考え、不謹慎だと思いますか……?」


 そう言って、怯えるようにルシアの顔色をうかがうケヴィン。


 一方のルシアは、うつむいて肩を震わせる。


 そしてやがて、耐えきれなくなったように噴き出した。


「ぷっ……あははははっ! 何ですかそれ……! おっかしい……!」


「えっ……えっ……?」


「つまりアレ? ケヴィンさんはほかの誰かのための自己犠牲の精神とかじゃなく、自分の成長のために──自分のために命を懸けてドラゴンに挑もうとしているって、そういうこと?」


「あ、いや、もちろん人命のためが第一ですけど……。でも俺がどうしてそうしたいのかを突き詰めたら、それだけでもないなって……あ、あの、ルシアさん……?」


「あー、そう。もういい、もういいです。分かりました。それならいいです。あと私もできることがあるなら手伝います。そんな気分になりました。あー、おっかしい。何それ」


「えぇ……」


 何かのツボに入ってしまったルシアと、困惑するケヴィン。

 ちなみに村人たちは、唖然としたまま放置されていた。


 一方でもう一人、狼牙族の少女は堂々と腕組みをしたポーズで叫ぶ。


「うん、よく言ったぞケヴィン! 勇敢なオスはかっこいいぞ! さすがワウが見込んだオスだ! もちろんワウも、ケヴィンを支えるぞ! 何ができるか分からないけどな!」


 それには横にいたルシアが、ぼそっとつぶやく。


「はぁっ……ワウちゃんって、単純でいいよね」


「……なんかルシア、最近ワウのことをちょくちょくバカにしてないか?」


「え、あー……。き、気のせい、気のせいだよ」


「そうか、気のせいか。気のせいじゃない気もするけど、まあいいか」


 その一方で、頭をバリバリとかいて顔をしかめていたのはジャスミンだ。

 若き女盗賊は、呆れたように言う。


「あー、もう、わかったわ。うちも付き合うよ。しかしホント、少年といると飽きないな。平凡なクエストが、世紀の大冒険に早変わりや」


 さらにもう一つの冒険者パーティの、女魔導士ローナと斧使いの戦士ダリルも賛同の意を示す。


「その話、ボクも乗ったよ。勝算があるなら大歓迎。ドラゴンなんかに、ボクたちの世界を好きに荒らさせるもんか」


「俺もだ。お嬢がやるって言ってきかないのは目に見えていたしな。それに坊主なら、やってくれる気がするぜ」


 さらに彼らのパーティのもう二人、盗賊の少年と神官の男も同意する。

 また村の男たちも、次々に協力を申し出た。


 ケヴィンはそれにホッと胸をなでおろしながらも、同時に彼らに対する責任も感じていた。


 自分が言い出して場の空気を作ったのだから、自分にはその責任がある。

 ケヴィンはそう考える少年だった。


 だが、そのとき──


「えぇーい、待て待て! ワシを差し置いて勝手に話を進めるな!」


 そう声を張り上げたのは、冒険者たちの雇い人、商人のハロルドだった。


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