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大英雄の息子の日常冒険譚  作者: いかぽん
エピソード4:商人からの護衛依頼

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第43話 村での日常風景(2)

 あるいは、こんなことがあった。


 冒険者たちが道を歩いていると、道端でカエルをつついて遊ぶ男の子に遭遇した。


 男の子はケヴィンたちの姿を見つけると、目をキラキラと輝かせて駆け寄ってきた。


「兄ちゃんたち、冒険者だろ!? すっげぇ! 冒険者ってさ、ゴブリンとかバッタバッタと倒すんだろ! おれも大きくなったら、ぜったい冒険者になるって思ってるんだ!」


 男の子からそう熱く語りかけられて、ケヴィンは対応に困った。


 ケヴィンは物腰が柔らかく丁寧なので、年上からのウケはいいのだが、実は子供の相手が苦手なのだ。


 困っているケヴィンの代わりに、ルシアが男の子の前に出た。

 魔導士の少女は、男の子の頭を優しくなでる。


「そっか、じゃあたくさん頑張らないとね。このお兄ちゃんはすごく強いけど、たくさん練習して鍛えてきたから、強くなれたんだよ」


「ま、生まれつきの才能も大いにあるやろけどな。鍛えたら誰でも少年みたいになれるんやったら苦労はないわ」


 後ろからジャスミンが付け加える。

 それにはルシアが、顔をしかめた。


「ちょっとジャスミンさん。それは今言わなくても」


「言うて嘘教えるわけにもいかんやろ」


「それはそうですけど……」


「でもルシアが言ってるのもウソじゃないぞ! 強くなるには、たくさん頑張らないとダメだ!」


 さらにワウまで口出しをして、場は混迷をきわめる。

 ケヴィンはさらに困ってしまった。


 だが男の子の興味は、そことは別の部分に向いたようだ。


「よく見たら姉ちゃんたち、すっげぇ美人……!」


 男の子はルシア、ジャスミン、ワウの姿を順に見てから、ごくんとつばを飲む。


 そして彼はケヴィンに向かって、尊敬のまなざしを向けてきた。


「なあ兄ちゃん、おれ知ってるよ! これ『ハーレム』ってやつだろ! 兄ちゃんハーレム作ってんだ、すげぇ……! あこがれるぜ!」


「えっ、いや、あの……そういうわけじゃ、ないんだけど……」


 ケヴィンはしどろもどろになって、ますます困ってしまった。


 なおその後、近くにいた男の子の母親が慌ててやってきて、冒険者たちにぺこぺこ頭を下げつつ男の子を回収していったのだった。




 あるいは、こんなこともあった。


 夜の時間、冒険者たちが宿の外に出掛けた際、道端で酔っぱらった男がケヴィンにぶつかってきた。


「うぃ~っ! あんだよお前ら、ボサッと歩いてんじゃねぇぞ! 謝罪はどうした謝罪は!」


 千鳥足でふらふらした中年男は、ケヴィンの胸倉をつかんでくる。

 完全に目が据わっていて、顔は見事に赤らんでいた。


 ケヴィンは胸倉をつかんできた手をやんわりと振りほどいて、男をたしなめる。


「もう、飲みすぎですよ。家はどっちですか?」


「俺の家は関係ねぇんだよ! 謝罪しろっつってんだよ! 言葉分かんねぇのかこんにゃろうめ!」


「まいったな……。この人、どうしましょう……?」


 ケヴィンは苦笑して先輩冒険者たちのほうを見るが、ルシアとジャスミンは肩をすくめて首を横に振る。

 ワウすらも「情けないオスだな。水でもぶっかければいいぞ」などと呆れていた。


 ケヴィンは周囲を見回す。

 誰かほかに、村の人はいないか──


 すると二人連れで歩く、腰に剣をさげた男たちの姿を見つけた。

 男たちのほうもまた、ケヴィンたちの様子に気付いて駆け寄ってきた。


 どうやら彼らは、村の警備の人間のようだ。

 酔っぱらった男の姿と冒険者たちとを見て、一人が問いかけてくる。


「冒険者の方々、これはどういった状況で。……いや、だいたい予想はつくのだが」


 対してケヴィンは、素直に答えた。

 男がふらついてぶつかってきたこと、ひどく酔っ払っているようだということ、逆に謝罪をしろと言われたこと──


 ケヴィンの返答を聞いた警備の男は、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。


「やはりか……。ダニエル、あんたまたそんなになるまで飲んで。──おい、ダニエルを家まで連れていってやれ」


「はっ!」


 警備のうちの一人が、酔っ払いを連れて去っていく。


 それを見送ったもう一人は、苦笑いしつつ、次にはケヴィンたちに向かって頭を下げてきた。


「すまない冒険者の方々。あいつも悪いやつじゃないんだが、嫁さんを病で亡くしてから、ずっとあんな調子なんだ。許してやってもらえないだろうか」


「いえ、大丈夫です。しょうがないですよね、そういうのは」


「そう言ってもらえると助かる。せめて旅の方に迷惑をかけるのはやめてほしいものだが」


 警備の男はもう一度ケヴィンたちに頭を下げてから、立ち去っていった。




 そんな具合に、村では他愛のない穏やかな時間が流れた。


 冒険者生活という日常的な非日常的の中にある、真に日常的な出来事たち。


 だが平穏は、唐突に破られる。


 それはハロルドの馬車が村を発つ予定日の、前日の夕刻のこと。


 翼を広げて空を飛ぶ、大きな黒い影──


 巨大なドラゴンが村の近くの山に降り立ったのを、多くの村人たちが目撃したのである。


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