裸の付き合い(男)
ケヴィンが更衣室に入っていくと、ダリルら三人が服を脱いでいる最中だった。
ダリルはケヴィンの姿を見つけると、気さくに声をかけてくる。
「お、坊主。お前さんも風呂か。せっかくだから一緒に浴びようぜ」
「はい、ダリルさん。ではお言葉に甘えます」
「ん。──しっかしお前さん、ホント礼儀正しいよな。あんなに剣の腕が立つのに、偉ぶったところが一つもねぇし。俺も『坊主』じゃなくて『ケヴィンさん』とでも呼んだほうがいいのかね?」
「い、いえ、そんな。俺のほうが年下だし、冒険者としても後輩なんですから、普通にしててください」
「そういうとこだよな。ホント、人間ができてるっつーかなんつーか」
「ほ、褒めすぎですよ」
ケヴィンは恥ずかしそうに顔を赤らめて、わたわたとする。
ダリルは苦笑しつつ、ケヴィンが服を脱ぎ終えるのを待った。
二人とも服を脱ぎ終えて、タオル一枚を腰に引っ掛けた姿になると、神官の男や盗賊の少年ともども浴場へと出ていった。
「お、いい感じの露天風呂だな」
入り口から浴場を見渡して、ダリルが感想を口にする。
浴場は露天型のもので、広さは最大十人近くが同時に入浴できるほど。
夜になりかけの薄闇の中、ランタンの灯りが風情ある景色を照らしていた。
浴場の利用客は、今はほかにいないようだ。
冒険者たちの貸し切り風呂状態だった。
四人の冒険者たちは、軽く体を流してから、湯に浸かっていく。
「はぁ~……、沁みるな~……」
「ですね~……」
湯に浸かれば、三日間の旅の疲れが流れ出ていく。
ケヴィンはゆったりと、湯の心地よさを楽しむ。
ふと隣にいたダリルが、横目にケヴィンの体を見てきた。
「しかし坊主、小柄で線も細いように見えて、しっかり筋肉ついてんのな。やっぱりかなり鍛えてんのか。天才ってだけでもねぇんだな」
「はい。日々のトレーニングは欠かさず。そう言うダリルさんこそ、相当鍛えてますよね」
ケヴィンは少年的な体型ながらも、意外としっかり筋肉が付いているといった体つきだ。
対してダリルは、背丈も高くがっちりとした体格で、筋骨隆々とした肉体を持っている。
力の強さは神々から与えられた加護の大きさによっても変わるため、筋肉がすべてではないが、だからといって無意味なものでもない。
ダリルは夜空を見上げつつ返事をする。
「まぁな。たいした才能のない身でお嬢の隣に立つには、できるだけのことはしねぇとって思うし」
「……やっぱりダリルさんとローナさんの関係って、特別なんですか?」
ケヴィンの率直な問いかけに、ダリルは一時黙った。
その「特別」が恋愛的なものを意味していないことは、正しく伝わっていた。
ダリルは少しして、再び口を開く。
「普通の冒険者仲間──には、見えないか?」
「すごく親しい仲には見えます。旧知の仲なんじゃないか、とも」
「……お前さん、ぽやぽやしているようで、案外鋭いんだな。当たってるよ」
それからダリルは、ぽつぽつと語り始めた。
彼曰く、ローナはもともと騎士家に生まれた令嬢であったのだという。
だがあるとき、ローナの故郷は炎で焼け落ち、彼女の両親も命を落とした。
その事態を引き起こしたのは、一体の竜だった。
何の因果か、あるいはただの気まぐれなのか。
そのドラゴンは、ローナの両親が治める騎士領の大半を焼き尽くし、領民を虐殺したのだ。
ローナはそのとき、魔法を学ぶために少し離れた地の魔法学校に通っていたので、被害を免れた。
彼女の護衛として雇われていた傭兵ダリルも同様だった。
その後、事件を引き起こしたドラゴンは、英雄級の冒険者たちの手で討伐された。
だが失われたローナの両親や、虐殺された領民、焼かれた領地が元通りになることはない。
ダリルは報酬を約束する依頼人がいなくなったことで、ローナと縁を切ることもできたが、そうはしなかった。
焼け落ちた故郷で泣きじゃくる当時十三歳だったローナを見捨てられず、ダリルは彼女の面倒を見ることを決めた。
それからあれやこれやあり、二人は現在、ともに冒険者として活動している。
そんな中、ローナは魔導士としてたぐい稀な才能を発揮して、今や冒険者ランクではダリルをも上回っている──
「……とまあ、そんな話でな。今じゃあお嬢も、俺に頼らずとも一人でやっていけるだろうが、特に別れる理由もないんで惰性で一緒にやってるってわけだ」
「そうですか……」
話を聞いたケヴィンは、神妙な顔をする。
自分が想像もしなかったような出来事が世の中にはあり、それを経験してなお、今を笑顔で生きている人たちがいる。
そうした見聞は、少年に得も言われぬ感慨を抱かせていた。




