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大英雄の息子の日常冒険譚  作者: いかぽん
エピソード4:商人からの護衛依頼

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第38話 オークの群れ

 夜の闇に包まれた、森の中。


 二人の魔導士が生み出した魔法の灯りを頼りに、八人の冒険者たちは木々の間を縫って慎重に進んでいく。


 しばらくすると、彼らはモンスターの群れと遭遇した。


 三十歩ほど先に、複数の大柄な人影のようなものを発見したのだ。


 そいつらはおぞましい緑色の肌をしていて、豚のようにぶくぶくと太っていた。


 頭部も豚に似ていて、口からはだらだらと汚らしい唾液が垂れ落ちている。


 数は六体。

 モンスターたちもまた、冒険者たちの存在に気付いたようだ。


 そいつらはニタァっと顔を歪ませると、冒険者たちのほうに向かってずんずんと、一斉に駆け寄ってきた。


 魔導士のルシアが叫ぶ。


「オークです! モンスターランクはE! 動きは鈍いですが、一撃が重いから気を付けて! 私は眠りの魔法を!」


 ルシアはその後、すぐに精神集中し、杖を掲げて呪文の詠唱を始める。


 もう一人の魔導士ローナもまた、同じ呪文の詠唱を開始していた。


 ローナを守るように立っていた、斧使いの戦士ダリルが叫ぶ。


「お嬢たちが魔法を使う! 戦士たちの突入はそのあとだ!」


「了解です!」


「分かったぞ!」


 ケヴィンとワウも飛び出すのをひかえ、その場で待機した。


 オークたちはずしんずしんと鈍重に走って、冒険者たちへと近付いてくる。


 武器として大型の棍棒を持っているものもいれば、素手のものもいた。


 オークたちが距離の半分ほどまで近付いてきたところで、二人の魔導士の呪文が完成する。


「「かの者たちに安らかなる眠りを──スリープ!」」


 不可視の力が、駆け寄ってきていた六体のオークに襲い掛かる。


 うち三体が魔法の力に抵抗できずに、ふらついて倒れた。


 だが残る三体は、頭部をぶるぶると震わせ、どうにか持ちこたえた。


 そのとき、残ったオークのうち一体の出っ張った腹に、一本の矢がぐさりと突き刺さる。


 ジャスミンら盗賊二人がひそかに放った弓矢攻撃のうち、一本は木にぶつかって外れたが、もう一本が狙いどおりに命中したのだ。


 斧使いの戦士ダリルが叫ぶ。


「よぉし、出番だ! ──っと?」


 自らも駆け出したダリルだが、同時に驚きの声をあげる。


 ダリルと同時に駆け出した二人が、彼よりもはるかに素早くオークどもに向かっていったからだ。


 武闘家らしき狼牙族の少女が、敏捷性に優れるのは分かる。


 ダリルと同じDランク冒険者だというし、種族的にも職種(クラス)の面でも、パワー重視の斧使いであるダリルよりも速いのはおかしなことではない。


 問題はもう一人のほうだ。


 Eランクのはずの少年が、狼牙族の少女すら上回る走力で、真っ先にオークのもとにたどりつこうとしていた。


 尋常な話ではない。

 しかも──


「ワウさんは矢が刺さったほうを!」


「分かったぞ!」


「お、おいおいおい……!?」


 ダリルはさらに困惑する。


 矢が突き刺さった手負いのオーク一体を、Dランクの狼牙族の少女が担当し。


 一方ではEランクの少年が、残る二体を受け持つように移動したのだ。


 オークのモンスターランクはE。


 そのランクが意味するのは、平均的なEランク冒険者が一対一で戦って、どうにか勝てるかどうかの相手ということだ。


 ましてや一人でオーク二体を同時に相手にするなど、Dランクのダリルでも肝が冷える戦いになる。

 よほどの窮地でもなければ、そんな戦いは御免被りたいぐらいだ。


 だというのに──


(チッ、何を考えてやがるあいつら……!)


 ダリルは心の中で舌打ちをする。

 そして彼はEランクの少年を援護すべく、少年のあとを追って駆けた。


 だがダリルの心配は、杞憂に終わる。


 ダリルが追い付くよりも早く二体のオークと接敵した少年は、襲い掛かった二体のオークの棍棒攻撃をたやすく回避してかいくぐり、その剣でオークどもに斬りかかった。


「──はぁあああああっ!」


 ズバッ! ズバシュッ!


 Eランクの少年が放った月光のごとき二振りの剣閃は、二体のオークの首を瞬く間に刎ね飛ばしていた。


 二体のオークの頭部が大地に落ちたとき、その胴体のほうもずしんと倒れ伏して、びくびくと痙攣して動かなくなっていた。


「……は?」


 少年を追って駆けていたダリルは、呆然として立ち止まり、目をしばたかせる。


 目の前で何が起こったのか分からず、思考が停止してしまったのだ。


 ダリルが呆けている間にも、少年は狼牙族の少女の援護に回り、もう一体のオークの心臓を剣で貫いていた。


 少年が剣を引き抜いて跳び退ると、オークは胸と背中から激しく血を噴き出して、ゆっくりと倒れていく。


 そうしてあっという間に、動くオークの姿は一つもなくなってしまった。


「何だ、これは……?」


 ダリルは首を傾げる。


 彼は頬をつねってみたが、痛かったのですぐにやめた。


 目の前で起こったことは、どうやら現実のようであった。


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