第22話 見ていました
「その話、ちょっと待ってください。私たち見ていたんです」
ルシアがそう言って、店長の前に進み出る。
目を丸くしたのは、四人組の面々だ。
ルシアの前に、四人組のうちの男の一人が歩み出て、立ちふさがる。
「なんだ、どこの生意気女かと思えばルシアじゃねぇか。こっちは取り込み中なんだよ。話があるなら後にしろ」
男はルシアを小突いて、突き飛ばそうとした。
だが男の手は、少女の横から鋭く伸びた手によってつかまれ、止められる。
「暴力を振るうつもりなら、俺が相手になりますよ」
男の手をつかんだのは、ケヴィンだった。
少年は男を、静かに睨みつける。
「チッ……なんだテメェ、ルシアの連れか? ガキの出る幕じゃねぇんだ。すっこんでろ」
男はケヴィンにつかまれた手を、乱暴に振りほどく。
ケヴィンも強くつかんでいたわけではないので、それは難なく済んだ。
もう一人のチンピラ男がケヴィンを見て笑う。
「そいつ、ルシアたちのパーティの新人だぜ。まだFランクのはずだ」
「はっ、Fランクのド新人かよ。『俺が相手になりますよ』とは、先輩相手にずいぶんでけぇ口をきいてくれるじゃねぇか、なぁ?」
ルシアを突き飛ばそうとした男は、今度はケヴィンの胸倉をつかんでくる。
そしてもう片方の手で拳をにぎり──
「──舐めてんじゃねぇぞ、クソガキ!」
男はケヴィンの腹に、ボディブローを入れた。
ドンと拳を撃ち込まれる音がして、男がニヤリと笑う。
店内にいたほかの客からも、ついに暴力沙汰が起こったことにより悲鳴があがった。
だが──
「暴力を振るうつもりなら、相手をすると言いましたよ」
「なっ……!?」
ボディを撃ち込まれても、ケヴィンは平然としていた。
腹筋の力だけで拳のダメージを受け止めたのだ。
少年はさらに、胸倉をつかんでいる男の手首をつかみ、捻り上げる。
男はあっという間に膝をつかされ、制圧されてしまった。
「痛でででででっ……! は、離せ、このガキ……!」
「お、おい! Fランク相手に何やってんだバカ!」
一方でルシアは、その様子をチラリと見ながら、店長へと声をかける。
「店長さん、私たちは見ていました。──そこの女性が、店員さんの足を引っ掛けて転ばせたんです」
「「「……っ!?」」」
その少女の言葉に、四人組と店長とがいずれも驚きの様子を見せた。
穏やかだった表情をひくつかせたのは、四人組のリーダー格の青年ナイジェルと、その隣にいた女性だ。
「お、おいおいルシア。キミが僕に的外れな私怨を持っているのは知っているけど、そういう根も葉もない言い掛かりはよしてくれよ」
「そ、そうよ! あんた、何の証拠があってそんなこと言ってんのよ! 冤罪よ! ──信じられない、何よこの女! ナイジェルに振られたのを逆恨みして、みっともないったらないわ!」
一瞬ぴくりと表情を動かしたルシア。
彼女はケヴィンのほうを、ちらりと見る。
ケヴィンは男を制圧したまま、首を縦に振った。
信用していますよという意志表示だ。
ルシアは嬉しそうに微笑んで、ナイジェルらに向きなおる。
「そうですね、確かに証拠はありません。あと痴情のもつれ呼ばわりは事実無根の中傷ですが、私がナイジェルさんのことを嫌いなのも事実ですね。でもこの件に関して、私は嘘を言っていません。どちらの言うことを信じるかは、店長さんにお任せします」
店長はそのルシアの言葉を聞いて、ウェイトレスの顔を見た。
ウェイトレスは「だから、そう言ってるじゃないですか!」と店長に涙声で訴えかける。
店長はいっとき逡巡して、それから大きくため息をついた。
彼はナイジェルたち四人組に向かって言う。
「冒険者の方々。ぶちまけられた料理のお代は結構ですから、どうぞ出ていってください」
それにナイジェルは一瞬だけ苛立った表情を浮かべたが、青年はすぐに表情を取り繕い、言葉を返す。
「そうか。この店は客に冤罪を吹っ掛けて、一方的に出て行けと、そう言うわけだね」
「どうとでもお受け取りを。あと、二度とうちの敷居はまたがないでいただきたい」
「チッ……! 分かった、もういい。行くぞお前たち。こんな店は、こちらから願い下げだ」
「ちょっ、ちょっと、ナイジェル……! くっ……! ルシアあんた、どうなるか覚えてなさいよ!」
ナイジェルと彼に従う女性が、店を出ていく。
残る二人の男たちも、ケヴィンが制圧していた男を解放すると、それぞれに捨て台詞を残して去っていった。
騒動のもとが去ってから、店長はルシアとケヴィンの二人に向かって、深々と頭を下げてくる。
「どうもありがとうございました。お客様がたのお口添えがなかったら、どうなっていたことか」
「た、助かりました! ありがとうございます!」
ウェイトレスもまた一緒に頭を下げてくる。
ルシアとケヴィンは、笑顔で応える。
「いえ、私が見ていられなかっただけですから」
「俺もです。おいしいお昼、ごちそうさまでした。お代、ここに置いていきますね」
「「──あ、ありがとうございました!」」
ルシアとケヴィンの二人が店を出ていくと、店長とウェイトレスから、再び深々と頭を下げられた。
店を出てから、ルシアがケヴィンに向かって微笑む。
「ケヴィンさん、助けてくれてありがとうございます。すごく格好良かったですよ。ヒーローって感じでした」
ケヴィンはそれで、顔を真っ赤にしてわたわたとした。
「──っ! そ、そんな……! ルシアさんこそ、堂々としていて格好良かったです!」
「ふふふっ、ありがとうございます。……ケヴィンさん、ちょっと一緒に歩きませんか? 私と彼ら──ナイジェルさんたちとの関係を、誤解のないようにお話ししておきたいので」
「は、はい」
少年と少女は、二人で並んで街中の道を歩き始めた。




