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大英雄の息子の日常冒険譚  作者: いかぽん
エピソード3 アンデッド討伐と冒険者対決

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第22話 見ていました

「その話、ちょっと待ってください。私たち見ていたんです」


 ルシアがそう言って、店長の前に進み出る。

 目を丸くしたのは、四人組の面々だ。


 ルシアの前に、四人組のうちの男の一人が歩み出て、立ちふさがる。


「なんだ、どこの生意気女かと思えばルシアじゃねぇか。こっちは取り込み中なんだよ。話があるなら後にしろ」


 男はルシアを小突いて、突き飛ばそうとした。


 だが男の手は、少女の横から鋭く伸びた手によってつかまれ、止められる。


「暴力を振るうつもりなら、俺が相手になりますよ」


 男の手をつかんだのは、ケヴィンだった。

 少年は男を、静かに睨みつける。


「チッ……なんだテメェ、ルシアの連れか? ガキの出る幕じゃねぇんだ。すっこんでろ」


 男はケヴィンにつかまれた手を、乱暴に振りほどく。

 ケヴィンも強くつかんでいたわけではないので、それは難なく済んだ。


 もう一人のチンピラ男がケヴィンを見て笑う。


「そいつ、ルシアたちのパーティの新人だぜ。まだFランクのはずだ」


「はっ、Fランクのド新人かよ。『俺が相手になりますよ』とは、先輩相手にずいぶんでけぇ口をきいてくれるじゃねぇか、なぁ?」


 ルシアを突き飛ばそうとした男は、今度はケヴィンの胸倉をつかんでくる。


 そしてもう片方の手で拳をにぎり──


「──舐めてんじゃねぇぞ、クソガキ!」


 男はケヴィンの腹に、ボディブローを入れた。


 ドンと拳を撃ち込まれる音がして、男がニヤリと笑う。


 店内にいたほかの客からも、ついに暴力沙汰が起こったことにより悲鳴があがった。


 だが──


「暴力を振るうつもりなら、相手をすると言いましたよ」


「なっ……!?」


 ボディを撃ち込まれても、ケヴィンは平然としていた。

 腹筋の力だけで拳のダメージを受け止めたのだ。


 少年はさらに、胸倉をつかんでいる男の手首をつかみ、捻り上げる。


 男はあっという間に膝をつかされ、制圧されてしまった。


「痛でででででっ……! は、離せ、このガキ……!」


「お、おい! Fランク相手に何やってんだバカ!」


 一方でルシアは、その様子をチラリと見ながら、店長へと声をかける。


「店長さん、私たちは見ていました。──そこの女性が、店員さんの足を引っ掛けて転ばせたんです」


「「「……っ!?」」」


 その少女の言葉に、四人組と店長とがいずれも驚きの様子を見せた。


 穏やかだった表情をひくつかせたのは、四人組のリーダー格の青年ナイジェルと、その隣にいた女性だ。


「お、おいおいルシア。キミが僕に的外れな私怨を持っているのは知っているけど、そういう根も葉もない言い掛かりはよしてくれよ」


「そ、そうよ! あんた、何の証拠があってそんなこと言ってんのよ! 冤罪よ! ──信じられない、何よこの女! ナイジェルに振られたのを逆恨みして、みっともないったらないわ!」


 一瞬ぴくりと表情を動かしたルシア。

 彼女はケヴィンのほうを、ちらりと見る。


 ケヴィンは男を制圧したまま、首を縦に振った。

 信用していますよという意志表示だ。


 ルシアは嬉しそうに微笑んで、ナイジェルらに向きなおる。


「そうですね、確かに証拠はありません。あと痴情のもつれ呼ばわりは事実無根の中傷ですが、私がナイジェルさんのことを嫌いなのも事実ですね。でもこの件に関して、私は嘘を言っていません。どちらの言うことを信じるかは、店長さんにお任せします」


 店長はそのルシアの言葉を聞いて、ウェイトレスの顔を見た。


 ウェイトレスは「だから、そう言ってるじゃないですか!」と店長に涙声で訴えかける。


 店長はいっとき逡巡して、それから大きくため息をついた。


 彼はナイジェルたち四人組に向かって言う。


「冒険者の方々。ぶちまけられた料理のお代は結構ですから、どうぞ出ていってください」


 それにナイジェルは一瞬だけ苛立った表情を浮かべたが、青年はすぐに表情を取り繕い、言葉を返す。


「そうか。この店は客に冤罪を吹っ掛けて、一方的に出て行けと、そう言うわけだね」


「どうとでもお受け取りを。あと、二度とうちの敷居はまたがないでいただきたい」


「チッ……! 分かった、もういい。行くぞお前たち。こんな店は、こちらから願い下げだ」


「ちょっ、ちょっと、ナイジェル……! くっ……! ルシアあんた、どうなるか覚えてなさいよ!」


 ナイジェルと彼に従う女性が、店を出ていく。


 残る二人の男たちも、ケヴィンが制圧していた男を解放すると、それぞれに捨て台詞を残して去っていった。


 騒動のもとが去ってから、店長はルシアとケヴィンの二人に向かって、深々と頭を下げてくる。


「どうもありがとうございました。お客様がたのお口添えがなかったら、どうなっていたことか」


「た、助かりました! ありがとうございます!」


 ウェイトレスもまた一緒に頭を下げてくる。

 ルシアとケヴィンは、笑顔で応える。


「いえ、私が見ていられなかっただけですから」


「俺もです。おいしいお昼、ごちそうさまでした。お代、ここに置いていきますね」


「「──あ、ありがとうございました!」」


 ルシアとケヴィンの二人が店を出ていくと、店長とウェイトレスから、再び深々と頭を下げられた。


 店を出てから、ルシアがケヴィンに向かって微笑む。


「ケヴィンさん、助けてくれてありがとうございます。すごく格好良かったですよ。ヒーローって感じでした」


 ケヴィンはそれで、顔を真っ赤にしてわたわたとした。


「──っ! そ、そんな……! ルシアさんこそ、堂々としていて格好良かったです!」


「ふふふっ、ありがとうございます。……ケヴィンさん、ちょっと一緒に歩きませんか? 私と彼ら──ナイジェルさんたちとの関係を、誤解のないようにお話ししておきたいので」


「は、はい」


 少年と少女は、二人で並んで街中の道を歩き始めた。


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