第16話 寝相が悪い先輩
ケヴィンが冒険者になってから、初めての野宿をした朝。
毛布一枚での眠りに少しの寒さを覚えながら、少年はゆっくりと目を覚ます。
「んぅ……」
「おはようケヴィン! よく眠れたか?」
「んあ、ワウさん……おはようございます……」
まぶたを開いたケヴィンの目の前には、狼耳の銀髪美少女の姿があった。
狼牙族の少女はケヴィンの前にしゃがみ込んで、嬉しそうにニコニコと少年を見つめている。
「ふわぁああああっ……!」
ケヴィンは包まっていた毛布から抜け出すと、大きなあくびとともに伸びをする。
早朝の冷たくてさわやかな空気が、少年の肺に入ってきた。
ケヴィンは寝ぼけ眼の状態から徐々に覚醒しつつ、浮かんできた疑問を口にする。
「……ていうかワウさん、なんで俺のこと見てたんですか……?」
「ケヴィンの寝顔がかわいかったからだぞ! 天使みたいだった!」
「…………。……それ、男子に言うことじゃない気がしますよ」
「そうか? オスでも寝顔がかわいいはよく聞くぞ。それよりケヴィン、朝食の準備だ」
「あ、はい」
ケヴィンは起きて、活動を始める。
見ればジャスミンも起きていて、焚火に追加の薪をくべるなどしていた。
盗賊のお姉さんは、からっとした笑顔をケヴィンに向けてくる。
「おはよーケヴィン。どうやった、冒険者になって初めての野宿は?」
「えっと……毛布一枚で寝ると、少し寒いですね」
「あー、まぁな。冒険者パーティの中には、テントを担いで持ち運んでるとこもあるな。力持ちがおらんと、ちょいしんどいけど」
「じゃあ俺、その荷物持ちやりましょうか? 鍛えてますからそのぐらい余裕ですし、さらなる体力をつける鍛錬にもなりますし」
「あははっ、どんだけ鍛えたら気が済むんよ少年は。でもそれもいいかもしれんね。街に戻ったら検討しよか。──したらケヴィンは、ルシアを起こしてくれるか? その子、意外とお寝坊さんなんよ」
「あ、はい。分かりました」
言われて見れば、魔導士のルシアは確かに、いまだにすぅすぅと眠っていた。
ケヴィンはルシアのもとでしゃがみ込んで、毛布の上から少女をゆすり起こす。
「ルシアさん、朝ですよ。起きてください」
「んー……むにゃむにゃ……あと五分……」
だがルシアは毛布をきゅっと抱きしめて、芋虫のように丸くなってしまう。
断固として起きないぞという姿勢だ。
なるほど、確かに寝起きが悪いなと思いつつ、少年はさらに強くゆすり起こす。
「ほらルシアさん、起きてください」
「んぅー……うるさいなぁ……まだ寝るのぉ……」
「そんなこと言ってないで。ルシアさん、ルシアさんってば」
「むぅ、うるさいぞ……そんなうるさいやつはぁ、こうしてやる……」
「わっ……!」
ケヴィンは寝ぼけた少女に手首をつかまれ、ぐいと引っ張られた。
まったく予想外の出来事に、少年は思わず少女の上に倒れ込んでしまう。
「えへー……キミも一緒に寝ればいいよ……うにゅう……」
「なっ……えっ……!?」
しかも寝ぼけたルシアは、両腕でぎゅっとケヴィンに抱きついてきた。
少年はただただ混乱するしかない。
「あー、言っとくけど寝相も悪いからなその子……って、ありゃりゃ。すごいことになってんね」
「寝相が悪いなんてもんじゃないですよ!」
じたばたと暴れるケヴィンを見て、ジャスミンはケラケラと笑っていた。
「……面目次第もございません」
朝食の場で、魔導士の少女は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
彼女曰く、気を許した相手だけの場だと寝ているときでもガードが外れて、ときどきひどい癖が出てしまうのだそうだ。
不思議とモンスターの襲撃時だけは、すぐに起きられるらしいが。
「ま、ええやん。少年も役得やったやろ?」
「それはそうですけど……って、何を言わせるんですか!」
「あはははっ、ケヴィンは正直者でかわいいな」
「仲間同士で仲良くするのはいいことだぞ。だからワウもケヴィンに抱きついていいか?」
「だ、ダメです!」
「……ルシアはいいけど、ワウはダメなのか? ワウはケヴィンに嫌われてるのか? ぐすんっ」
「ち、違います! そういうことじゃなくて……!」
「じゃあケヴィン、うちは? うちはどう?」
「ジャスミンさんまで乗っからないでください!」
「ううっ……全部、私が悪いんですぅ……しくしく……」
そんな賑やかな朝食も終えて、冒険者たちは野営の場から出立する。
ここから先は、歌声山の登山になる。
冒険者たちは気を引き締めなおして、山頂への道を登り始めた。




