第12話 ソードマスター
「ほかの人は訓練場には入ってこないでくれよ? 俺ってこう見えてデリケートなんだよ」
ギルドマスターのヒューバートは外野に向かってそう言うと、対戦相手の少年を引き連れて、訓練場へと入っていった。
それからしばらくたつと、ドタバタという足音と木製武器が激しく打ち合わされる音が、訓練場の中から聞こえてきた。
野次馬の冒険者たちは、訓練場の扉の前で固唾を飲んで、その向こう側で何が起こっているのかを想像していた。
「お、おい……結構、長引いてないか……?」
「いやいや、何試合かやってるんだろ。じゃなきゃAランク冒険者のヒューバートさん相手に、こんな長試合ありえねぇって」
固唾を飲んで見守っていたのは、もちろん野次馬たちだけではない。
少年のパーティメンバーである先輩冒険者たちも、緊張の面持ちで訓練場のほうを見ていた。
「ど、どっちが勝つんでしょう……?」
「いやぁ、いくらケヴィンが怪物みたいに強いったって、相手はAランク冒険者よ? さすがにないやろ」
「Aランクって、そんなにすごいのか?」
「当たり前や。戦い方や相性によっちゃ、軍の一個小隊ぐらいは平気で平らげるバケモンやぞ。並の冒険者とはわけが違うわ」
「あ、音が鳴りやみました。終わったみたいですね」
訓練場の扉が開く。
中からは飄々とした様子の中年男性と、いつになく興奮した顔の少年が出てきた。
少年はギルドマスターに頭を下げると、三人のもとへパタパタと戻ってきた。
「ケヴィン、どうだ? 勝ったか?」
ワウがそう聞くと、少年は嬉しそうに瞳をキラキラさせながら、こう返してきた。
「負けました! めちゃくちゃ悔しいです!」
三人の女性冒険者たちは、ズッコケそうになった。
ジャスミンが苦笑しつつ、少年に声をかける。
「そ、そっか……。そのわりには、ずいぶん嬉しそうやけど」
「はい! やっぱり冒険者ってすごいですよ! あんなに強い人が、当たり前みたいにいるんですから。俺、もっともっと強くなって、いつかあの人に勝ちます!」
「あはは……。ケヴィンさんらしいというか、何というか」
「それと、歌声山へは行っていいって言われました。クエスト受注はギルドマスター権限で特別に許可するって」
「なるほどな。ちゃんと実力は認められたってわけや」
「はい。でも剣の腕だけではどうにもならない相手もいるから、気を付けろとも言われました」
ケヴィンたちが、そんな話をする一方。
彼との模擬戦を終えたギルドマスターのヒューバートは、野次馬たちが見守る中、何事もなかったかのようにのそのそとギルドの奥に引っ込んでいく。
「あ、あの、ギルドマスター……どうでしたか?」
途中、受付嬢の一人がヒューバートに声をかけると、無精ひげの男は彼女に視線を合わせずに、ぽりぽりと首筋をかく。
「ああいうのを、稀代の天才っていうんだろうね。たまんないよ」
「は、はあ……」
「あの強さで、まだ十五歳だっていうんだぜ。末恐ろしいなんてもんじゃない。昔に一戦だけ交えた、ある人物のことを思い出したよ」
「ある人物……ですか?」
「ああ。──キミ、“至高の聖騎士”アレクシスって知ってるかい?」
「……っ! この仕事をしていて、知らないわけないじゃないですか! まさかギルドマスター、あの大英雄と戦ったことがあるんですか……!?」
「ん、俺が若い頃だけどね。あの当時、才能に溺れて増長していた俺の鼻を、見事にへし折ってくれた男だよ。後にも先にも、あれほどの逸材には会ったことがなかったけど……いやはや、まいったね」
ヒューバートはそう言って、ちらりと少年のほうを見る。
仲間の女性冒険者たちと賑やかに話している少年の姿は、昔の彼が戦った大英雄の、まさに生き写しのように思えた。
ヒューバートは、ふっと笑う。
「──少年、とにかく生き延びることだ。過保護にしたって、神様にそっぽ向かれちまうだけだろうしな。幸運と悪運を祈るよ」
彼は少年に向けてひそかにエールを送り、背中を丸めて立ち去っていった。




