表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄の息子の日常冒険譚  作者: いかぽん
エピソード1 ミノタウロス退治
1/52

プロローグ 聖騎士見習いの少年

 聖騎士団の訓練場が、ざわめいていた。


 木剣を手にした聖騎士見習いたちが、自らの訓練を忘れて、その戦いを呆然と見つめる。


 幾多の視線が注目しているのは、一組の模擬戦だった。

 二人の剣士が、木剣と木製盾を手に激しく打ち合っている。


「──はぁあああああっ!」


「くっ……!」


 一人は十代中頃と見える少年。

 もう一人は、二十代中頃と思しき青年だ。


 その戦いは、見習い同士の模擬戦のレベルでは到底なかった。


 型稽古のように綺麗に打ち合ったかと思えば、次には盾同士をぶつけての泥臭い押し合いになる。

 ときには足払いの蹴りすら放たれる、実戦さながらのやり取り。


 実際にも、戦っているうちの片方──青年のほうは、見習いではなく正規の聖騎士であった。

 国から実力を認められた者だけが至ることができる、見習いたちにとって憧れの存在だ。


 だが──


「お、おい……あれ、クリストフさんが押されてないか……?」


「まさか……だってクリストフさんって、正規の聖騎士の中でも指折りの実力者だろ……? でも……」


「ケヴィンのやつ、見習いの中では抜きんでているとは思っていたけど、いくら何でも……嘘だろ……」


 周囲の見習いたちが、固唾をのんで戦いの趨勢を見守る中、ついに戦いの決着がつく。


「──おぉおおおおおっ!」


「ぐっ……これほどの……!」


 盾をぶつけ合った押し合いで、少年が気迫の声とともに相手を押し込んだ。


 身長差で下から突き上げられるように押された青年は、わずかによろめいてしまう。


 バランスを崩した青年に、少年が木剣でさらなる連続攻撃を仕掛けていく。

 青年はどうにか凌ぐが、三合を打ち合ったあとには、青年の防御は完全に破られていた。


 少年の木剣の切っ先が、体勢を崩した青年の首元に突き付けられる。

 わずかの静寂。


 少年が木剣を引いて、青年に向かって一礼。

 青年もまた、応じるように礼をした。


 青年がふっと笑う。

 そして少年に向かって手を差し出し、握手を求めた。


「負けたよ、ケヴィン。見事なものだ。正規の聖騎士でも、俺を打ち負かせる者はそうはいないのだがな」


 少年は興奮を隠しきれない面持ちで握手を受け、背筋を伸ばして答える。


「ありがとうございます、クリストフさん。父の指導と、先輩方のご教授の賜物です」


「謙虚なことだ。お前が日々、人の何倍もの鍛錬を積んでいることを知らぬ者はいないよ。──ほかの者たちも、ボサッと見ている場合ではないぞ! 訓練を続けろ! 少しはケヴィンを見習わないか!」


「「「は、はい!」」」


 監督役の青年に叱咤され、周囲の見習いたちは思い出したように自分たちの訓練を始めた。

 青年はそれに苦笑しつつ、少年に向き直る。


「ケヴィン。お前は神聖術の実力もまた、すでに司祭級に達していると聞く。お前の実力であれば今すぐにでも、正規の聖騎士に昇格させるよう推薦できるのだが──考えを改めるつもりはないのか?」


 それは説得というよりは、確認の言葉だった。

 少年はうなずく。


「はい。俺は冒険者になり、高みを目指したいと思っています」


「お前の父──“至高の聖騎士”アレクシスがそうであったように、だったな」


「はい。(おご)りであるかもしれませんが、俺は自分がどこまで行けるのかを試してみたい。……せっかくのご厚意を(ないがし)ろにするようで恐縮ですが……申し訳ありません」


「いや、結構だ。むしろ男としては敬意すら抱く。少々の嫉妬もな」


 青年はそう言って、ニッと笑いかけた。


 真の実力を欲する者は、冒険者になるべきだ──

 そうした考えは、実際の実力者たちの口から語られることが多い。


 曰く、戦いを司る神々の加護は、幾多の苦難と窮地を乗り越えた者にこそ与えられる。

 そのためには冒険者として、命懸けの冒険を幾度もくぐり抜けるのが最も効果的であると。


 他方、そうした考えの否定者たちは、こう語る。

 それは生来の才能を持った者たちだけが生き残り、才能のない者たちが命を落としていった結果に過ぎないと。


 真実がどちらであるかは分からないが、少年──ケヴィンは前者を信じていた。

 自らが尊敬する父親、“至高の聖騎士”と呼ばれた英雄がその道を辿ったからだ。


 ゆえにケヴィンは、冒険者の道を選ぶ。

 さらなる高みを目指して、己を鍛えるために。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ