14 錬金術と四大元素魔法
やはり未完結投稿は大変……。相変わらず修正が入るかもです。
結局その後ホウキで空を飛ぶことになった。
まずルーにズボンを履くように言われ、着替えてから家の前の草原に出た。村長との物々交換は、食料に留まらず衣服の充実にも貢献していたので、これは全く問題なかった。
困ったのがホウキだ。この家にホウキはなかった。そして私は今まで誰にも魔法を見せたことがない。試しにルーにホウキを作ってくれと言ってみたが、できるっすよね? と拒否されてしまった。
ホウキといえばエニシダだと言われても、恐らくこの辺りには生えていない。仕方がないので枝が細かい樹のそばに立ち、ルーが見ていないすきに魔法でホウキを作った。
「えっ? 今どこからホウキ出したっすか? 完全な空間収納? 俺イメージのせいか、入れ物の中からしか出せないんすよ。」
ルーは私の周りを一周して、ホウキ以外何も装備していないことを確認してそう言った。
「いや、今作った。」
「……あ、そういう系? マジ創造系? ワォ、もしかして金とか作れちゃうっすか?」
今の魔法はまずかったのかと私は焦ったが、ルーの反応はそれほど大きくも、また当たり前というほど小さくもなかった。
「金……は作れないこともないと思うが、赤い石がないと難しいよ。」
「赤い石? 賢者の石?! 錬金術っすか??」
金より赤い石にルーがまた興奮をし出したが、赤い石はそれほど珍しくはないはずだ。ただ赤い石から金を作ると非常に息がくるしくなって苦しみ、治癒を掛けても当面だるさが残るので、できればやりたくないことの一つだった。
ルーをがっかりさせるのは残念だがそのことを説明したところ、今度は難しい顔をしてうなり始めた。
「赤い石は辰砂か。……呼吸困難。二酸化硫黄? 水銀は80番……。79番が金? ……電子捕獲で中性子……陽子が減って? え、なんか危ない! 止めよう、止めましょう! お金はコツコツ稼ぐほうが良いに決まってるっす! そうしましょう!」
しゃがんでブツブツと地面に字を書きながら一人でつぶやき、大きな声を出して急にルーが立ち上がった。
「呪文か? なにやら難しいことを唱えていたみたいだけど。」
「あー……マジョコさんは、転生者じゃないんすよーね? うーん……ちょっとだけ真面目に俺の話をしてもいいっすか?」
結局ホウキを作っただけで家の中に逆戻りした。
「俺の前世はアイルランド人で、名前はボイルっていうんすよ。ファミリーネームが一緒なだけで、子孫だって信じてたのはじいさんだけだったんすけど、ロバートっていう有名な科学者の名前を付けられたっす。」
クウの「ヤクモ」「コイズミ」と同じで、恐らく偉人の名前を子に付けることが一般的だったのだろうと私は考えた。
「だけど俺は文系で、科学者にはならなかったっす。まあどっちかというとご先祖(仮)も錬金術師と科学者のはざまの人だったみたいで。俺もまあ、オカルトからのアニメ経由で錬金術は少したしなんだっすけどね。」
「…………」
「だからさっきはちょっと賢者の石に興奮しちゃったんすけど……。赤い石から金を作るのはロマンっすけど、多分危ないから止めたほうがいいっすわ。ネタ元が怪しくて根拠をちゃんと示せないんすけど、マジョコさんもやると具合が悪くなるんすよね?」
「あぁ、そうだね。」
「じゃあやらない方向で。……ちなみに金以外でも、何かを何かに変えたりしてないっすか?」
「変える? 火を付けるとか水を出すのは?」
「それは……多分この世界の魔法なので大丈夫っす。きっと金を作るのは前世とかでもしてたでしょ? 他にやってたことはないっすか?」
「むしろここではまだほとんど魔法は使ってないが……。あぁ、骨を手に持って、上から順にロウソクに変化させると松明に便利だったぞ。ウィルオウィスプみたいな色だけど、もっと明るくよく燃えるぞ。臭くて息が苦しくなるけどね。」
「骨? 骨ってカルシウム? 鬼火……青白い、カリウムは……違うか。じゃあカルシウム化合物は? 覚えてねぇ……歯は命、ハイドロキシアパタイト……ハイドロ、水? 違うな。他のカルシウム……卵の殻、肥料……P! リン、燐光! 毒性は……有機リン?!」
ルーは上を向いてブツブツと一人でつぶやいて、また大きな声を出して立ち上がった。
「止めましょう。臭いんすよね? 念のため止めましょう! 骨をロウソクにするのは止めましょう!」
「?! ま、まあ今は鬼火が沢山いるから特に必要ではないけど……」
年下のはずが、急にルーの小言が多くなってなにやら気分が悪い。
「魔法だから大丈夫なのかもしれないっすけど、具合が悪くなるんですよね? ヤバい物質が発生している可能性があるので止めましょ。周りの人にも危険を及ぼすっすよ。」
そう言われると私も従わざるを得ない。渋々うなずいた。
「……では何もないところからものを作るのは? それもまあ、作るのは死ぬほど辛くて大変なこともあるが、時に有益だし……」
「何もないところから?! ……空気中の物質を変換してるのか? いくつ枠を飛び越えて??」
再びブツブツ言い出したかと思うと、ルーはすっと姿勢を正して至極真面目な顔で、まるで落ち着いた大人の男のように話し始めた。
「……マジョコさん。それは人の所業ではありません。天罰が下ります。俺も転生出来る程度にはフォークロアとかアニメにカブれてるんですが……。この場合の天罰は神というより世界の摂理からのもので、概念的なものではなく実質的な健康被害を及ぼします。例え治癒魔法が使えても、体の根幹が書き換えられては元に戻らないかもしれません。俺は恩人のマジョコさんには長生きして欲しいので、どうか無から有を生み出す魔法はもう使用しないでください。」
あれらの魔法はやはり女神時代にのみ使用が許されたものだったようだ。ここでは常人のように暮らしたい私に、もちろん否やはない。
「……逆にどんな魔法なら使って良いんだ?」
了承の言葉を述べない私の、例えこの身を害そうとも本当に必要な時には使うだろうという気持ちが漏れていたのか、ルーが片眉を上げてため息をついた後に元の調子で話し始めた。
「普通の……いや、何でもルールなしに使えちゃう人に普通っていうのは難しいっすね。この世界の基本魔法、火・水・風・土魔法と、主神の加護の植物育成は大丈夫っす。後はとりあえず空間魔法も大丈夫っぽいっすね。」
ルーはポケットからありえないほど大きな杖を取り出して、三角を4回書きながら説明した。
「空間魔法とは? ポケットから大きな杖を出すことか?」
確か先程ホウキを作った時にもそのようなことを言っていたはずだ。
「うーん、現代人なら例のポケットの説明で一発なんだけど……。とりあえず、入れ物の容量を無限に増やす魔法、ってかんじっす。」
結局説明されても空間魔法は理解できなかったが、ルーが作ってくれた革袋は使うことができた。なんでも沢山入れられて、入れたものが腐らない優れものだった。紐を付け肩から斜めに掛けて、大事なものは全て入れるようにした。
それから、私はホウキで空を飛ぶことはできなかった。飛ぼうとするとカラスに変じてしまいそうになり、風魔法で飛ぼうとすると竜巻を起こして上昇することしかできなかった。ホウキに跨っても上手く飛べない私を見て、ルーは今までで一番嬉しそうな顔をしていた。
最終的にあのホウキはルーが使うことになったが、非常に座り心地が悪そうだった。
ルーは私よりこの大樹の家での生活を満喫していて、時折辺境の村へも出入りしているようだった。相変わらずあの村に魔法を使えるものは住んでいないらしいが、ルーはどんな目で見られようとも気にしないらしい。
ある日私は、白地に緑の班のマントを付けて部屋から出てきたルーを見た時に、慌てて扉の外に出てドルドナの生存を確認してしまった。なんでも、ルーとドルドナは意気投合したらしく、村で買ってきた革でお揃いの模様のマントを作ったのだそうだ。全く人騒がせな男である。
それからルーは、かっこいいでしょ、と言ってフラグラッハという剣を見せてくれた。これは旗を織りなすものという意味の銘で、マナナンに貰った剣の銘を付け直したものなのだそうだ。……なんとはなしに禍々しい気配がするのだが、とりあえず黙っておくことにした。
ルーは長く伸ばした巻毛の髪を、その日の気分で黄緑から青緑まで色を変え、結わない日も三つ編みにする日もあった。一度本来の髪の色を見せて貰ったが、本当に真っ黄色だった。
私も一度ルーに髪色を変える魔法を掛けて貰ったが、やはり変化はしなかった。ちなみにこれは変身の魔法の応用なのだそうだ。自分でも魔法を試してみたが、髪色も目の色も真っ赤と灰色のまま一度も変わることはなかった。
2021.11.6