「僕はドラゴンだから、強いし長生きしますよ」
モニカ·ゴールドスミスは候爵家のたった一人のご息女で、王国随一の美貌を持ち、その頭脳は宰相に並ぶとも言われている。そんな彼女には山のような縁談が国内外から持ち込まれ、大にぎわいだったらしい。
が、それも13歳を過ぎた頃にピタリと止まった。モニカと婚約を結んだ男が悉く死に至ったからだ。
初めての婚約は10歳の頃。隣の領地を持つ伯爵家の次男だった。馴れ親しんだ幼馴染みであり、親同士も仲が良く、あっという間に縁談はまとまった。正式な書類に判を押し、これからよろしくと領地に帰った婚約者は次の日に階段から落ちて死んでしまった。
2回目の婚約者は12歳の頃、婚約者を亡くし塞ぎ混んでいたモニカを慰めようと侯爵夫妻は商人を方々から招き、宝石やら絵画やらドレスやら…彼女の喜びそうな物購入していた。商人はお嬢様の遊び相手にと自身の息子を連れ立っていた。涼しげな顔立ちに、柔和な物腰。モニカが恋に落ちるのはあっという間だった。商人の子かと渋っていた両親も、娘が幸せになってくれるのならと婚約を認めた。
商人の息子はプロポーズに彼女の瞳と同じ色の宝石を買い付けに出掛け、その道中で荒くれ者に襲われ命を落とした。
3回目の婚約はなかなか難航した。モニカ・ゴールドスミスと婚約したものは命を奪われると噂がたち始めたからだ。
侯爵夫妻は死にそうに無い男を探す事を決めた。体力があり、持病も無く、命の危険とは無縁な仕事をしている男。そんな条件の男を連れてきたときにはモニカは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「キース·カーティスと申します。文官を勤めております」
モニカの目の前には筋骨隆々の四文字が似合う大男。短く刈り上げられた薄茶の髪に、穏やかな翡翠の瞳。これだけ逞しいのに武官ではなく、文官とは。確かに健康そうで、仕事も危険とは程遠い。
「カーティス様。わたくしの噂はご存じかしら?」
キースは困ったように笑い、小さく頷いた。
「今までの婚約者殿は2人とも、虹の橋を渡ったとか…」
「ここで婚約したら、カーティス様が三人目かもしれません」
脅しを込めてそう伝えると、キースは少しだけ得意気な表情を浮かべ、モニカの前に跪く。そしてたおやかなモニカの手取り頬に寄せた。
「なっ、なにを…!」
するとキースの姿が人から、別の何かに変貌する。
「僕はドラゴンだから、強いし長生きしますよ」
翌年、二人は夫婦になった。