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幻獣観察冒険日誌  作者: 破乃道化
第一章 「アルラウネ」
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第一話 ①

 ――君は、まず最初に人間とは違う不思議な生物を見たことはあるかい?


 それが、小さい頃に村にやってきた旅人が、僕に最初に訪ねてきた言葉だったのを今でも覚えている。

 この世界はとても広く、世界の端なんてものなんて想像がつかない。もし仮にあるのだとしたら、それは果たしてどんな光景が広がっているのだろう。ただただ海が広がっているだけなのか。それとも見たことがない神秘的な光景が見られるのだろうか。

 そんな夢のような出来事を見つけるために、まず最初に冒険者という言葉が作られた。

 この広い世界を調べるために。見たことがない物を見つけるために。中には、持ち帰った物を使って、それらを色んな人が役に立つ道具を作るために。

 けれども、僕が一番惹かれたのは人間とは違う『生物』だった。

 もちろん牛や豚などの、牧場で飼っているものではない。今まで誰も見たことがないような、おとぎ話でしか聞いたことがないような、そんな生物。


 夢のようなその存在の事を、その旅人は『幻獣』と呼んでいた――。


「ふわぁー……」


 とてもよく晴れた天気の中、歩きながら大きく伸びをしながら欠伸をする。周りには草原が広がっており、村から村へと移動するために整備された道を歩くだけのため、景色が変わる事が少ないので、ぶっちゃけてしまうのであれば、暇なのである。


「……また眠そうな顔をしているわよ」


 そんな僕の隣を一緒に歩いている、フードを深く被った少女が声をかけてきた。僕よりもかなり身長が低いうえに、フードのせいで表情は見えにくいのだが、声からして少し呆れられた様子だ。


「こんなに良い天気なんだ。本当は少し休憩でもして、昼寝をしたいぐらい」


「どこが良い天気なのかしら。私からしたら眩しくって仕方ないくらいよ」


 まあ、そこは人それぞれかなぁ、なんてぼやきながらバッグから地図を取り出して、目的地の村まであとどれくらいなのかを確認する。


 地図は冒険者や商人などが色んな村を歩き回り、作り出された努力の結晶のようなものだ。まず普通の村人であれば持つことはなく、隣村などであれば地図がなくとも、だいたいの感覚と経験からどのくらい歩けば着くのか分かるため、そもそも地図を持つ必要がない。


 しかし、世界を広く渡り歩く人に対しては旅をするにあたって、必需品になってくる。たとえ村から村までの距離が分からずとも、道を知っているのと知らないとでは、大きく違ってくる。その分、旅人や冒険者、商人は持っておくべきではあるのだが、その価値は未だ高いため、盗まれたり失くしてしまえば大変な事になってしまう。


「……うん。この調子なら日が暮れる前にはなんとか村に着きそうだ」


 大まかな計算ではあるが、野宿はあまりしたくないため、少し安堵する。


「村に着いたら、まず宿で休みたいわ。出来ればお水が使える所」


「そんなに急ぐ訳じゃないから、そうしようか。僕もその間に情報を集めたり、食糧を買わないといけないから」


 村に着いた時の予定を組み立てていきながら、のんびりと歩き続ける。普段は室内に籠ることが多いため、こうした外に出て仕事をするという事は久しぶりなのである。


 そう……こうやって旅をするというのも、呑気にではあるが、ちゃんとした理由がある。


 例えば冒険者というものはどういう仕事があるのだろうか。盗賊など村を危険に脅かす存在に対しての用心棒だったり、さっき僕が見ていた地図を作る人もいる。他には誰かに頼まなければ達成出来ない事を代わりにやってもらったり、ようは何でも屋という言葉が分かりやすいんだろうか。

 もちろん、商人など専門的に行う人もいるため、決して冒険者という者は多い訳ではない。ほとんどの人は誰かの役に立ちたい、この世界の広さを知りたいなど、少なからず自分の夢を持っている事がある。


 僕にだってもちろん夢がある。こんな言い方をすると、冒険者以外で何かしらを専門的にやっている人は夢がないみたいな感じになってしまうが、叶えたい夢のために仕事をするということも、立派な理由の一つになるだろう。


 一言で言ってしまえば、自分の好きな事を仕事にし、報酬まで貰えるというのは最高だ、と。


「……ところで、今回は果たしてどれくらいかかるのかしら?」


 背負っているバッグを一度担ぎ直しながら、少女が声をかけてくる。


「そう、だねぇ……。一度情報を集めて現地に行ってからになるとは思うけれども、一応予定としては最大でも一ヵ月程度かな」


「また随分とかけるのね」


「申し訳ないね。やっぱり仕事としてやるからには、しっかりとやっておきたいんだ」


 報酬を貰うからには、仕事としての完成度を求められるのは当然だと思っている。ましてや、それが自分の好きなことであればなおさら。


「また君からしたら、退屈な時間が続くと思うんだけれども……」


「あら、なによ。まるで私についてきて貰うのは困るみたいな言い方ね」


 フード越しのため、彼女の表情はあまり見えないのだけれども、少し拗ねたような口をしているのだけが見えた。


「いや、別に、そんなことは思ってないさ」


「もしかして、仕事と言いながら村にいる手頃な娘に話しかけて、手駒にでもしようと考えていたのかしら。そうすれば私なんか要らないものね」


「ちょっ、なんだか変な方へと話を進めていないかい?」


「ちなみに手頃なと、手駒はちょっと冗談としてかかっているのかしら?」


「それを自分で言ったらダメな気がするなぁ!」


「けど、私が今言ったことにあなたは否定をしていないわ。ということは少しでもそう考えているという

ことで、解釈してもいいわよね?」


「だから勝手に決めつけないでくれよ。今回だってちゃんと仕事をするために出かけているのだから。そうじゃないのであれば、君に声なんかかけないさ」


「という事は、私に声をかけない時は何かやましい事をしようとしている、って考えていいかしら?」


「本当に君はああ言えばこう言うな……」


 ふふ、と口元を手で軽く抑えながら笑う彼女。きっと、さっき拗ねたような口をしたのも、演技なのだろう。


「そうよね。あなたみたいな夢に向かって一生懸命に仕事をする人は、周りにはあまり興味を持たないもの」


「僕からしたら、他を向く余裕がないだけなんだけれどね」


「そんなんだから、近くに咲いている花にも気付かないのよ」


「目を奪われてしまうくらいに綺麗な花だったら、いくら僕でも流石に気付ける自信はあるさ」


「…………あなた、本気でそれを言っているの?」


 急に声のトーンを落として、彼女は僕を見ながら聞いてくる。さっきの拗ねた演技とは違って、どうやら真面目に訪ねているようだ。


「ああ、もちろん。だってそれは誰もが見とれてしまうぐらい綺麗な花なんだろう? それはどんな色をしているのか、どんな形なのか、どんな咲き方をしているのか、興味が出るのは当たり前だろう」


「……一つだけ聞きたいのだけれども、あなたの言っている花とは、何を例えているの?」


「例えている? ああいう風に咲いている花の事を言っているに決まっているじゃないか」


 僕はたまたま草原の中に咲いている、黄色の花を指した。植物の種類にはあまり詳しくはないが、よく旅の途中で見かけるごくごく普通の花だ。

 その花を一緒に見た彼女は、今度は口ではなく頭を抑えながらため息をついた。


「少しでも期待した私が馬鹿だったみたい。もう忘れて頂戴」


「え、あれ、違ってた?」


「忘れて頂戴、と言ったわ。私は早く宿について休みたいのだから、もたもたしないで行くわよ」


 少し怒った様子で、彼女はやや早足で僕よりも進んでいく。だからと言って、僕が追い付けない早さで歩いていないのは彼女なりの優しさなのだろう。

 決して短くはない僕らの付き合いだからこそ、気付くことが出来る所の一つなのだろうけれども……。


「花の話以外してなかったよな……?」


 分からないことに関しては、本人に聞かない限りは分からない所もあるのだと思った。

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