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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大変! 親友が巻き込まれて魔法少女になっちゃった!!

 いつものように朝目を覚ましてご飯を食べて学校に行く準備をする。

 準備が終わればしばらく時間が余ったから録画していたテレビを眺める。


「――っあ、大変だ!」


 ふと見上げて時間を確認すると、普段の登校時間よりも時間が少し過ぎていた。慌てて鞄を手に取って靴を履いて玄関を出る。

 外に出た途端に眩しい朝日に包まれて目を細める。


 ――――それは、前世では決して出来なかったことだった。



 前世の僕はとても病弱で、10年も生きられないと宣告されていた。

 それでも16年間も生きることができたから、長生きできたと思ってる。

 死ぬ直前にもし来世があるのなら。そんなあまりにも現実不可能な願いごとをしたのだけど、それはなんと女神様の手によって本当に叶えると約束してくれた。

 死んだはずなのに目が覚めたら赤ちゃんだったなんて今でこそ落ち着いて思い出せるけど、当時はパニックになるくらい驚いた。

 高校生になってもまだお願いしたそれが叶ってないとはいえ、次の人生を健康な体で歩ませてくれた女神様には感謝が尽きない。

 だって声を出しても熱が出ない。自分の足で歩けて走れる。起き上がることなんて何でもないようにできる。外を歩けて、本やテレビを見ても疲労で倒れない。

 なんて幸せなんだろう。くふふと笑い声が零れる。


「莉桜よ、なにを笑っておるのだ」


「あっ、らおちゃん。おはよう!」


 電柱柱かと思った。とはさすがに失礼だから口から出さずに見上げる。首が痛くなるほど見上げる僕を鋭い瞳で見下ろしながら「うむ」と返事を返してくれる。

 僕は病弱だった前世と同じ容姿と身長だ。体が弱くて成長期なんて来ることもなかったから160cmもなくて、男物の制服を着てるのに女の子に間違われる顔。

 そんな残念な僕とは裏腹に幼馴染であり親友である益荒男(ますらお) 羅緒(らお)は 250cmを超す巨漢に僕の腰と両足を合わせたくらいある筋肉によって出来た脚、丸太に岩をくっつけたような腕に服がはち切れそうなくらい盛り上がった胸部という、全身に筋肉を見に纏った男前だ。なんか顔が劇画風に見えるって誰かが噂してた顔はたしかに眉が太くて唇も厚く、歴戦の戦士のような顔をしている。

 名前に関してはらおちゃんのママとパパが益荒男のようになってほしいと勢いのまま名付けたらしい。名前のおかげかすくすくと育っていき、小学生の頃には既に先生と並んでも同じくらいだったし、卒業するころには先生を含めて誰よりも高い身長になっていた。40cmくらいは譲ってほしいと今でも思う。


「聴いておるのか、このままでは遅刻をしてしまうぞ」


「忘れてた! ごめんらおちゃん、行こっ!」


 深いため息交じりに放たれた言葉に慌てて歩き出すけど、僕の3歩がらおちゃんの一歩と変わりがなくてすぐに息が切れ始める。健康体になったのになんで体力が全然つかないんだ!

 はふはふと息を切らせながら小走りで追い縋るようにらおちゃんの隣を死守していたらふわっと体が浮き上がった。


「え?」


「見ていられぬ。うぬは大人しくしていろ」


「あ、ありがとう」


 ひょいっと子供を抱っこするように抱え上げられる。こういったことは頻繁にある。本当は一緒に歩きたいんだけど歩幅が違いすぎて抱き上げられることが多いのだ。

 らおちゃんにとって僕は庇護対象なのかもしれない。ちょっとでも疲れた様子を見せるだけで手助けされてばっかり。情けない。もやもやしながら顔を見つめていたら切れ長の瞳に一瞬見下ろされた。


「次こそは、共に歩もうぞ」


 古風な口調で言われてるから壮大に聞こえるけど、翻訳すれば「仕方ないなあ、今度時間があったら一緒に歩こうね。だから落ち込まないで」と言っているだけだ。

 容姿の所為か、圧倒的な身長の所為か、それとも暴走トラックさえ片手で止めてしまう肉体の所為か。それとも人を吹き飛ばすほどの威圧を放てるからか。それとも不思議な口調が原因か分からないけど、遠巻きにされていることが多いらおちゃんは実際はこんなに優しいのだ。

 もやもやなんて既に吹き飛んだ僕は笑いながらうんと頷いた。


 ◇


 学校も終わって下校中も僕はらおちゃんと一緒だ。下校は雨が降っていたり台風の日でもない限りは隣を歩いて下校できる。そして今日は晴れ。

 らおちゃんにとってはゆっくりすぎるほどの歩行、僕にとってはちょっと早い歩行。ゆっくりすぎて疲れるだろうにそれを見せず無言で実行してくれるらおちゃんはカッコいい。

 女子とは目が合っただけで悲鳴が上がるし男子も同様。近くでらおちゃんを見た子供は泣くことさえできず凝視しながら静かにお漏らししたり気絶したりしちゃうけど、らおちゃんはカッコいいし可愛い。

 以前らおちゃんが怖いって話を聞いた時に我慢できなくて、乱入した時にらおちゃんの可愛いところとかカッコいいところとかを力説したら色んな意味で心配されたのは未だに不服だ。こんなにも優しくてカッコよくて紳士的なのに! 思い出すだけで朝とは違うモヤモヤが胸に溜まる。


「どうした」


「んーん。らおちゃんはカッコよくて優しいのにって思っただけ」


 ちょっと憂鬱になるだけで心配してこうやって声を掛けてくれる。慣れない人は「声を聞くだけで足が震える」とか「声を掛けられたら腰が抜けそうになる。抜けた」とか色々失礼なことを言ってるけどこのずっしりとした低い声も安心する。それなのに……と余計暗くなっていく僕は女々しいっていうのかもしれない。

 なんだか前世の何も知らない、無知で子供のままで死んじゃった僕から全然成長できてない気分になる。はぁ、とため息をつく。途端、ゾワッと何かが背筋を舐めるように湧き上がった。体の内柄から急速に冷えていく。


「ウ゛オオオォオォォォオ゛オ゛オ゛ッッ!!!!」


「ひっ!?」


 どうしたんだろうと不安に思った瞬間、突如黒い霧と共に現れた固まった血のような色の肌に隆々とした筋肉の鬼のような化け物が目の前に現れた。

 悲鳴を上げて固まった僕は咆哮を上げて生まれ出た鬼を凝視する。その鬼の嗜虐的な色を宿した目と目が合った。ニタリと歪んだ瞳の形。


「――――ッ!!」


 掠れた声さえ上げられずへたり込みそうになる。

 のっしのっし、から徐々にスピードを上げて掛けてくる鬼に食べられる! と逃げることさえできずに呆然とする。

 距離があったとしてもあんな化け物には目と鼻の先。こんな理不尽な死に方が合っていいのだろうか。前世は病弱の体で希望も絶望も理解する前に死んで、今度は化け物に食べられて死ぬなんて。

 僕は少しでも痛みを我慢できるように目を強く瞑って体を強張らせた。


「た、大変だ、素質のある子が食べられそうだっピー! ええい、緊急事態だから仕方ないっピー!」


「え? えええ!?」


 上空から変な声が聞こえたと思って目を開けると、残り半分もない距離にまで近づいている鬼。そして変な……ヒヨコみたいな生き物が空を飛んでいた。そしてそのヒヨコから金色のビームが放たれて僕に当たった。

 ピカッと光ったと同時にボフンッ! と強い風を感じ、おまけに何故か白煙が辺りに漂う。何が何だかわからないなりに目を閉じて口を手で塞ぐけど間に合わなくて咳が出る。


「げほっ、げほ、い、一体何が」


「莉桜よ、無事であるか」


「ら、らおちゃん。僕は無事だけど、らおちゃんはぶ、じ……?」


 そういえばパニックになってたけどらおちゃんもいたんだ! 慌てて目を開けるけどいまだ煙の所為で視界が悪い。目を眇めて探すけど隣にはいないようだった。ならどこに、と辺りを見渡していると煙が徐々に晴れてきた。

 数メートル前に見慣れた背中が見えて安心したけど、違和感を感じて首を傾げる。あれ、なんか違うような……?


「ギャ、ギャアアアアアアア゛ア゛ッッ!?? オッヴェエエ゛ッ!!」


 雑巾を捻っても出ないようなこの濁った悲鳴と釣られて吐きそうになる声は僕じゃない。ついでに言うとらおちゃんでもなく、鬼が出した悲鳴だ。

 煙が晴れた先。そこにはたしかにらおちゃんがいた。だけど服装は何故か変わっていた。

 鬼の悲鳴も我関せず、それこそ日常の1ページであるかのようにらおちゃんは鬼の腕を捻って道路に叩きつける。日常ではあまり聞けない轟音と共に道路に埋まったのを無言で見届けたらおちゃんはようやくこっちを見てくれた。

 いつも通りならおちゃんに安心したいのに、今は安心できなかった。


「そうか、無事であったか」


「あ、あの……らおちゃ、その、その服装、何?」


 らおちゃんは全体的にピンク色でフリフリした服を着ていた。ロリータファッションっていうんだっけ?

 サイズが合わずにパツパツで今にも破れて、最近では不良に襲われた時に武器にされていた鉄パイプが折れた実績を持つ、鋼のような筋肉が露出しそうな肩口が膨らんだ可愛いけど無残な事になっているトップスと、同じくピンク色のフリフリがついてるけど股間部分だけはフリフリがなくて、しかも女性の水着のようにピッタリとしている所為で凄まじいほど股間が強調された短いスカート。下手すれば僕の腰くらいある太い腕には真珠に珊瑚を一滴落として混ぜたような色をした長い手袋をしていて、筋肉によって肥大化している太くて丈夫な脚は、噂で聞く絶対領域を演出していた。ブーツはぺったんこだけどピンク色とハートが可愛い。


 なにこれ?


「ま、間違えたアアアアアッッ!!???」


 先程までピーを付けていたヒヨコは絶望を感じさせる絶叫を上げた。間違えたって一体何のことだろうと不安になって胸元の服を握り締めて違和感を感じる。嫌な予感に促されるように自分を見下ろして、声にならない声を上げる。

 何故なら僕も制服から何故か真っ白な丈の短いフリフリしたウエディングドレスのような格好をしていたからだ。それを認識した途端に足元から入ってくるスースーした感覚に顔が熱くなって腕で押さえる。

 らおちゃんとは違うけどフリフリしていたりスカートの丈が短かったり、長い手袋をしていたり絶対領域があったりと類似性があった。

 これって一体何なの? と混乱する頭で助けを求めるようにらおちゃんに視線を投げかけた。……んだけど、


「――――さて、貴様は愚かにも我等を捕食せんと襲った。ならばどうなろうと自業自得である。そうだろう」


「オ、オタスケ…ユルシテ……ゴ、ゴメンナザッゴボォッグッ!! ゴッ、アギッ!! ダズゲデ、ダズゲ、ッェ、ゲ……」


 ゴシャリ、ゴチュッ、ドチャ、ベキ、ボギ。そんな音と共に赤い水溜りを生み出していくらおちゃんを認識したくなくてそっと視線を逸らす。

 すると丁度その場所にあの空飛ぶヒヨコがホバリングしながらも真っ青になってガタガタ震えているのが見えた。


「ま、間違えた……うっわヤッベグッロ、え、え? なんであれで魔法少女……? え、違う。魔法少年? いや違うあれで少年ってねーわマジねーわ服装も似合わないし、うっぷ。見ちゃ駄目だ。魔法漢体? え、なにそれゴツイ。字面がエグイし見た目もエグイ。エグみたっぷり甘さゼロ。そもそもなんで魔法も使わずに物理で蹂躙できてんの? あれこそ鬼じゃね? いやむしろ魔王じゃね? ヤッベ、これどうしよう。誰か助けてマジで」


 ヒヨコ君、僕の方が助けてほしいよ。


 声に出さずにそう呟いて、らおちゃんの生み出す惨状を視界に入れないように現実逃避に没頭することにした。

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