好きな映画の話
私はサスペンス映画やホラー映画が好きだ。
刑事モノはもちろん監禁された複数人で殺し合いをさせられるゲームとか、いじめや毒親をテーマにしたもの、幽霊オカルトスプラッタ系など幅広く見ている。追い詰められた時に露わになる人間の欲望、醜さ、強さ、騙し合い。予想も超える発想で窮地を脱するシーン。復讐、サイコパス、愛や嫉妬で狂った人間。血潮飛び交う過激なバイオレンスシーン。驚かし要素にドキドキするのがたまらない。
「そういうのの何が面白いの?」
そう聞かれたのは、見たくて見たくてたまらなかった新作の映画のDVDがようやく発売されて、嬉々として手にとった時だった。人間の醜さと怖さを濃縮したような、いじめがテーマの胸糞映画と評されているこの映画を映画館で始めて見た時は興奮がおさまらなかった。胸糞なまま終わるのではなく、誰も救われないひたすらに悲しいラストは私の心に深く影を落として残り、一度や二度見るだけでは満足出来ず繰り返し映画館に通った。上映が終わったと知らされた時はとてもつらくて、発売日が待ち遠しかった。
彼女も映画好きだが私と違い、あたたかなヒューマンストーリーやハッピーエンドや恋愛ものを好む。
そんな彼女にオススメの映画はないかと聞かれたことがある。私の好きなものをいくつか提案した時の彼女の反応は「人の世がもう地獄なのに、なんでフィクションでまで人間のいやなところを見ようと思うの?」だった。
フィクションの悪役が「人が消えれば世界は平和になる」と言うのもよく聞くし、人は醜くて邪悪。まあわかるけど、それだけじゃないだろう。人が守りたいものを守ろうと必死で戦う姿を美しいと思うし、じっと耐える姿も、また想い叶わず散っていく命の儚さも、生物の素晴らしいところだと思う。私の好む映画にはそういうシーンが多いのだ。
美しさは醜いものがあってこそ際立つ。またその人間らしい醜さがいいと思う。欲のないまっさらな人のほうが不気味に感じてしまうのは私だけだろうか。
地獄みたいなこの世を、それでも強く前を向いて生きている人はとても美しいと思う。
「映画の趣味は真逆なのに、こうしてあなたと意見交換したり、楽しくおしゃべりできるのがうれしいの」
彼女はそう言って笑った。
私も彼女のおかげで毎日楽しいよ。
いつもありがとう。
*
「うわー。またあいつ一人でにやにやしてる」
「ほんとだ、独り言も気持ち悪いよね〜」
「誰かと話してるみたいな感じで喋ってるよね」
「幽霊でもいるんじゃない?」
「え、コワ…うちら呪われるんじゃね?」
「ないない」
賑やかな教室で、女生徒達は楽しそうに笑っていた。
「じゃ、今日は何して遊んであげよっか」