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第4話 思いがけない言葉

俺は彼女から質問の答えを聞き出すことはできなかった。

だけど、家族を一気に失った喪失感を補う満足感を感じていた。

だからこそ、さっきの質問の答えを催促することはしなかった。


そして、この日から俺と伊勢さんはお昼ごはんを一緒に食べることが増えていった。

あの時、彼女が言ってくれた「またお昼行きましょうね」という言葉に

偽りはなかったようで、あの日の翌日もその次の日も誘ってくれた。

ただ、なぜか木曜日だけは、お昼休みのチャイムが鳴った瞬間に

走り出すかのように、席を離れることから、

俺は前と同じように一人で食べていた。

といっても、木曜日以外でも彼女は人気者であるため、

他の社員から誘われて、一緒に食べることができないこともあった。

だけど、なぜか誰からの先客もない時は俺と一緒にご飯を食べてくれた。



「あ、そういえば今週は3回も伊勢さんとお昼に行っていたんだなぁ」

俺は伊勢さんとのお昼の途中で、何気なくそんなことを呟いた。

今日も、お昼のチャイムが鳴ってから

わずか1分程度で彼女は俺の左側から現れた。

そして、お昼を一緒にといつも通り誘ってきたのだ。

こう何回も俺のことを誘ってきたからだろう。

彼女は最初に俺のことを誘った時のようにドもったり、

舌を噛んだりすることはなくなった。

すんなりと、「雨宮さん、今日もお昼ご一緒しませんか?」と誘ってくるのだ。

正直なところ、最近ではこのお誘いを聞けることが楽しみで仕方なかったし、

幸せだなぁとしみじみと感じる。


ただ、いくらお互いにこの時間が慣れたからと言って、「これで何回目」

という言葉を口に出すべきではないことも確かな事実ではないだろうか。

俺は伊勢さんに対して言った先ほどの言葉を一瞬にして後悔した。

(あ、これは間違った。これじゃあ、めんどくさい女と一緒じゃないか。

これが何回目なんて言ったら、俺が誘われてお昼を一緒に過ごすことが

楽しみで仕方がないみたいじゃないか・・・。

いや、実際そうなんだけど。それを彼女に気付かせてしまうというのは

男としてちょっとなぁ。)


(いやちょっと待てよ。俺は今、なんて言ったんだ??)

俺は最初に考えていた後悔の原因ではない原因にふと気づいてしまった。


「あ、そういえば、今週は3回も伊勢さんとお昼に行っていたんだなぁ。」

何の変哲もない言葉だと思っていた。

俺の頭の中では今週のうち、3回もお昼一緒にできるなんて

“幸運だ”と考えていった言葉。

しかし、言葉というものは万人がその言葉を聞いて

同じような意味を取ると考えるものではない。

その場の雰囲気や話の展開などから予測して、

こういう意味なのだとそれぞれが決めるもの。

だとしたら、俺のさっきの何気ない言葉が

意図していない意味になっていないとも限らない。


俺が引っ掛かっている言葉、それは「も」

この言葉が途中で入った場合に思いつく意味としては2通りが考えられる。

一つは「今日も伊勢さんと一緒にご飯が出来て良かった」という肯定的な意味。

俺が考えていたのはこちらの意味。


しかし、もう一つの意味は

「はぁ、今日も伊勢さんに誘われてしょうがなく、

お昼ご飯に付き合う羽目になってしまった」という否定的な意味。

もしも、こっちの意味で取られてしまったとしたら、

嫌われてしまうことは間違いない。



俺は伊勢さんからまだ何も言われていない段階だったが、

さっきの言葉を訂正する言葉を口にしようとした。

しかし・・・。


「あ、雨宮さんごめんなさい。やっぱり嫌でしたよね。

お昼ご飯ゆっくりと静かに食べたかったですよね。本当にごめんなさい。

わ、あ、私ついつい雨宮さんが誘ったらご一緒してくれるので、

雨宮さんもこの時間をいいなぁって思ってくれてるのかなぁ。

って勘違いしていました。すみません。

午前中に疲れた体を癒すための時間だというのに、私は・・・。」


俺が思ったとおり、彼女は後者の意味で取ってしまったようだ。

それどころか、俺が本当はいつも嫌々一緒に

食べていると思い込んでしまったらしい。

明らかに誘って来てくれた時の元気がなくなり、

俺のもとを離れようとしている。


(やばい。このままでは勘違いされたまま、

この幸せな時間が無くなってしまう。そんなことになってしまったら、

やっと回復してきた俺の心がまた深く落ち込んでしまう)

それだけは嫌だった。


だから、俺は彼女の手を掴み、

どこへも行かせないようにすると彼女の顔を見つめて言った。


「俺、伊勢さん(とのお昼ご飯の時間)が好きなんだ!!」と。


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