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第2話 癒し

仕事はいい。

家にいたら、きっと嫌な感情に心を支配されて、

最悪の場合自殺を図っていたかもしれない。

だけど仕事をしている時間はそんな嫌な感情を忘れることが出来る。

嫌なことだってもちろんある。

だけどそれでも人と関わりあうことのできるこの場所は本当に良かった。

人間は居場所を探す。どんな場所であっても、

その場所がその人間にとって居てもいいんだと思えるそんな場所があるだけで、

人生は色づくんだ。

この言葉は大好きな作家の請負だが、そうだと思う。


「あの~。雨宮さん」

お昼休み開始を社員に知らせるベルが鳴り響いてから、

5分くらいでキリのいいところまで進められて、

満足していた俺の隣にいつの間にか女性社員が立っていた。

そして彼女は少し躊躇った後、意を決したように話しかけてきた。

俺はこの女性のことを知っている。というか知らない方がおかしいくらいだ。

彼女は俺の席の近くに自分の席を持っていて、

入社時のあいさつで盛大に噛んでしまったことが印象的な人だ。

しかし、だからといってこうして話しかけられるほどの仲ではない。

仕事でもあまり彼女の編集している記事とは関係がなく、挨拶しかしたことがない。

そんな彼女から、声をかけられたことに正直驚きを隠せなかった。


「どうかしましたか?伊勢さん」

だから、こんな丁寧な口調で彼女の呼びかけに答えるほかなかった。

彼女は俺と視線が重なるや否や、目を泳がせてしまった。

しかし、そんな態度を取ってはいけないと思ったのか、

目線を必死に合わせようとしていた。


「あ、あのですね!!あ、雨宮さんがもしも迷惑とかじゃなければでいいんですけど!!

私とご飯、い、一緒に食べてはくれないでしょうか??」


一瞬、彼女から何を言われたのか分からなかった。

少しの間、固まってしまう俺。そんな俺からの返答を待ってくれる伊勢さん。

傍から見れば、少し面白い光景かもしれない。


彼女からの言葉を咀嚼して理解するまでにかかった時間は約1分。

よくよく考えてみても、理解するまでに時間かかりすぎだろう。

だけどそれほどに彼女から言われた言葉を理解して

たどり着いた答えは衝撃が大きかった。

しかし、この答えが本当に正解なのか不安になった俺は答え合わせも兼ねて、

彼女に問いかけることにした。


「間違ってたらごめんな。もしかして俺のことをお昼に誘っているのかな?」

先ほどまでの丁寧な口調はどこへやら、素の自分で声に出していた。


「そ、そう!!そうです!!お昼、一緒にいぎま、っ、せんか?」

そして彼女の方も俺からの答えを今か今かと待っていたのか、

やや俺の言葉を食うかのごとく肯定した。

のだが、どうやら途中で舌を噛んでしまったようで、

最後おかしくなってしまい、それに加えて、

あまりにもいい勢いで噛んでしまったのか、悶えていた。

その姿に少々、かわいらしさを感じてしまった俺は心からの笑顔を浮かべた。

(あ~。本当に今日仕事に来てよかった!!)



そして今、俺と伊勢さんは料理を待ちながら、他愛無い話をしていた。

「へ~、雨宮さんって旺盛大学出身なんですね~!!すごいじゃないですか~。」

「はは、そうかな。まあ、大学はギリギリで合格したから、

その後必死に勉強してなんとか卒業って感じだったけどな・・・。」

「それでもすごいですって!!

私なんて地元でそんなにもよくない大学出身なんですよ~。

やっぱり有名な大学っていうことは授業とか難しかったんです??」

「ああ、そうだなぁ。あの頃は本当にがむしゃらだった。

他の子に置いていかれないように、日中は大学へ行き、

授業の後は自習室とか図書館で勉強してたなぁ。今考えたら勉強しかしなかった。

と言っても過言じゃないかもな。はは。伊勢さんはどんな学生さんだったの?」

あまりにも自分の事ばかりだったので、今度は伊勢さんのことを聞いてみたいと思った。

「私ですか~。う~ん、私はテニスサークルに4年間入っていたんですけどね。

私、すっごく鈍くさくて、テニスボールが何回か顔面に命中することもありましたし、

空振りとかばっかりで、テニスっていうか素振りをしてたって感じでしたね。

ただまあ、そこで疲れてしまって、勉強が・・・。

だからこの会社に入れたのは本当に幸運というか、ラッキーというかで。

あはは。こんな話、つまんないですよね」

「いやいや、そんなことないよ。十分伊勢さんのことを知れてよかったと思うよ。

俺が伊勢さんの立場だったら多分、サークルすぐにやめてたと思うよ!!

俺、結構飽き性で体力もないからさ、

伊勢さんのように4年間も必死に一つのことに打ち込むことなんてできないと思うんだ。

この会社も伊勢さんのそういうところを見抜いたんじゃないかな。」


言ってしまってから思ったことがある。

俺、今凄い恥ずかしいこと言ったんじゃないかって。


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