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序章 第1話:家族の死

俺は殺していない。

だけどそれを信じてくれる人はいなかった。

2025年3月31日 俺、雨宮龍一に死刑が執行された。


時は遡ること、10年前

2015年3月31日、この日を境に俺の人生は狂い始める。

あれは突然の事故だった。

両親と弟は俺が仕事でいけないということから3人で飛行機に搭乗したのだが、

その飛行機がまさかの点検ミスによって墜落することになるだなんて、

あの時の俺は想像もしていなかった。

また2・3日の旅行が終わったら、元気な姿で3人と会えると信じていた。


だけど俺のもとに帰ってきたのは、

他の人のものも混じっているかもしれない3人の遺骨だけで、

彼らと今まで交わしてきた思い出だけが残されてしまった。

もうあの幸せだった日常に戻ることはできない。

その日、俺はみっともなく感じるほどに泣いた。


朝起きても、もう挨拶が帰ってくることはなかった。

どれだけ「おはよう」と言っても返ってくるのは無音だけで、

昨日のことが夢であってほしかったという想いは容易く打ち砕かれた。

しかし、このまま家で3人の死を悼み続けるわけにはいかない。

なぜなら俺は社会人だからだ。

常識的に考えれば、休みを取ってもいい状況だと言える。

例えば、一人でも家族が生存していたのならば、

そいつと一緒に亡くなった家族の話をできたかもしれない。

だけど俺にはもうそんな家族はいない。

そんな孤独な状況の家で一人いるのは、もはや地獄だ。

この家には家族とのたくさんの思い出が詰まっている。

だからこそ、家にいたくなかった。

それに仕事をしていた方が嫌なことも考えなくて済むだろう。


俺はそんな想いから、手早く食事を済ませると着替えをこなして家を出た。

「行ってきます」と誰もいない空間に言葉を残して。



「雨宮~!!おはようさん」

俺が会社のゲートを通り過ぎた瞬間、男が俺の肩を叩きながらそう言った。

振り向いた先にいたのは柴山辰已だった。

辰已とは高校時代からの友人で、大学は違うところに行ったが、

就職面接の際に奇跡の再会を果たし、

今はこうして同じ会社で働く同僚となっていた。

彼は本当に気さくでユーモアにあふれていて、俺が元気のない顔をしていると、

笑わせようとしてくれたり、俺の悩みを幾度なく受け止めてくれた。

本当にいいやつだ。

もしも俺が女だったら、間違いなく惚れていただろう。


そして今日はそんな辰已の存在が本当にありがたかった。

だから思わず「いつもありがとう」と口走ってしまった。

辰已はその言葉を聞いた瞬間、目をぱちぱちさせ、

奇妙なものでも見たような顔になっていた。

「ど、どうしたんだ!?雨宮!!俺何もしてないのに、ありがとうって。

え、え、お前、本当に雨宮だよな??」

突然、俺が感謝を伝えたことに驚いたからなのか、

珍しく辰已はうろたえ始め、あまつさえ俺の存在を疑い始めた。

この反応には俺自身驚いてしまい、

次の言葉を発するまでに時間がかかってしまった。



「いやいや、そんなにも驚くことかよ。ただいつもの感謝を述べただけじゃないか」

「そ、それがおかしいんだろ!!

いつも、ありがとうなんてめったに言わないお前が

いきなりあんなことを言うからびっくりしたんだろ~。あ~。焦ったぁ」

俺と辰已はさっきのゲート付近での会話を思い出して、笑いあった。

(あ~。やっぱり会社に来てよかった。

さっきまであんなにも死にかけの精神状態だったのに、

こいつと話してたら元気になってきた。本当にいてくれてよかったよ)


辰已と話している間に、すっかり元気になった俺は、デスクに座った。

俺と辰已は同じ会社で働いてはいるが、全てが同じというわけではない。

俺は大学で学んだ薬や病気の知識を活かして、

製薬業界関連の編集作業に従事しているが、

辰已は経済学を専攻していたということもあって、

会社の花形ともいえる経済紙の編集をしている。

そのこともあって、俺と辰已のデスクの位置は会社内の左端と右端と

言えるほどにかなりの距離があり、昼の休憩時間にしか話をすることはできない。

だからといって、そこまで彼のいるフロアまで昼休憩の時に行けるわけでもなく、

たとえ行ったとしても大体の場合、辰已の性格からか女性社員が

囲んでいることがほとんどで、あまり話に行ける雰囲気ではないのである。

辰已は「もっと来てくれよ~」と言ってはくれるのだが、

どうしても抵抗感があった。


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