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24・尾行

 夙……桜木夙はきっと……

 史美菜の頭にふとあの白い頬が浮かび上がった。

 彼女ならきっとまだしてなさそう。そういう事だ。

 しかし、あの無表情な女がこんな事に協力してくれるだろうか。それ以前に彼女は向こう側の人間……何故かそんな気がする。

 そんな彼女が美加の為に願いの呪文を唱えてくれるとは思えなかった。



 翌日から史美菜の学校での視線は変わっていた。

 あの娘はどうか? この一年生なら……『まだ』っぽい娘を探して、黒髪の清純そうな後輩などを見るとついつい目で追ってしまう。

 しかし、いきなり魔法をやろうなんて言っても相手にされないだろう。

 ――困ったなぁ。

「おはよう」

 後から肩をたたかれて史美菜は振り返った。

「どうしたの? こんなとこでぼうっとして」

 クラスメイトの東佐代里あずまさよりだった。

 彼女は豊満な身体を揺らして笑った。

 たぶんクラスで一番太っている彼女は、いったいどれだけのサイズがあるのか? というウエストのスカートを履く。制服のサイズと言うのは実に幅が広く設定があるらしい。

 彼女がいたじゃん。彼女なら『まだ』なのでは?

 佐代里を見た瞬間、史美菜の今の興味はそれしかなかった。

「ううん。なんでも」

 そう言って自然に佐代里と歩き出す。

 廊下を歩く間、史美菜は何度も彼女を横目でチラ見した。

 丸々したほっぺはほんのりと紅くて、胸とお腹が歩く振動でぷよぷよと揺れる。明るい彼女の性格もあるのか、妙に憎めない姿に見える。

「ねえ、佐代里ってデートとか何処行く?」

 史美菜は婉曲な質問から入る事にした。もちろん『そんな、デートなんてしたことないよ』という答を期待して。

「う〜ん。その時によるけど、この辺遊園地とか無いから詰んないよね。でも、ちょっと遠いけど町田水族館は意外とアリだったなぁ」

 町田水族館とは、電車で十個ほど駅を越えた場所に古くから存在する県下唯一の水族館で、巷で知らない者はいない。

 外観は古いが、中は新設された水槽などもあり意外と評判はいい。直ぐ近くにある丘の上はラブホが集結して価格も安い為、そっち面でも有名な場所である。

 なにそれ? 彼氏いるってこと?

 佐代里は頬を揺らして笑うと

「なになに、フミ何処か行くとこ探してんの?」

「えっ、う、うん……まあ、ちょっと……」

「でもさ、あそこは覚悟決めてから行った方がいいよ。後でしらけるから」

「後でしらける?」

「だって、帰りは間違いなく丘廻りで帰るじゃん」

 丘廻りとは、つまり帰りがホテルで休憩タイムという事だ。

「丘廻りで帰ったの?」

「まあ、あたしも別に拒絶するほどウブでもないし」

 少しはウブになれよ……

「そ、そうか。そうだよね……ははっ……」

 史美菜は苦笑しながら、心の中で落胆する。

 どうなってるんだ最近の女子高生……



 教室には二つ空き机がある。

 斉野美加と平井百夏だった。

 史美菜だって何時でも必ず二人と一緒にいたわけではないのに、そんな教室の風景はやっぱり何処か空虚で、それはたぶん他の連中よりも明らかに関わりを深く持っている証なのだろう。

 休み時間は他の誰かと話して高い笑い声なども上げるが、授業中は逆に空いた机に目が行ってふと溜息を漏らしてしまったりする。

 桜木夙は相変わらず、いるのかいないのか判らないほどの存在感で教室の隅にひっそりと佇んでいる。

 誰にも関わらず、誰ともコミュニケーションしない彼女が、どうして史美菜には話しかけてくるのか?

 何故、美加や百夏の現状を詳しく知っているのか?

 それ以上に、魔法事典の事に何故詳しいのか?

 夙に対しては疑問が多いものの、それにも増した気味の悪さが彼女への関わりを拒絶させるのだった。





 放課後、史美菜はこっそりと夙の後をつける事にした。

 昇降口を出た彼女を追って、史美菜は急いで駐輪場へ自転車を取りに行った。自転車を押して小走りに校門を抜けると、路地に夙の後姿を確認。そっと歩き出す。

 彼女は美加の家の近所に越して来たらいいが、あの辺に新しい家はない。

 もちろん、中古住宅とか貸家かもしれないが……とにかく史美菜は桜木夙の生態が気になりだしたのだ。

 考えてみれば、美加とも夙の話しはした事が無い。

 存在感がないから話題に出ないのだろうけれど、近所に住んでいるなら以前にも時々見かけるとか、少々話題に出てもいいのでは?

 だいたいどうして夙はこの通学距離を歩いているのだろう……普通なら絶対自転車で行き来する距離なのに。

 一定の間隔を保ってゆっくりと自転車を押す史美菜は、夙の影を見失わないように歩いた。

 背筋をピンと伸ばして凛々しく歩く夙は、後姿さえ影が薄く艶やかな黒髪だけが妙に風に揺れ、身体の方は今にも消えてしまいそうなのだった。







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