表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

18・思惑

「先輩」

 登校中そんな声の掛けられ方をするのは初めてだった。

 高校に入ってから部活をしていない彼女は、後輩との繋がりはまったくないのだ。しかもその声が男子のものだったから、余計に奇妙だった。

 史美菜は怪訝な顔で振り返る。

「お久しぶりです」

 背の高い学生が立っている。興南高校の制服とその風貌に彼女は一瞬誰だか認識できなかった。

「ああ、山下くん?」

 中学の時の部活の後輩だ。

 史美菜は中学の三年間卓球部にいた。地味なスポーツナンバーワンと噂されたその部は、珍しく男女の仲がよかった。

 練習場所が無くて、男女一緒に体育館の片隅や空き教室、近くの公民館などを点々として交代で使用する活動だった為、自然に結束が強まったのだろう。

 それにしても山下薫。彼は部内で背が一番小さく女子からも可愛がられていた。

 それなのにいつの間に背が伸びたのか、今はどう見ても百八十センチくらいは在る。

 小学生のようなつるりとした頬もニキビでイッパイで、女児のようだった首は馬のように逞しい。

 互いに自転車に乗っていても、彼女と山下の背丈の差は歴然だった。

「ずいぶん大きくなったね」

「ええ、去年急に延びて」

 彼は今年興南に入学した一年生。史美菜とは二つ違いだ。だから、中学の部活でも二年生ほど親しくしていたわけではないしそんなに話した事も無い。

 それなのにわざわざ声をかけてくるのも、妙な気がした。

 けっこう話をした同性の後輩さえ、高校では話した事も無い。

「何時もこの時間なんですか?」

「えっ?」

「学校に行く時間ですよ」

 山下が笑う。

 爽やか過ぎる。クリクリした坊主頭で笑う幼さの残る面影はないが、爽やかさはあの頃のままだ。

「え、ええ。そう……かな」

「俺、今日は朝練休みでたまたまなんすよ」

「部活?」

「ええ、卓球続けてます」

 屋内スポーツらしい、色白の笑顔。

「先輩は? 卓球辞めちゃったんですか?」

「アレは、女子高生がやる事じゃないでしょ」

「でも、南原も意外と強いですよね?」

「そうなの?」

 全然興味がないから、自分の高校の部活にも全く無頓着だった。

「知らないんですか?」

「うん。眼中になかったよ」

 彼は史美菜の素の顔に、遠慮気味の笑顔を向ける。

 横断歩道の信号が青になった。

「じゃあ。また会えるといいですね」

 山下は自転車のペダルに足を乗せると、あっと言う間に加速して登校中の集団を超えて行った。





 美加は未だに入院して、百夏は日に日にケバくなって行く。

 マニュキアだけでは飽き足らず、ネイルを着けて来た彼女は、今朝さすがに正門で教師に呼び止められたらしい。

 集まる集団も、以前と違って何処かケバケバしい仲間に加わっている。

 史美菜はあの魔法陣がもたらした物かは別として、周囲の変化を確かに感じ取っていた。

 鉛色に沈む曇り空の重さは、今朝の意外な再会に弾む爽快感をかき消す。



 放課後、史美菜は数日振りで汐泊孝樹に会い、バス停までの道のりを楽しむ。

 何時雨が降ってもおかしくない空模様だったが、そんな事はどうでもよかった。

 一本遅いバスで帰るといって、駅前のファーストフードでお茶をする。

「フミは彼氏とかいないの?」

「い、いないよ。そんなの」

「南原って、モテるだろ?」

「全然。制服の評判わるいし」

 ちょっと謙遜かもしれない。制服の評判は悪いが、中身の評判は上々だ。

「でも、カワイイ娘多いよな」

 面と向かってそんな事を言われるのは、非常に照れくさい。咄嗟にどう返していいのか判らなかった。

 史美菜は緩む頬を絞って、コーラのストローに口を着けた。



 帰り道、西の空は雲の切れ間が出来て太陽が覗いていた。薄っすらと彩る夕陽が雲をワイン色に染める。

 学校を迂回するように国道まで来ると、直ぐ先に長身の姿が見えた。

「あ、先輩。奇遇ですね」

 山下が笑う。

「今日はついてるなぁ」

 史美菜は信号待ちする彼の傍らに自転車を止めた。

「今、部活の帰り?」

「ええ。何時も帰りは今頃ですけど、陽が長くなっていいです」

 そう言えばずいぶん陽が長くなったものだと、史美菜は改めて思った。

 一緒に横断歩道を越えて、広い歩道を二列のままゆるゆると自転車を走らせる。

「先輩は、汐泊先輩と付き合ってるんですか?」

「えっ……な、なによ。急に」

 史美菜は思わず自転車を揺らして蛇行した。

「時々一緒に帰ってたような……」

「なんで知ってるの?」

 あまりひと目につかないように、近くの駅で待ち合わせている。もちろん、全く目につかないのは不可能で周囲には興南と南原の生徒がうろついているのは確かだ。

「汐泊先輩は、平井百夏狙いのはずだったから……どうなのかなぁって思って」

 史美菜は思わず自転車を止める。

「モモちゃん狙い?」

 山下は彼女の動作に驚いて、それでも直ぐに自分の自転車も止めた。

「ええ、手紙は出してないようですけど」

 『手紙を出す』というのは、例の忍び込みの事だ。

「なんで一年のアンタがそんな情報知ってるのよ」

 史美菜は少しだけキツイ口調になる。

 彼女の声の調子で山下は

「まずい事言っちゃいました?」と、ばつの悪そうな顔をする。

 三年の汐泊の事を、一年の山下がきちんと知っているはずがない……適当な噂に決まってる。

 ちょっとモテぎみの生徒は、何かとやっかみ混じりの悪い噂を流される物だ。きっと山下もそれを聞いたに違いない。

 きっとそうだ。ただ、それだけだ。

 しかし、山下は再び口を開く。

「同じクラスに彼の後輩がいて……ほら、あそこの中学は少ないからけっこうみんな知り合いっていうか友達っていうか」

 山下は史美菜の不安げな表情を読み取ったのか、少し声が小さくなった。

 自転車を史美菜の真横に移動させる。

「それで、そいつ井上っていうんですけど……汐泊先輩はそのうち平井先輩を落とすそうで……そのキッカケを今掴んでるって……」

「キッカケって?」

 史美菜は嫌な予感がした。

 今日彼と交わした会話を自分本位で受け止めていたが、全てが他の意図に当てはまる。

 キッカケって何? そのキッカケって、あたし?

 目当てはモモちゃんだったの?

 山下はさらに声を小さくした。

「周りから攻め込むって……」






ジャンルを『学園』に変更しました。

実際どのジャンルに投稿するべきなのか、ずっと迷っています。

カテゴリに『ファンタジー』があるので、それでいいのか……と(苦笑。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>現代FTシリアス部門>「不透明な囁き」に投票
気に入ったらクリックしてください。励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ