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14・漆黒の生き物

 魔法事典て……もしかしてそう言った趣味のある連中にとってはメジャーなアイテムなのだろうか。

 古びた風合いを出す事は、今の技術なら可能だとテレビで見た事がある。

 近場にそんな趣味の連中は知らないが、もしかしたらネットの何処かで活発に盛り上がっていたりするのだろうか……

 史美菜はそんな事を考えながら、彼女の白く不透明な頬を見つめた。

「あの呪文は、強い信念に反応して願いを叶えてくれるのです……」

 この世界に魔法は存在するのだろうか? 

 もしかして、ごく当たり前の事?

「どうして、桜木さんが?」

 史美菜の問いに、なぎさは応えなかった。

「あの呪文には副作用があるのですよ」

「副作用?」

「作用には、必ず反作用があります」

 意味が判らない。

 反作用の意味は判るけど、魔法と何の関係があるのだろうか。

「反作用?」

「願いが叶ったら、その分何か代償を払う事になります」

「何それ? 代償を払わないと、願いは叶わないの?」

「違います。願いが叶ったら、代償です」

 夙は相変わらず無表情で、どういう意図で言葉を発しているか判らない。

「願いが叶わなければ、代償は要らないの?」

「そう言うことになります」

 風が吹いて二人の間をすり抜けると、桜の葉を揺らした。

 さっきまでとは異質な、少し冷たい風。

「代償ってなに? 拒んだら?」

「それは出来ません。代償は絶対です」

 彼女は冷たく怜悧な笑みを一瞬浮かべると

「願いには形がありません。固形物ではないから……だから、反作用で働く代償も形が無いのです。拒む事は出来ません……」

 史美菜は夙の顔を見ていた。

 黒い瞳はヤッパリ何処か硬質で、まるで蝋人形のように体温を感じない。

 見つめられても、見ていない。

 いや、確かに自分を見ている。

「あんた、何モノ?」

 思わず出た言葉だった。

 この娘こそ魔女かもしれない。そんな馬鹿げた想像が脳裏を駆け巡った。

血の通った温かみをまったく感じない。

「南原高校三年C組み、桜木夙」

 彼女はこれと言っておどけるでもなく、いたって真面目に応える。

 からかっているのか、真剣なのか計り知れない。

 史美菜の疑問は他にもあったが、それがあまりにも多くして何から訊けばいいのか判らない。

 何より気味が悪い。

 キモイという表現で回避できないほどリアルで冷涼だ。

 はっきり言って怖い……今すぐここから立ち去りたい。いや、立ち去るべきだ。

 バサバサッと、突然影が横切った。

 史美菜は自分の目の前を横切った黒い影が何だか判らなくて、思わず瞬きした後周囲に視線を巡らす。

 空には何も無かった。

 カラッと晴れた青空だけが、ただひたすら広がる。

 しかし、視線を夙に戻すと、思わず驚愕した。

 ビックリではない、『驚愕』だ。

 夙の右肩にカラスが乗っている。

 カラス……カラスって人に乗るの? ていうか、この女は平気なのか?

 白い顔の隣には、漆黒の鳥。

 パチパチと瞬きしながら、やたらキョロキョロする漆黒の生き物。

 普段対象物が無くて気付かないが、夙の細い肩に乗ったその生き物は、予想以上に大きい。

「か、カラス……」

 史美菜の言葉に彼女は何にも反応しない。

「そのカラス……桜木さんの?」

「まさか」

 肩に乗ったカラスを追い払おうともしない……

 史美菜は彼女の顔に視線を預けたまま、自転車のペダルを踏もうと足をかけるが、滑って踏み外す。

 慌てて足を掛け直し、体重をかけてペダルを踏む。

 気持ち悪い……関わってはダメだ。

 無心でペダルを踏んだ。

 早く彼女から離れよう。距離をとろう。

 十数メートル走ってから振り返った時、彼女の姿はもう無かった。

 再び涼しげな風が吹いて、並木の葉桜をザワザワと揺らしていた。





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