中編 その2
あれから時が流れて3月に入った。
僕達は同じクラスなのにも関わらず、バレンタインデー以降は挨拶を交わす程度のいつもと変わらない日常。
しかし、3年になったらクラス替えでまた木野と同じクラスになるとは限らない。
最悪の場合のことを考えて僕の中で決着をつけなければならないのだ。
もうすぐ、ホワイトデー。
僕は彼女に何をお返ししようかと頭の中を巡らせ始めている。
木野が本当にほしいものをお返しとして渡すのがベストだと思うが……。
◇◆◇
3月12日――――。
この日は部活が早く終わったので、僕はまっすぐ家に戻らずに近くのショッピングモールに足を運んだ。
別に前日でもいいだろうと思っていたが、それだと彼女のイメージに合ったものがなくなってしまうというのがある。
1つだけ言えることは事前に準備を進めてこなかった僕が悪い。
「女子は何が欲しいんだろう……?」
「ホワイトデーフェア」が実施されている店を覗いてみてはいろいろと頭を悩ませる。
お菓子の詰め合わせはかたちとして残らないし、花を渡しても学校だからどこに置いておくかで困りそうだし……。
「うーん……困った……」
僕はフードコートに寄り、椅子に腰かけ、水筒に入った飲みかけのスポーツ飲料水を口に含む。
その時、記憶を遡ってみたら彼女が誰かと話しているのをこっそりと耳にしたことがある。
『譜面入れが欲しいんだよね。上から入れるタイプじゃなくて横から入れるタイプの』と――――。
「これだ!」
吹奏楽部は楽譜がたくさん配られ、どんどん溜まっていく。
よって、少しずつ整理していかないと分厚くなって重くなるのは当たり前だ。
僕が譜面入れをホワイトデーに渡して使ってくれたら、ある意味かたちにもなるし、思い出にもなる!
「よし、決定だ!」
僕は水筒を鞄にしまい、フードコートから3階にある文房具店へ向かった。
◇◆◇
エスカレーターで3階まで登り、文房具店まで着くな否や、いろいろなものを見て回る。
「譜面入れだけだとなんだから、ボールペンも一緒にあげようかな?」
僕は買い物かごに横から入れるタイプ譜面入れ(真ん中に入り口がある)を入れ、ボールペン売場へ向かった。
譜面入れはパステルカラーのものにしようか定番の青や黒にしようか迷った結果、黒にしたという理由がある。
「ボールペンも種類が多いな。おっ、この3色ボールペンは色違いのデザインになっているんだ!」
その3色ボールペンは桃色だけのといった単色から桃色と白ドット柄のデザインといった約20種類くらいのデザインがあり、1本かごに入れ、木野に合ったデザインのものも入れた。
買い物かごに入れられた譜面入れ以外の2本の3色ボールペン。
彼女のは赤と白のドット柄、もう1本は僕が使うために黒いもの。
どちらも木野に渡すと思っていた読者は残念。
色と柄は違うが、同じものが欲しかったんだよ、僕は。
◇◆◇
一通りの買い出しを済ませ、僕はレジを通す時、「ホワイトデーのラッピングって受け付け」ているかどうかを店員に問い合わせると「受け付けていますよ」と返答があった。
「ならば、譜面入れと赤と白のボールペンをラッピングしていただけますか?」
「こちらの黒いボールペンは……?」
「こちらはしなくて大丈夫です」
「かしこまりました。こちらの商品は先にお渡ししますね。お会計は――――」
会計を済ませ、僕のペンを受け取る。
店員から「しばらくお待ちくださいね」と言われたため僕は店内をゆっくりと見回した。
数分くらい経ったあと、きれいにラッピングされた商品を受け取り、僕はショッピングモールをあとにする。
確か今年のホワイトデーは火曜日だったはず……。
僕はその準備が整った途端、ホワイトデーが刻々と近づいてきていると感じ始めていた。
2017/05/05 本投稿