22.悪夢の行進 XV
▽ケイ▽
彼女は駆け出した。
否、駆け出したより消えた、に近い。
正面の下っ端の鳩尾に拳を打ち込み、すかさず掬うようにサマーソルトキック、そのまま空中で回し蹴り。インパクトの瞬間ハートフルなエフェクトが出ていたし、何より物理法則を完全に無視した挙動だ。流石、魔法(物理)少女。
ぶっ飛んだ下っ端に続き、次々と突っ込んで行くが、行ったそばから送り返されている。同じ能力者でもあれ程の差が出るのか。
リンナの心配は端からしていないが問題はこっちだ。
「よぉ、クソガキ。政府への見せしめに首だけは残してやらぁ!」
振り下ろされた拳を後ろに下がって避けると、立っていた場所には大きなクレーターが出来ていた。首を残す気なんて全く無いじゃないか。
リンナもリンナで手を出すな、と言うならこっちに敵を、しかも坊主で筋骨隆々のいかにもなリーダー格を送らないで欲しい、なんて言ったら本当に殺されるかな。
……ん?ラーラットが居ない。
「ケイ」
「うわっ」
「まるで幽霊でも見たような反応をしますね」
「いや、どこにも見えないんだけど」
「隠れていますから当然です」
「アレの相手は俺がするのか」
「はい、今、顔を合わせると面倒な相手なので、ぜひ」
「よし」
「危なくなったら助太刀しますから」
「そうならないように気をつけるよ」
お願いします、と残してまたラーラットの気配が消えた。本当にどこに居るかわからない。
「最近のガキはブツブツ言うのが流行ってんのか?」
リーダー渾身のヤクザキック。
「うおっと」
男の蹴りを空気で受け止め、剣で切り返す。身体が少しよろめいた。
「大丈夫ですか、ケイ」
「うおっ、大丈夫、始動時は少しクラクラするんだ」
右手にはコメットさんから貰った剣。少し形がブレることもあるけど最低限の性能は出せているだろう。
「ほう、なるほど」
剣を避けて体勢を立て直した男は興味深そうにこちらを観察している。
能力者同士の戦いは情報戦でもあるって偉い人も言ってる。まぁ、流石に今ので能力がバレるなんて事は無いだろう。
しばらく睨み合いが続く、リンナの方はもう終わってしまったみたいだ。
しかし、その一瞬の余所見はあまりにも致命的な隙となった。
見える。見えてるんだ。それでも、身体は動かない。パソコンみたいなものだ、中身だけ良くたってそれじゃあダメ。ダメだけど……身体以外なら
止まれっっ!
リーダーがその場で固まる。
「うぐっ……ク、クソッ」
……で?ここからどうするんだ……殺すのか?リンナは殺さずに無力化したみたいだけど、自分にはそんな器用なこと……
「ケイ、もう少しだけそのままで」
無言で頷く。その直後、目の前に急に人が現れる。ラーラットだ。
「ハッ、そうか。ヒメか……相変わらずお綺麗で」
「えぇ、相変わらず相手の力量は測れないようですね」
「ガハハ、身体が動きゃあ、今すぐにでもお前を殺せるんだがな……」
「あなたはそればっかりですね」
「まぁな、それが生き甲斐なんだ。それより狼男、探さなくて良いのか?」
「何処でそれを?」
「あ?この間自分で言ってたろ……何だ?ボケてんのか?そういえばボケた喋り方してたな!ガハハハ」
「…………」
「ラーラットさんそろそろしんどいです」
「もういいですよ」
ハァ……これはなかなか……
リンナが歩いてくる。俺とは対照的に汗一つかいていない。
「そっちも終わったみたいね」
「リンナ、ここから何処へ?」
「リ、リンナだと……!?」
リーダーの顔が青ざめる。
「ク、クソ……夢だ。悪い夢だ」
「そんなわけないでしょ?」
ゆっくり、ゆっくりと、彼に歩み寄る。
「ちっ、この化け猫が……牢にぶち込むなり、殺すなり、好きにするがいい」
リンナがニヤッと笑う。傍から見ればリンナの方が悪人に見えなくもない。
「そうねぇ……じゃあ……」
△ △
▽コメット▽
「いやぁ、危なかったね」
「???間に合ってなかったように見えたけど」
「結果オーライだよ。そもそも君がもっと早く出てきていれば余裕を持って出来たんだ」
「天才の癖に、言い訳するの?」
「これは事実だよ、それより、これから君はどうする?」
「私はケイの味方をするだけ」
「そう……じゃあこれ」
「何……?」
「ケイ君の端末のアドレスとキーだよ」
「……自力で何とか出来るのに」
「まぁまぁ、時短にはなるはずだよ」
「受け取っておく」
「あまりやり過ぎないようにね」
彼女が消えた。流石に行動が早い。
言うだけ無駄だったかな……
大きく欠伸をして少しだけ眠った。
△ △
少し遅れました。申し訳ないです。
まいどありがとうございます。カワウソでございます。
暑いですね。もう毎日溶けそうです。でも、悪夢の行進自体も【もう少し】ではありませんが……それなりに進んでいるので、頑張ります。




