9.覚醒 Ⅵ
主人公無双
▽ラーラット▽
素早く立ち上がり、真っ直ぐ黒コートを見据える。もう一手で終わりにできたかもしれないのに、黒コートは距離を離していた。
今まで黙っていた黒コートが口を開く。
「貴女と彼は敵対していると思っていましたが。」
「そうですね。でも、彼はお人好しなんです。眩しいくらいに……」
黒コートは倒れたケイを見つめた後、こう言った。
「…………まだ、やりますか?」
「ええ、彼を殺させる訳にはいきません。ずっと、違う、違うと自身に言い聞かせてきましたが、最後に彼は…彼が私の夢であると証明してしまいましたから。」
「命を救われて惚れでもしました?」
「そうかもしれませんね。」
ふふ、と少し笑い黒コートが駆ける。
私も左手に意識を集中する。
いつか捨てた夢、一度は殺した夢、それでも、もし許されるのなら……もう一度……
もう一度……信じてみたい。今度は
「信じ抜いてみせます!」
左手から右手でそれを一気に引き抜き、黒コートの光の刃を大きく弾き返した。
手には美しい弧を描く光の刀が握られている。
「なっ……!?」
黒コートが動揺しているのが見て取れた。返す刀で首を落とさんと斬りかかるが、見えない壁に阻まれる。
「そう簡単にはいきませんか……」
黒コートの剣が逆に彼女の命を奪おうと振り下ろされる。
それを難なく躱すと、今度は水平に薙ぎ払う。
そんな攻防を何度も繰り返していると黒コートが話し始めた。
「その能力……いえ、あなたなら…或いは…」
「何をブツブツと!」
「こっちの話ですっ」
黒コートの回し蹴りが放たれる。
「それは見飽きました。」
タイミングを合わせて姿勢を低くし斬り上げた。が、感触が無い。
「残像!?」
その瞬間、後ろから腕を掴まれ、乱暴に放り投げられた。空中で体勢を立て直して着地する。
「消えた……?」
「こっちです。」
声がする方に振り向くと、剣を納めて両手を上げる黒コートが居た。
「どういうつもりですか?」
「お腹が空いたので帰ります。」
「はい?」
「腹が減っては戦がなんたらと言うじゃないですか。では…」
そう言って踵を返して歩き始めた。
「そんな事で!逃がすわけないでしょう!!」
右手の刀を槍の形に変えて真っ直ぐ黒コートに投げる。
しかし、黒コートは後ろを見る事も無く、少し横に動いて槍を掴むとそのままの勢いで投げ返してきた。槍は頬を掠め、後ろの壁に突き刺さる。
「この場は見逃す、と言っているのです。彼の事で少し熱くなり過ぎでは?彼を連れて早く帰ることですね。急げばまだ間に合うでしょう。」
黒コートはそう言い残して、消えた。
次は、必ず……
しっかりと安全を確認してから、ケイに駆け寄る。
やはり、何かの能力を使ったようですね…服すら破けていない。今は過負荷で昏睡状態になっているだけのようですが、出血が多い……うぅ、申し訳無い……
軽く止血して、彼を抱き上げる。
「彼が目覚めた時、いったいどんな顔をして会えば良いんでしょうか……」
彼の寝顔を見ると胸が苦しくなった。
△ △
どうも、カワウソでございます。えっ?無双してない?主人公?主人公は初めからラーラットですよ!
一章完結しました!読者の皆様ありがとうございます!ここまで飽きずに来られたのも皆様のお陰です。これからも飽きないように頑張ります!
あとは幕間とか、解説とか紹介とか挟んで二章の予定です。
次もよろしくお願いします!




