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8.覚醒 Ⅴ

もうちょい!


▽ラーラット▽



 何故、自分を襲った相手を身を挺してまで守るのか、私には理解できなかった。倒れる彼を見て悲しむ私はもっと理解できなかった。私は彼を殺そうとしたのに……


 □     □


 変な人を拾った。曲がり角でぶつかったのがきっかけだった。ぶつかった時、反射で能力を使ってしまった。相手は全身血塗れで尻もちをついていたので、しまった、と思った。でも、次の瞬間、【壁】だと言われた。血塗れの割に元気そうなので警察に引き渡そうかと思ったが、黒コートの話も詳細が気になるし、このご時世には珍しく、良い人そうだから、家に連れて帰った。私自身、信じられない行動だった。


 全身血塗れだったので、帰ってシャワーを浴びさせることになった。マスターに言われて傷が無いか確認するついでに……いえ、ICチップがあるか確認するついでに傷が無いか確認した。

 マスターにICチップが無かった事を報告した。ICチップは能力者全員に埋め込まれるそうだ。


 マスターと彼が二人で話しているのを聞いていた。ここではない異世界から来た、と言っていた。……私は信じられないが、マスターは半分くらいは信じるらしい。それに黒コートの人物…おそらく【関係者】だろう。

 

マスターに黒である可能性は捨てきれないから、彼には注意を払っておくよう言われた。


 次の日、マスターと彼はまた話をしていた。話を聞いている時に皿を割ってしまった。少し心臓がうるさかった。


 しばらくの間、彼も一緒に生活する事が正式に決まった。彼はよくマスターと話をしているし、マスターも彼の事が気に入ったようだった。居場所を盗られた気がした。


 彼はよく話しかけてくる。正直、どうでも良いような話ばかりだった。そんな話をしていったい何になるというのだろうか。


 さらに、彼は私の家事を手伝うようになった。理由を聞くと、

特には無いが、強いて言うなら居候させてもらってるからかな。と答えた。

それなら、マスターの仕事を手伝うという事が条件だったのではないのか。

と訪ねると、彼はうーん、と唸った後

女の子にばかり働かせるのもなんだか悪いから

とまた建前を答えた。私を手伝っているのはただの善意のようだった。理由の無い善意など、もうこの世界の何処にも無いはずなのに。


 次の日も、彼は家事を手伝って、私と話をした。冷たく接している筈なのに、何故、付き纏うのだろう。


 その次の日も、その次の日も同様だった。彼と話をしているとなんだか得体のしれない感情が湧き上がってくる。


 ある日、彼の夢を見た。もし、本当の私を知った時、彼は変わってしまうのだろうか。


 次の日、彼の善意に意味を見出した。『人は皆優しい』だなんて夢はもう見ない。彼はやっぱり私達の敵で、私達を騙そうとしているのだ。精神に干渉するような能力者であれば、私が彼を連れてきた理由にもなる。彼と話していると変な気分になるのもそのせいで、マスターがあんなデタラメな話を信じたのは、マスターには能力への耐性が無いからだろう。


 また、彼の夢を見た。でも、いつか無くなってしまうのだと思うと、夢でさえ触れられなかった。


 次の日、出かける事になった。彼が転移したという研究所を調査するそうだ。もともとあそこには顔を出す予定だった。行ったついでに、彼を問い詰めようか。黒だったらそのまま殺してしまおう、もし、白だったら…白の筈がない、




 研究所の奥、後ろから彼を刺した。


 あっけ無い。


 どうして、と聞かれた。あなたが眩しかったから、そんな事言えなかった。


 一体なんの話をしているのか、と聞かれた。自分でもわからなかった。


 よほど興奮しているのか、汗が頬を伝って落ちた。


 彼は一切抵抗しなかった。


 彼が後ろ、と叫んだ。咄嗟に剣を抜いてそれを切り払った。なぜ彼の言葉を信じたのだろう。


 □  □


 意識が戻るともう止めをさされる所だった。能力で防ぐのも間にあわないかもしれない、私には相応しい最期だ。


 その時、彼が間に割り込んできた。


 何故、自分を襲った相手を身を挺してまで守るのか、私には理解できなかった。倒れる彼を見て悲しむ私はもっと理解できなかった。

 

 いえ、理解しようとしていなかったのでしょう。今なら全部わかる気がします。



 △  △

  

読者の皆様ありがとうございます。カワウソです。

 もうちょいで終わります。一章の後は二章になるんですが、まだ二章が固まっていません。なので、その前にキャラとかその他設定の補足や、一章のネタばらしというか解説を入れて、二章までの時間を稼ぎたいと思います。


次回もよろしくおねがいします!

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